第8話:禁じられた一言
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
「センねぇあかんて! あの女絶対怪しいで!」
「ダメだよイサム君、人を見た目で判断しちゃ。
アルビノの人っていろいろ大変なんだよ」
現代人感覚で言えば美しく見えるアルビノ。
モデルとして活動している有名人もいたが、
視力の他にも免疫系でいろいろと普通に生きる上で
不都合が起きることが多いらしい。
そういった身体的な問題もそうだが、
それ以上の問題はその見た目に向けられる好奇の目。
特に科学と文化が未発達で、
迷信を信じてしまいがちの環境では
普通に生きていくことすら難しいという。
これ以上はあまり触れるべきではないだろう。
「いや見た目の問題じゃないんや!
なんていうか、その、よくわからんが、
わいの直感で、あの女は、なんか……」
「イーサーム。それ以上続けると私、怒るよ?」
「う……」
実際問題、イサムがノアを怪しく思う理由は
直感以上のものがない。
普段滅多に怒らないリンネから
そう凄まれてしまっては、
イサムもこれ以上なにも言えなくなってしまう。
「それじゃ、私、ノアさんに酒場に呼ばれてるから。
ごめんねイサム。今日のご飯は一人で食べてね」
「センねぇ! わいは……!」
「……うん、ありがと。わかってるよ。
でも、今回は。ごめんね」
「……っ」
実際、イサムが自分を守ろうとしてくれていることは
リンネにも理解できていた。
いろいろとおっちょこちょいで
心配なところのある私のためわざわざ旅にまで
ついてきてくれたのだろうと。
それでも、今日会ったのは久しぶりに
出会った元の世界の住人。
それも、かなり意気投合出来てしまうオタク友達。
もしもイサムの直感が正しいとしても、
今のリンネにノアの誘いを断ることなど
できようはずがなかった。
特に、一度心が折れかけてしまっていた、
今日のリンネには。
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「おーい、こっちこっち」
先に酒場で席を取っていてくれたノアは、
また最初の時同様のぐるぐる眼鏡だった。
全身を覆う黒いローブに、
顔の見えにくいフードと、あの眼鏡。
これらはすべて、アルビノの彼女が
この世界で生き抜くための変装なのかもしれない。
そう考えると少し悲しい思いが
湧き上がってしまうのだが……
「はいはい駆け付け一杯」
「だ、ダメです! 未成年!
私未成年です! 17歳!」
「いいのいいの、それ、日本の法律でしょ?
飲酒可能な年齢は国によって違って、
世界全体で言えば17歳は解禁されてる国の方が多い。
加えて言えば、この世界にはそもそも
飲酒に関する法律がないわ」
「あー! なら苦手だから!
お酒苦手だからです!」
「……なら仕方ないわね。はいぶどうジュース」
「いただきます!」
そんな思いを吹き飛ばすほど、
ノアさんは明るい人だった。
「で? どうしてあなたは、
ヒーローショーなんてやってるの?」
「……それは」
出された焼き鳥を半分かじり、皿に置いて。
「魔王軍が、許せないんです。
私の……私の大好きな特撮で、
人を恐怖させ、不幸にする人たちが」
「……なるほどね」
からん、と氷が溶ける音が響く。
ノアは追加の酒を頼んでから、
カウンターに肘をつき、フードを深く被り、
その癖のある赤髪をいじりはじめた。
「魔王軍。世界を侵略する特撮映像を作る人たち。
ねぇ、リンネ。どうして魔王軍は、
そんなことしてると思う?」
「効率的な世界征服の手段だと思います。
戦わずして、土地を奪うことができている……」
「なるほどね。確かに魔王軍に怯え、
世界の人は南へ南へと移住を続けている。
けど、非効率的だと思わない? それ」
「非効率的?」
「だって私が魔王軍と同じことができるなら、
人を追いやったりしないで、
襲わない条件としてお金や資源を受け取るもの」
「……あ」
確かに。確かにその通りだ。
というか、最初はリンネもそう考えていた。
しかし、旅の中で大勢から話を聞いても、
魔王軍がそのような恐喝めいたことをした話を
一度も聞いたことがないのだ。
彼らの映像からしても、
愚かな人類は殲滅の対象としか話しておらず、
交渉の余地を見せずにすべての町を
焼き払う恐怖映像のみを見せつけていた。
「土地を奪うだけでも十分世界征服ね。
けど、奪った土地はどうするの?
