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異世界を恐怖で支配する魔王の力は全部特撮なのにこの世界の人たちは私の言葉を信じてくれません! ~総天然色異世界~  作者: 猫長明
第1章:異世界を恐怖で支配する魔王の力は全部特撮なのにこの世界の人たちは私の言葉を信じてくれません!

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第5話:レッドに気付かない

この物語はフィクションですが、

登場する人物・団体・名称等は、

実在のものが意識されています。


本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく

全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。

この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を

作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。

 たどり着いた村や町で爆発を絡めた

 ド迫力のヒーローショーをやり、

 人々の魔王軍への恐怖を払うと共に

 農業のための肥料を届ける。

 勇者リンネの旅のスタートダッシュは順調だった。


 旅の路銀としていくらかのお金と

 火薬の元となる硝酸カリウムを持ってきてはいたが、

 当然無尽蔵にあるわけではなく、

 いずれ尽きるはずのものだった。しかし。


「センねぇ! おとんとおかんから

 金と粉と手紙が届いたで!」

「ホント!? イサム、怒られてない?」


「はは。まぁ、ちぃとは小言が書いてあったが、

 そんなに気にしてはいなさそうやで。

 むしろ怒ってる内容も、

 センねぇの邪魔にならないようにってくらいや。

 で、とっとと世界救ってセンねぇといっしょに

 家に帰ってこいって」

「……そっかぁ」


 リンネは軽く息を吐いて目を瞑り。


(ありがとう。

 この世界の、お父さんとお母さん)


 そして。


(……ごめんなさい。

 私を産んでくれた、お父さんとお母さん)


 少しだけ、センチメンタルな気分になった。


「ところでイサム、それは何?」

「あぁ、これか。ええと、ある程度信用できる

 商人との取引にだけ使える

 お金の数字の書かれた布片で……」


「あ、小切手のこと?」

「そうそれや!」


 ちなみに額はわりととんでもないらしい。

 といっても戦後にオプチカル・プリンターが

 買えた程度の額ではないだろうが。


 さて。ここで少々横道にそれるが

 何度か名前の出ているこの

 オプチカル・プリンターについて

 簡単な説明をしておこう。




 オプチカル(Optical)プリンター(printer)、光学合成機。

 映画の撮影カメラと接続される複数の小型映写機の

 組み合わせであり、日本の特撮においては

 怪獣の吐く熱線や巨大ヒーローのビームや光線を

 作り出すために用いられた特殊な機材だ。


 現代ならスマホのカメラとアプリで

 誰でも簡単にできる加工技術なのだが、

 スマホはおろかコンピューターもなく、

 CGだってなかった時代。

 光学合成は極めて高度な撮影技術であり、

 そのためのこの特殊機材も貴重なものだった。


 もとい、貴重なんてものではない。

 何故なら当時、世界にオプチカル・プリンターは

 たった2台しか存在しなかったのだから。


 アメリカに2台だけあったオプチカル・プリンター、

 そのお値段は当時の価格で4000万円。

 現代の価値にして、約10億円である。


 1937年、そんな超高額機材を

 電話一本で取り寄せた日本人がいた。

 彼は大企業の社長でも、研究所の教授でもない。

 ただの雇われ社員だった。その人物の名こそ……


 特撮の神様、円谷英二つぶらやえいじである。




(そもそも現代とは通貨の仕組み自体

 ちょっと違うんだけど、大根の値段を参考に

 ビックマックレートで価値を考えるのなら……)


※ビックマックレート

 世界中に店舗を広げるファーストフード店の

 看板メニュー「ビックマック」がいくらで

 売られているかを比べることで、

 国々の貨幣の価値を計算する方法のこと。

 日本のビックマックが480円であるに対し

 その国のビックマックが7.2ミャゴミャゴだった場合

 1ミャゴミャゴは66.6円である。


(……600万円分の小切手かぁ。

 17歳の女学生が持つ額じゃないなぁ)


