プロローグ
はるか昔、そこには三つの理があった。
すべてを白日の下にさらし、形を与える光。
すべてを呑み込み、無へと帰す底なしの闇。
そして、その狭間に立ち、静寂を以て両者を繋ぎとめる陰。
荒れ狂う海の中に建つ、一本の鳥居があった。かつて、それは強固で、決して揺らぐことがなかった。けれど、ある時ふいに、その均衡が崩れたのだ。
光は、自らの潔白を証明するかのように岩戸の奥へと隠れた。
そして、陰は力と存在を消した。
大きな力を欠いた世界には、命をも呑み込もうとする深い闇が押し寄せた。
あの日、彼女が光を断ったのは、世界を呪ったからではない。
光が強まるほど、その背後に落ちる陰もまた、深く、濃くなるのだ。
境界を支えていた陰の力が、その重みに耐えきれなくなった……静かに、摩耗していっただけのこと。
それは、遠い神代の底に沈んだという、古い記憶……。
その物語は、まだ終わっていないのかもしれない。
現代という名の、光の中に深い闇が混在する世界がある。
ふたたび岩戸を閉ざそうとする……厳しくも強力な光。すべてを塗りつぶそうとする……黒波のような闇。それらが、何度も、何度も打ち寄せている。
その狭間で、今にも壊れそうな、ひとつの魂があった。
繰り返される、潮の満ち引き。静かなる月光が、今ふたたび深淵を青白く浮かび上がらせようとしている。