あなたも見たでしょう? 放棄された耕作地。
半端に人の手が入った土地は
むしろ再生が大変になるわ。
魔王軍にはそれだけ大勢の人がいるの?」
「それは……確かに……」
言われてみれば、その通り。
考えれば考えるほど、魔王軍の目的が
わからなくなってしまう。
「彼らは本当に、悪と言えるのかしら?」
「…………」
わからない。今のリンネには、わからないのだ。
「……質問を変えましょう。
魔王軍の特撮から、あなたは愛を感じた?」
「愛……?」
「そう、愛。特撮への愛。
CG全盛の今、あえてCGを一切使用せず
高いコストと手間暇をかけて特撮を作るなんて
愛がなければできないことだわ。
あなたは、魔王軍の映像から愛を……」
「……そんなの、言うまでもないです」
リンネは悔しそうにぶどうジュースを一気飲みし、
ドンとグラスをカウンターに叩きつけた。
「感じるからこそ、悔しいんです!」
ぷるぷると震える腕に、
ノアは優しげに白い手を重ねる。
「良い子ね、あなたは」
「……ぅ」
優しく、優しくノアが囁く。
「あなた、スーツアクターを目指してたの?」
「っ……!」
ビクッ、とリンネの背中が震える。
「ここから先は、頷くか、首を振るだけでいいわ」
「…………」
リンネは首を縦に振る。
「身長が、足りなかったのね」
「…………」
リンネは首を縦に振る。
「それでもまだ、諦めたくなかったのね」
「…………」
リンネは首を縦に振る。
「この世界でなら、ヒーローになれる。
そう思ったのね」
「…………」
リンネは首を縦に振る。
「そのために魔王軍には悪であって欲しいのね?」
「違いますっ!!」
リンネはノアの手を振り払って。
「違い……ます……!」
(ふっ……)
ノアはその涙から目を逸らすように視線を外して。
(堕ちたわね)
もうここまで見ていればわかる通り。
一見ただのオタクであるノア、
彼女の正体は魔王軍四天王レッド・ノアである。
その目的は、リンネを魔王軍に勧誘すること。
リンネのトラウマを見抜き、
さりげなくアルコール入のぶどうジュースを飲ませ、
酩酊で思考力を奪った上で、トラウマを抉る。
その状態で、あえて一度突き放させた上で、
優しい言葉を囁いてやれば……
「あのー、リンネ・セーデルルンドさんですよね?」
(……ちっ)
あと一歩というところで
他人から声をかけられてしまう。
まぁ、リンネは有名人だし、
その特徴的な白いブレザーは
どこにいても目立ってしまう。
「あ、はい……そうです……
肥料の件なら明日以降、イサムに……」
「あぁ、いえ。肥料の件といえば、
肥料の件なのですが……」
話しかけた男はリンネに紋章付きの指輪を見せ。
「私、とあるお方の騎士をしている者です」
「騎士様……?」
予想外の割り込みに、目を細めるノア。
指輪は本物に見える。騎士だとすれば、
魔王軍の自分が今ここで下手な動きはできない。
なにせ魔王軍四天王とは名ばかり、
実際はただの特撮技師でしかないのだから。
「あの肥料、特殊な行程を加えれば、
爆発させることができるんですよね?」
「あ……は、はい……」
「その方法を教えて欲しいのです」
「……何のために、ですか?」
「私の主人は水晶鉱山を持っております。
その掘削に爆発が使えると思いまして……」
「…………」
ノアは呼吸を整え、覚悟を決める。
その回答次第ではここで。
(この子を、始末する)
魔王軍が持つ特撮の技能。
それは、使い方によっては
本当に世界征服が可能になってしまう。
リンネが想像しているように、
情報戦をもって人々を騙し、行動を誘導する。
だが、方法はそれだけではない。
特撮に使用される爆薬。
それはこのレベルの科学水準の世界なら
圧倒的な力を持つ武器になる。
その他にも……
(フィルムの現像に使用するカラー現像液。
これも、人を殺すに十分すぎるほどの毒性がある)
ノアは思う。魔王軍は、この世界の異物。
自分たちが持つ、特撮技術で……
(世界に不幸を撒くことは許されない)
ダイナマイトは確かに、
鉱山の採掘のために開発された。
しかし、それが実際はどこで使われたかは
推して知るべしである。
存在しない魔王軍を相手にドン・キホーテのように
騎士たちが北へ行軍するなら、別に構わない。
だが、その矛先が同じ人間の国に向けられたら。
魔王軍が行動をはじめて以後、
人類は人類同士で争う余裕を失った。
だからリンネも、もう使われない攻城櫓を
カネで買うことができたのだ。
使い勝手のいい爆弾。
そんなものを水晶鉱山を持つほどの領主と
その騎士団が手に入れたら……
「いいですよ、教えます」
「本当ですか!?」
ノアの瞳が、曇る。
(残念ね。リンネ・セーデルルンド。
あなたは良いオタク友達になれたかもしれないけど
その思慮の浅さがいけないのよ。
まぁ、安心しなさい。後で責任もって、
あの弟みたいな子も同じところに送ってあげるわ)
ちらりと横を見て一瞬の隙をつき、
追加で届いたばかりのぶどうジュースに
カラー現像液を、混ぜる。
彼女の仕事は、ここで終わ……
「簡単です。お尻を出して踊るんです」
「なるほど、お尻を……お尻を?」
……はい?