 とまぁ、オプチカル・プリンターは買えないが、

 それにしても超高額であることには間違いない。


 しかもこれがわりと今後定期的に届くのだろうから

 少なくともリンネのこの旅、

 お金の心配は一切必要ないということだ。


 まぁ、お金を落とすような

 ゲーム的な野良モンスターはいない世界だ。

 素直に助かると言って良いだろう。


 いや、むしろ……


「……多すぎない?」

「遊び放題食い放題やで!」


 と、言ってはみたものの。

 この世界は娯楽がお金で買えるほど

 平和な世界ではない。

 普通の旅では余りすぎて困る額だ。


 なにより、使える場所も多くない。

 少なくともかなり大きな町でなければ

 貨幣に交換することもできないだろう。


「でも、良かった。

 お父さんとお母さん、信じてくれたんだ。

 確かに物凄く多い……けど。

 ちゃんと特撮をやるなら、まだ少ない」

「まじでぇ?」


 そう、足りない。全然足りない。

 先ほどのオプチカル・プリンターの話でもわかる通り

 特撮は、カネがかかるのだ。


 現代で特撮が廃れ、CGばかりになった理由。

 それは何もCGが便利だからという話ではない。


 単純に、特撮はカネがかかる。

 いや、()()()()()()のだ。


「イサム君、次の村は?」

「んー、次は村というにはでかいで。

 最初の町よりも大きい。この辺で一番でかい。

 小切手も問題なく換金できるし、

 商人も大勢いて、いろんな道具が手に入るで。

 なんか欲しいもんあんのか?」


「なるほどね。それじゃぁ……」


 リンネはにやりと笑って。


「次は、派手にいくよ!」


挿絵(By みてみん)




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




 ざわざわと騒ぐ人々。

 これだけ大きな町ともなれば、

 勇者リンネの噂もある程度は届いている。


 当初のリンネを見る目は好奇のみ。

 しかしそこに今、様々な思いが加わっていた。


「あの子の言う特撮、すげぇらしいぞ」

「めっちゃかっけぇって噂で……」

「魔王軍が来ないと確証が持てれば商売をさらに……」

「俺なんかまた見たくて追いかけてきたんだ!」


 もはや本物のヒーローショーもかくやという状況。

 ある意味リンネはこの異世界で

 ヒーローの中の人になるという夢が叶っていたのだ。


 しかし、当のリンネ本人に

 夢が叶ったと喜ぶだけの余裕はない。


 何故なら、ここから挑む彼女のショーは、

 これまで以上に大掛かりなものだからだ。


「で、その姉ちゃんの名前は?」

「……なんだっけ?」


「せっちゃんとか、センちゃんとか、

 センねぇとか、セルルとか……」

「セで始まる名前なの?」


「リボルゲインとか、ギャバンとか……」

「それ人の名前か?」


「リ゛ボ゛ル゛ケ゛イ゛ン゛じゃなかったか?」

「この辺の言葉じゃ聞かない発音だなぁ」


「あ! そうそう! リンネ!

 凛音・セーデルルンドだ!」

「……リンネ」


「リンネ、セーデルルンド」


挿絵(By みてみん)


