エピローグ
「……なぁ、あの時さぁ……」
「えっ、あの時?……いつの事?」
特殊祭祀法人のグラウンドで、ベンチに並んで腰掛けていた佑真が零に尋ねた。
「そ、その……俺が……。ほら、お前が……窓に小石でさ……」
「あぁ〜、あの時ね。それが?」
「だからさ……肝心な時に引きこもってたからさ、よく怒って窓割らなかっなぁ、って思ったんだよ」
「な〜んだ、あの時全然怒ってなかったし……(それよりも怖かったんだよ、佑真が壊れるんじゃないかって)」
「……ん?なんだよ。急に黙って……」
「何でもないよ!さぁ、行こう!」
零は、佑真の背中をバチンと叩くと走り出した……。
建物の窓には……グラウンドを見下ろす榊と島田が、その二人を見つめている。
「あの二人、幼なじみらしいですが、姉弟みたいに見えませんか?」
島田がそう言うと、榊が遠い空を見上げて目を細めた。
「本当に……まるで天照と月読のようですね。もしかしたら、神話には続きがあったのかもしれませんね……」
「続き、ですか?」
ふと、島田の視線が手元の観測データに落ちた。
そこには、地底へと鎮まったカグツチの熱と入れ替わるように、遥か空の彼方へと遠ざかっていく、微かな黒い光の軌跡が記録されていた。
……それは、かつて眩しすぎる光に惹かれた。だが、その強すぎる引力によって弾き飛ばされ、長い闇を彷徨った孤独な彗星だった。
一瞬の閃光となって燃え尽きることを望んだ彗星だった。
だが……最後には、月のような穏やかな反射光によって、その核を温められた。
二度と戻らぬ暗闇へと去るその背中は、今はもう凍えてはいないだろう……。
二人の影が、冬の光を浴びて長く伸び、重なり合いながら遠ざかっていく。
その光景は、どんな神話よりも美しく、希望に満ちていた……。
(完)