「あの爆発、太陽の火に似ていませんか?」
「え、えぇ、確かに……」
「そしてこの肥料がうんちから作られること、
もう知ってますよね?」
「はい。確かにそう作られていると……」
「ですから、お尻を太陽に向けて踊るんです。
するとお尻の穴から太陽のエネルギーが
うんちに流れ込んで、爆発の種になるんです」
「なるほど!!」
なるほど??
「1日6時間以上、常に太陽の方向にお尻を向けます。
で、次の日に出たうんちで同じ肥料を作ります。
あとは出来上がった硝石に、よく日を当てた
パンツの布を細かく切って混ぜて完成です」
「素晴らしい! これさえわかれば隣国の……」
「隣国の?」
「あ! い、いえ、隣国の鉱山にも
使い方が広められるなと!」
「なるほど! 是非広めてくださいね!」
「はい! ありがとうございます!」
と、最高の笑顔で去ろうとする騎士に対して。
「ちょっと待って」
「ん? あなたは……」
笑顔を作って見せて。
「駆け付け一杯、どうぞ」
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ワイングラスを受け取った騎士は、
ぐいっと一気にグラスを空けた後、顔を歪めた。
まぁ、酒には当たり外れがある。
特にこの世界の酒は、現代のように
大きな工場で大量生産されているものではない。
こういう苦いワインを引いてしまうのも
そう珍しいことではなかったのだろう。
ポケットからカネを出そうとしたところを、
ノアがジェスチャーで「いい」と返す。
騎士はぺこりと一礼し、そそくさと出ていった。
「いいの? 嘘教えちゃって」
「ほんとのことこそ教えられないでしょ」
「確かにね」
ふふっ、と、ノアは笑う。
追加で頼んだぶどうジュースと焼き鳥。
それを肘で押してリンネの前に出して。
「改めてなんだけど、リンネ。
あなた……」
「おっそーい!! もうええ時間やで!!」
再度ぴくりとノアの顔が歪む。
「え? イサム?」
「センねぇ遅いで! ほら!
今日はもう終わり! 終わりや!
宿の門限に間に合わんで!」
「あっ! そういえば!」
ちらりと申し訳無さそうにノアを見ると、
優しく笑顔を作って軽く手を振られた。
「じゃ、じゃぁまた!
また今度、お話聞かせてください!」
「えぇ、そうね。その時はあなたの好きな
ウルトラシリーズのエピソードの話をしましょう。
ちなみに私はマンの33……」
「はいはい帰るで帰るで!」
イサムに手を引かれて連れて行かれてしまう
リンネだったが、そこでノアが叫ぶ。
「あ!」
「ん?」
「なんやなんや」
ぺろりと舌を出して。
「……勇者さん、割り勘でいい?」
この物語は第一章最終話まで書き上げたものを
予約投稿して公開してるの。
毎日22時20分更新で全18話、
第一章最終話は11月4日になるわ。
文字数は約10万文字で、普通のラノベ1本分くらいね。
気に入った方は前作もよろしく。
★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る
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異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚
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★全員クズの勇者パーティの中に
裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり
全員が暗躍しはじめる話。
このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!
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