 そんな一同が集まるのは町から離れた荒野。

 普段はなにもないそこに、

 3つの見慣れないものが用意されていた。


「あの枠は、なんだ?」


 1つは人々が集められたエリアの目の前、

 リンネとの間にある木で出来た枠。


 左右60m、高さ15m。

 枠までの距離は10mといったところだろうか。


 ただの木の板で作られた枠で、

 他の2つに比べると適当な作りで

 何かの仕掛けもあるようには見えない。


 続いて2つ目は。


「攻城櫓……?」


 攻城櫓こうじょうやぐら

 魔王の恐怖が広がる前は都市国家同士での

 小競り合いが頻繁に行われており、

 その戦争で使われた攻城兵器だ。


 高さ20mの木製の塔で、

 底部は木製のタイヤが取り付けられており、

 大勢の兵士で押して移動する。


 石の壁で覆われた城塞都市を攻略するための兵器で

 中がはしごや階段になっているこの塔を

 都市を囲む石壁に隣接させ、壁を無力化する。

 なお弱点は雨と、地面のぬかるみ。


 最後3つ目は。


「あれもやぐらだよな。しかし……

 ガラスで作られてるのか?」


 ガラスのやぐら。高さは6m程度。

 ガラス精製技術の低さで微妙に曇って見えている。

 おそらくリンネとしては本当に透明に

 したかったのだろうが、精製技術の低さで

 完全な透明に出来なかったというのが実情だろう。


 しかし気になるのは透明度よりもその耐久性。

 間違いなく不安定で脆そうなそれは、

 足場とするには危険極まりないと言わざるをえない。


「もうちょっと近くで見てみようぜ」

「あー! ダメダメ!

 足元の線から出ないでくださーい!」


 と、近づこうとすると怒られてしまう。

 そうだ、バクハツというものが見せてくれるんだ。

 近づくとそのドンッと広がる炎の危険がある。

 そういう理由での線なのだとは思う、が。


「何故左右にも線があるんだ……?」


 その答えは一同にはわからない。

 あえて言うなら、この足元の線内からなら

 どこからでもガラスのやぐらが木の枠内に見え、

 攻城櫓は枠の外に見えているということだった。


「人の視覚を、いえ、カメラの画角を指定している。

 あの木の枠は、カメラのフレームということね」


 白い肌に赤い髪と赤い瞳に黒いローブ。

 所謂「アルビノ」の女性がぼそりと呟く。

 そんな彼女の隣にいた男性は

 ちらりと女性を見て首をかしげた。


(カメラって、なんだ……?)


 時刻は昼を過ぎての4時頃。

 まもなくリンネが指定した開演時間だ。


「よし……いくぞ」


 パンッと両手で頬を叩いて気合を入れる。

 今回はこれまでで一番舞台装置に気合を入れた。


 買い取った攻城櫓も、

 今回のために作らせたガラスのやぐらも、

 爆発の後では使い物にならなくなる。

 チャンスは1回、失敗は許されないスタントだ。


(……やれる。私はやれる。

 だって私は……ヒーロー(ヒーローの中の人)だから!)


 大きく深呼吸を挟んでから。


「みなさん、お待たせしました!

 これより、魔王軍の魔法……

 爆発の魔法の種明かしを行います!

 魔王の技は、すべて嘘! 特撮という嘘です!

 魔王軍など存在しない! 恐れる必要もない!

 今回のショーを見て、それを知ってください!」


 拍手でリンネを迎える一同。

 当のリンネは小脇にいつものカカシを抱えている。

 そのカカシを木製の枠の中央に立てると、

 大きく息を吐いて直立不動の姿勢を取る。


 ドン、ドン、ドンと打楽器の低音が響く。

 事前に雇った太鼓隊が太鼓を叩き始めたのだ。


「ダイナミック、ジャンプ!」


 叫ぶと同時に直立不動のリンネの足元に

 砂煙が上がる。その直後……


「じゃ、ジャンプ……いや違う!

 浮かんだぁ!?」


挿絵(By みてみん)


 ほぼノーモーション。

 しゃがんで勢いをつけることもなく、

 リンネの体が宙に浮かぶ。


 魔法としか思えない御業に驚く一同だが、

 既にここで数名はトリックに気付いている。


「あの攻城櫓だ!

