第4話:大変だ!魔王の異世界侵略計画を阻止せよ
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
特撮の技術を使用し、
嘘の魔王軍による嘘の侵略映像を作成し
人々を恐怖で支配しようと企む悪の職人集団。
ヤツらの野望を打ち砕く旅に出た
特撮オタクの女子高生リンネと
彼女についてきたこの世界の少年イサムは
一路南へと向かっていた。
「センねぇ。なんで南なんや?
魔王軍は北を支配してるんやで?」
「いや、魔王軍は南にいる。北に絶対いないよ」
首を傾げるイサム。それはおかしい。
魔王軍は遥か北の大陸を支配し、
そこから南を目指して侵略の手を伸ばしているはず。
ヤツらは映像の中でそう言っているし、
皆それを信じて南へと逃げているはずだ。
「イサム、私達の旅の目的は?」
「魔王軍なんておらん。全部特撮の嘘。
それを暴くための旅やろ?」
「なら、魔王軍は北の大陸を支配してるのかな?」
「……しとらんわな」
「北へ向かうと、北の大陸との交易がある
商人さんがいるかもしれない。
そんな人に魔王軍の話をしたら?」
「笑われて終わりや」
「そう。だからこそ、魔王軍は南にいる。
いや、南かどうかはわからないけど、
少なくとも絶対に北にはいないんだよ」
「ほぇー……」
思わず感嘆の声を漏らしてしまうイサム。
リンネの知識量は圧倒的で、
とても理解できない謎の単語含みの話をする。
それはあくまで知識量の差で
もしも同じことを知っていれば
イサムにも語られる話のはずだ。
少なくとも肥料や火薬の作り方は
もう彼にも説明できる。
だが、知識だけでなくリンネは単純に頭がいい。
今の話にしても、言われてみれば当然だ。
にもかかわらず、今の今まで自分は
魔王軍を目指して北に進むべきだと考えていた。
先入観が、払拭できなかったのだ。
「なぁセンねぇ。
センねぇはなんでそないに頭がええんや?」
「あはは。言われて悪い気はしないな。
でも、これはある意味ズルみたいなもの。
私の知る科学技術的な常識は、
私の世界がイサムの世界よりも1000年くらい
先の未来みたいなところだからのズル。
私の世界の中で言えば、私の頭の良さは
せいぜい中の上か上の下くらいだよ」
「そりゃそうやろ!
ほんとにセンねぇの頭がええなら
人前でおしっこくれとか言わんわ!」
「……もうその話やめてくれない?」
「わいが言いたいのはな。
センねぇの推理力なんや。
なんでセンねぇは当たり前を疑えるんや?
なんで魔王軍は北にはいないと
当然のように確信できたんや?」
「んー……」
リンネは少し悩んでから。
「特撮が、好きだから。かな?」
「特撮ってのは推理モノも多いんか?」
「無いわけじゃないけど少しかな。
重要なのはね、特撮が全部嘘だってこと。
でも、その嘘を見る人にバレないように
信じさせて来るってこと。
私は特撮が好きだから、
そういう嘘を見抜くのも好きなんだよ」
「むー……わい、まだ特撮のこと
全然わからんねん。なんか今ここでできるような
具体的な説明でけへんか?」
イサムは決して頭が悪いというわけではない。
むしろ直感的な理解力は高い方だ。
そのイサムに特撮の嘘を説明する方法として、
リンネは少し悩んだ後にひらめいて
ポーチを取り出して紐を持ち、目の前に突き出した。
「ねぇイサム。このポーチ、空に浮かぶと思う?」
「浮かぶわけないわ。
浮かんだら魔法や」
「だよね。ならこの紐が透明だと想像してみて。
どう見える?」
「浮いてるように見えてまうわ」
「もしも袋が浮いてたらイサムは驚く。
絶対にありえないって。
だから、何かトリックがあると考えて、
目に見えない透明な紐で吊るしてるかもという
答えに気付くかもしれないね」
「そうやろうな」
「で、じーっと見たら光の反射で
一瞬だけ透明な紐がきらりと光る時がある。
そこでイサムは『ほらみろ嘘だ!』って言うよね」
「せやな」
