第十四話 日常のはじまり
眩い純白の光が収まったとき、不気味な地鳴りは嘘のように消え去っていた。
吹き荒れていた熱風は凪ぎ、その代わりに森の冷たく、清々しい空気が広場を吹き抜けていく。
空から降っていた黒い灰は、いつの間にか光を透かす柔らかな白い結晶へと変わり、静かに大地を清めるように降り積もっていた。
「……終わったんだね」
佑真が力なくその場に座り込む。
右掌には、もう熱も痛みもなかった。
「ええ……。あなたが、終わらせたのよ」
隣に駆け寄った零が、泥と灰に汚れた佑真の肩をそっと抱き寄せる。
その温もりは、佑真を強く現実へと繋ぎ止めていた。
祭壇の上には、真っ白に燃え尽きた杉の枝と、力を失い透明な石の欠片に戻った月長石が転がっていた。
少し離れた場所では、望月が呆然と自分の手を見つめている。
漆黒の闇に染まっていた彼の掌には、もう何も残っていない。
だが、駆け寄る島田の部下たちに大人しく両手を出した彼の表情には、どこか憑き物が落ちたような、安らかな寂しさが漂っていた。
「……佐倉くん」
島田が歩み寄り、眼鏡を拭きながら佑真を見下ろした。
「不帰山の数値は、完全に安定しました。カグツチの火は、本来あるべき地底の奥底で、再び静かな眠りについたようです。……君が、また世界を救った……いや、攻略したんだね。ありがとう」
佑真は小さく頷き、白く染まっていく山並みの向こうに、ゆっくりと昇り始めた朝日を見つめた。
数日後……佑真の自室は、以前と何も変わらない配置のままだった……が、カーテンは大きく開け放たれ、冬の柔らかな光がデスクを照らしていた。
佑真が慣れた手つきでパソコンの電源を入れると、モニターにログイン画面が浮かび上がった。
チャットルームを開いた瞬間、通知音が鳴り響く。
『サンサン、生きてるかー!?』
『おーい!あの後どうなったんだよ!』
『山が光ったの、全国ニュースになってたぞw』
『とにかく、お疲れ様!』
画面を埋め尽くす仲間たちの言葉……かつては、現実逃避の為だけの道具だった……この文字たちが、今は外の世界と自分を繋ぐ、確かな絆の証として感じられた。
佑真は、あえてヘッドセットを付けず……キーボードに指を置き、少しだけ考えてから、一文字ずつ丁寧に打ち込んだ。
【みんな、ありがとう。ただいま。】
エンターキーを押すと、彼のメッセージは光の波に乗って、誰かの居場所へと飛んでいった……。
ふと背後で扉が開く音がした。振り返ると、そこには私服姿の零が立っていた。
「佑真、準備はいい?」
「……うん。行こう」
佑真は椅子から立ち上がり、自分の足で一歩、床を踏みしめる。
もう、画面の中の安全地帯を必要とする臆病な自分はいない。
玄関を開けると、眩しいほどの青空が広がっていた。
佑真と零は、並んで新しい日常の中へと歩き出した。