 あそこから見えにくいロープで

 体を吊っているんだ!」


 そのまま7mほど浮かび上がったリンネは

 ガラスのやぐらの上に立って

 大の字のポーズを取る。が、その背後には。


「太陽を背負っててよく見えない!」


挿絵(By みてみん)


 計算された画角と時間。

 ちょうどこのタイミングで、

 リンネの頭の後ろに太陽が来るよう

 計算しての状況設定だった。


「すばらしい……」


 アルビノの女性がぼそりと呟く。

 目の前のリンネに身を乗り出しての

 釘付けになる観客達から一歩を引いて。


「科学剣」


 両腕を頭の上に伸ばしてから

 ぐるりと回して横に開き、

 そこからさらに両腕を重ねる。


挿絵(By みてみん)


 一方のリンネはそんな女性に気付く余裕がない。

 一発勝負で未経験のスタント。

 しかも足元のガラスの台座は既にパキリと

 割れる音をたてていた。


 彼女も彼女で、真剣な表情のまま、

 背中の大剣を引き抜いて右腕で振りかぶり、

 同時に右足の膝を軽く突き出す。


「科学剣!」


挿絵(By みてみん)


 アルビノの女性は両腕を斜めに上げた後で

 前に突き出し、引き戻し、胸の前でクロスさせ、

 右腕のみをライダーの変身ポーズのように

 左上に掲げた後で大きく一回転させ、

 手刀のフォームで振り落とす。


「稲妻、重力落とし」


挿絵(By みてみん)


「稲妻! 重力落とし!」


 ここで木の枠の上に仕込んでいた仕掛けが外れ、

 背景の太陽を遮る形で稲妻を描いた暗幕が落ちて。


挿絵(By みてみん)


「っ……!」


 無言でガラスのやぐらから飛び降りる。

 その踏み込みでガラスのやぐらは砕け散った。


 普通ならガラスの破片から身を守ろうとするか、

 もしくはいつものようにかっこよく、

 迫力のある斬撃ポーズを取るはずのリンネが。


 無言、無表情、直立不動の姿勢のまま。

 呆然と剣を前に構えて落ちてくる。


挿絵(By みてみん)


 最後に申し訳程度にカカリを斬って倒した直後、

 背後で大爆発。リンネはぐっと両腕で

 力こぶを作るようなポーズを取った。


挿絵(By みてみん)


 この一連のヒーローショーに対して

 観客一同の心はいつものように概ね1つになる。


(すごい爆発だ……!)

(すごい爆発だ……!)

(すごい爆発だ……!)

(すごい爆発だ……!)

(すごい爆発だ……!)

(すごい爆発だ……!)


 が、それと同時に。


(なんか噂に聞いてたよりしょぼい……)

(もっとかっこいいと思ってた……)

(動きが硬くてかっこわるい……)

(あれが人間の動きなのか……)

(全然ダイナミックじゃなかったぞ……)

(本気でやってんのかあれ……)


 期待を裏切られた感覚でも、1つになっていた。


 それが概ね1つにまとまった心。

 そんな中でただ1人、違う印象を覚えたのが。


(素晴らしいわ……)


 この、謎のアルビノの女性。

 いつものように始まった

 ヒーローショーの後で肥料セールスを無視して

 彼女は一人会場を後にする。


(そのチープなところも含めて、

 完璧なダイナロボ再現でしたね……)


 彼女は元ネタを知っている。

 それどころか、カメラすらも知っていた。

 つまり、彼女の正体は。


(けど、ダメね。所詮はただの特撮オタク。

 芸大生がダイコンで出すレベル。

 カメラ無しでよくやっているとは思う。

 けど、それでもあなたでは……)


私達まおうぐんは、倒せないわ」


挿絵(By みてみん)

この物語は第一章最終話まで書き上げたものを

予約投稿して公開してるの。

毎日22時20分更新で全18話、

第一章最終話は11月4日になるわ。

文字数は約10万文字で、普通のラノベ1本分くらいね。




気に入った方は前作もよろしく。


★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る

 鉄オタエルフの奮闘記。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】

挿絵(By みてみん)




★全員クズの勇者パーティの中に

 裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり

 全員が暗躍しはじめる話。


このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!

https://ncode.syosetu.com/n7991lc/

【Nコード:N7991LC】

挿絵(By みてみん)

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