3.勇者聖約の儀(2)
神殿から一筋の光の柱が立ち上がり、
勇者の誕生を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。
その音を聞きつけ、神殿前の広場には多くの民が押し寄せる。
魔王が世界に影を落として十数年──
世界中の誰もが、今日という日を待っていた。
「ついに……
約束の日が訪れました」
疲れ切った人々を励ますように、ルティナは夜明けの訪れを告げる。
「女神プリローダ様が
勇者をお選びになったのです」
ルティナは、貴族や王族の列に立つ一人の少年に目を向けた。
その幼さを隠せない顔に、不思議な凜とした強さが宿っている。
「勇者ジンよ」
名を呼ばれた少年は、ルティナの前に歩み出ると膝をついた。
細い指は震えていたが、彼は懸命にそれを抑え込んでいる。
(まだ……子供だわ)
歳は十五か十六。顔にはまだ幼さが残っている。
彼が背負うにはあまりにも重い魔王討伐の使命。
ルティナの胸が、張り裂けるように痛んだ。
人類は、今回で五度目の魔王討伐に挑む。
魔王は百年ごとに、姿も呼び名も変えて再誕し、世界に災厄をもたらした。
その度に、女神は救いの手を差し伸べ、
勇者を選び、神の力を授けて人類を救済してくれている。
その慈悲深き女神プリローダが選んだ少年だ。
心配に思う必要などないのだと思う。
その証拠に、少年の瞳は恐れより決意を宿し、震えていた手は、
もはや強く握られている。
ふと、夢で見た“魔王”の姿が脳裏をよぎり、
胸の奥の小さなざわめきが鼓動を早くした。
(あれは、ただの夢よ……)
嫌な記憶を追い払うように小さく息を吐き、ルティナはジンに微笑む。
「あなたに魔王討伐の
力を授けましょう」
ジンはまっすぐにルティナを見上げ、強くうなずいた。
ルティナが指に聖力を込めて額へ触れると、
眩い光がほとばしり、神殿の天蓋に反射する。
少年の額に、聖なる文様が輝き始めたのだ。
「女神様の
加護があらんことを!」
祝いの声が満ちる神殿で、ただひとり── キールだけが動かずに立っていた。
その瞳には、深い自責の色が滲んでいる。
ふと向けられた視線に気づいた瞬間、
ルティナの胸はぎゅっと疼き、申し訳なさからそっと目を伏せた。
「……ごめんなさい」
届くことのない、小さな呟きだった。
※修正させていただきました。(11/9)
4話以降も徐々に修正しアップいたします。
どうぞよろしくお願いいたします。




