表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

6.平和な世界で(1)

その日の朝。ルティナは仕事を求めて街を歩いていた。

昨日の出来事が尾を引き、人だかりを避けて廃れた通りへと足を向ける。

通称、クエストロード ──

旅に必要な武器や防具、道具の一通りが手に入る王都一の繁華街だ。

だが、いまは人影もまばらで、賑わいの名残すらない。


「昔は、賑やかだったのに……」


先日まで開いていた防具屋の扉には「閉店」と書かれた紙が貼られていた。

平和になり、もう誰も買わなくなってしまったのだろう。

ルティナは、自分と似た境遇に胸が締めつけられる。


「ちゃんと返す気あんのか!!」


怒号が響いて、ルティナは思わず肩を震わせた。

振り向くと武器屋の店主が、誰かに頭を下げている。


「も、もう少しだけ……あと少し待ってください」


「先月も同じこと言ってたじゃねえか!

 防具屋みたいに飛ばれたら困るんだよ!」


昨日、自分を笑い者にした男だった。

けれど今の姿には、不思議と同情が芽生える。


魔王さえ討伐されれば、人々は皆幸せになると思っていた。

だが現実は ── 多くを失ったのは、自分だけではなかった。

しかし、平和になったあとの世界まで背負うことはできない。

ルティナは現実から目を背けるように歩き出す。


向かったのは、騎士の名門・ウインスキー侯爵家の屋敷だった。


「お金を稼ぐために……

 キールを頼ってきたけど……」

 

もう、頼れるのは彼しかいない。

けれど ── あの夜の光景が蘇り、息が苦しくなる。


(もし、彼が勇者になっていれば……)


あの日を境に、ふたりの間にはわだかまりが生まれた。

会話もできないまま、離れていった。


勇者が旅立つ数日前、

キールは軍を率いて、魔王領への道を切り拓くために出陣した。

経験の浅いジンに代わり、激戦の露払いを買って出たと聞いたとき、

自分との距離が、決定的に開いたようで胸が痛んだ。


「……やっぱり、帰ろう」


彼の覚悟を無碍にした自分が、雇ってほしいなど──言えるはずがない。

踵を返そうとした瞬間、鉄格子の門がきしんだ。


「ギィ……」


屋敷から現れたのは、キールと、見覚えのある男。

ルティナは咄嗟に物陰へ身を隠す。


「すみません、面倒なことに巻き込んじまって……

 金の相談なんてできるのは、キール様だけなんです」


その声を聞いた瞬間、ルティナの中で何かが弾けた。

あの男 ── 自分の支度金を奪った傭兵だ。


「別に、トニックが気にすることじゃない」

「説得できるかわからないが、

 もう一度、王太子殿下に掛け合ってみよう」


帰るはずだった足が止まる。

次の被害者を生むわけにはいかない。

まして、それが善良なキールならなおさらだ。

物陰から姿を現し、冷静に言い放つ。


「あなた……私からお金を盗った人ですよね?」


突然のことに、男の目がぎょっと見開いた。


「な、なんだ、お前は……!」


「今度はキールから盗るつもりですか!」


キールは声を聞き、振り向く。

そこに立つ女を見て、眉を寄せる。

そして、信じられないというように呟いた。


「……もしかして、ルティナか?」


それは五年ぶりに見る、変わり果てた“聖女”の姿だった。

修正させていただきました。(11/11)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