第十三話 共鳴
佑真の足が、震える大地を力強く踏みしめる。
地割れから吹き出す熱風が頬を焼き、舞い上がる火の粉が視界を遮るが、彼の右掌に宿った……覚悟の炎は、一歩進むごとにその輝きを増していった。
「阻止しろ! 火之迦具土神の遷座を邪魔させるな!」
望月の鋭い号令によって、黒服の男たちが一斉に牙を剥く。
だが、彼らが佑真に触れるより早く、横から強烈な光の束が男たちの視界を奪った。
「佑真、そのまま進んで!」
零が、高出力の懐中電灯を構え、果敢に男たちの包囲網を攪乱する。
「佐倉くんの道を作れ! 総員、展開!」
島田の怒号が響き、特殊防護服に身を包んだ部隊が、低周波遮断シールドを左右に広げて佑真の両脇を固めた。
それは、かつての戦いよりも、さらに強固な信頼で結ばれた陣形だった。
「……愚かな。一人の少年のために、そこまで……命を懸けるというのか」
祭壇の前で、望月が月長石を強く握りしめる。
その瞳には、焦燥を塗りつぶすかのような狂気が宿っていた。
佑真は、ついに祭壇の前に到達し、自分の名前が刻まれた杉の枝、そしてその中心で輝く月長石へと手を伸ばす。
触れそうになったその瞬間、凄まじい衝撃波が広場を駆け抜けた。
中心に据えられた巨大な月長石が、限界を超えたエネルギーに悲鳴を上げ……甲高い音を立てて、左右真っ二つに叩き割れたのだ。
「……なっ!?」
望月が思わず、驚愕して目を見開いた。
割れた石の半分、望月が掴んでいた破片は、漆黒の闇のように黒く変色していった。
周囲の光をすべて吸い込み、どこまでも冷たく沈んでいくような絶望の色に……。
対して、佑真が触れたもう半分の破片は、彼の掌の熱に呼応するように、鮮やかな炎と同じ深紅と虹色に染まった。
それは、火之迦具土神の荒ぶる熱を、佑真という……人間の温もりとそれぞれの絆が包み込み、虹色の生命の輝きへと変えた……勇気の色だった。
「そんな、馬鹿な……我らの純粋な闇を、君の未熟な熱で汚すというのか!」
望月は、黒くなった石を握りしめ、憎悪を込めて超低周波を叩きつけた。
黒い石から放たれた不協和音が、佑真の鼓膜を破らんばかりに襲う。
しかし、佑真は一歩も引かない。
深紅と虹色に染まった石を、祭壇の杉の枝へと強く押し当てた。
「汚してなんかいない……!これは、あんたが捨てた……苦しみと痛みの熱だ!」
すると、佑真の叫びと共に、赤い石から溢れ出した炎の波紋が、杉の枝を伝って地底へと逆流し始めた。
「俺は一人じゃない……この熱は、俺を待ってくれている人たちの心だ。温かさというエネルギー(熱)なんだよ。これを受け取れ、カグツチ!あんたが欲しかったのは……すべてを焼き尽くす孤独な闇じゃないはずだろ!」
赤い光と黒い光が、杉の枝を境界線にして激突し、激しい火花を散らす。
地割れから吹き出す煙が、赤と黒の渦となって天を突いた。
その時、佑真の耳に、脳を揺さぶる低周波の障壁を突き抜けて、確かな音が届いた。
それは、島田の持つ受信機から漏れ出した、雑音混じりだが……ネットの向こうでの心強い仲間たちの声だった。
『サンサン、踏ん張れ!』
『そうだ、そうだ!』
『今、山が光った!いけー、攻略するんだぞ!』
「……聞こえるか、望月さん。これが、あんたが……眩しくて騒がしいと切り捨てた、世界……作り物じゃない本当の音(声)なんだ!」
佑真がさらに力を込めると、深紅と虹色の輝きが、黒い闇をじりじりと押し戻し始めた。
祭壇の杉の枝が、限界以上のエネルギーを流し込まれ、真っ白な光を放ちながらパキパキと音を立てる……。
逆巻く火柱の中で、救いを求めるように……望月は空を見上げた。
厚い雲と噴煙の向こう側……そこには、もう彼を繋ぎ止める光は見えなかった。
「ずっと……探し続けていたんだ。あの日、私を引き寄せ、弾き飛ばした……あの眩しすぎた光……」
彼の指が、虚空を掴むように震える。
「ち、とせ……」
掠れた声で呟かれたその名は、誰にも届かず、地鳴りによってかき消された。
だが、その瞳に映っていたのは……凍えきった孤独な旅人の、祈りにも似た絶望だったのかもしれない。
「くっ……あああああッ!」
ついに望月が膝をついた。
彼が掴む漆黒の石には、ひびが入り……そこから佑真の絆の熱が逆流しながら、更に焼き払っていく。
「さぁ……カグツチ、一緒に帰ろう。暗闇じゃなく、この騒がしくて……温かい元の場所に……」
佑真が、そう言って杉の枝に掌を押しつけた……その途端、広場全体が目も開けられないほどの純白の光に包まれた。