「もしそうやって嘘を暴いた経験があれば
同じようにポーチが浮かんでいた時、
イサムはポーチの上、つまり、
口側の先をじーっと見るよね」
「当然や。今度はすぐ暴いたるわ」
「じゃぁさ……」
「えっ!? ……ああっ!」
ここまでの話をした後でリンネは
イサムの頭を抑えてしゃがませた上で状態を反らす。
そして、股の下からのぞかせるような形で
先ほどと同じようにポーチを吊るした。
ただしこの時、ポーチの下からほつれていた紐を
スカートに結ぶ形で吊るしてみせたのだ。
「口側の先だけ見て、見えない紐が見つかるかな?」
「……絶対見つからんわ」
「今は私が逆立ちしていたけど、
イサムが逆立ちで見ていた可能性もある。
見るものか、見る対象。
どちらかが逆になっていたら、
下に落ちる力も逆になるんだよ」
「…………」
説明に納得しつつも、イサムの頭の中は今。
(年頃の女がパンツ見せるもんやないで、センねぇ。
だからセンねぇはお嫁に行けんのや)
……さておき。
なるほど、上が空で下が地面。
そんな常識を、逆利用する。
特撮の世界では、常識が通用しないのだ。
「そうか、だから南へ……」
「うん。私にわかるのは北じゃないということだけ。
だけど、魔王軍が特撮技師の集まりだというなら
上下を逆にするのは特撮の一般的な手法。
真逆の南に、本拠地を置く可能性が高い」
なるほど、確かにその通りだ。
理屈はわかる。しかし……
「でも上下が逆にされたらすぐわかるで!
そもそも物を見る時に逆立ちして見るようなヤツ
おるわけないやろ!」
「そうだね。でもさ、いつもの魔王軍の映像。
あれが誰かが見てる映像を共有してるもので、
それを見てる人が、逆立ちしていたら?」
「……そいつが逆立ちしてると気付けないと
映像の上でも気付けないってことか」
「そういうこと!」
この世界には、まだカメラが存在しない。
カメラと言ってもイサムはわからなかっただろう。
しかし一連の説明で、イサムはカメラが作る
『嘘の視点』という概念を理解した。
それは、特撮の嘘を暴く重要な視点となるはずだ。
魔王軍は特撮を使用している。
しかし、その技は先日のリンネが示したように
この異世界の素材や技術で再現可能なものもある。
だが、致命的に今のリンネには
足りないものがある。
わからないものがある。それは……
(カメラなんてものが、
このガチめな中世風異世界にあるのがおかしい。
あのオーロラビジョンも、風力発電機も。
ビームの合成に使ったと思われる
オプチカル・プリンターもだ。
魔王軍の正体はなんなの?
そして……この世界は)
――本当に異世界なの?
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「見えてきたで」
南に向かって草原を歩いた2人。
遠目に村の高い柵が見えてきた。
一方で周りには、放棄された耕作地が広がっていた。
「この辺の畑……」
「うーん、いい土なんやがなぁ」
イサムは農家の生まれである。
土の良し悪しを見抜く力はある。
だが、放棄された耕作地は
リンネの目から見て明らかに荒廃していた。
畑は自然環境に見えて都市と同じ人工物。
人が手入れしなければ荒廃する。
そして、それが最終的に自然に戻る過程で
一度大きく自然環境を破壊してしまうのだ。
「どうして放棄したんだろう……」
「魔王軍のせいやろうなぁ。
センねぇが来るのが少し遅ければ、
うちの畑もこうなっとったわ。
魔王軍の手が北から伸びてるなら、
家と畑を捨てて南に逃げるべきやって」
「…………」
リンネの目が鋭く歪む。
そう、これが魔王軍の手口だ。
直接人を襲うようなことこそないものの、
人の心を恐怖の闇で犯し、幸せを奪う。
その手段として特撮が使われているのが
リンネには何より許せなかった。
(だけど……すごく、効率的だ)
この世界の人間だって戦う力がないわけではない。
リンネが今腰から下げているような
鉄の剣を打つ技術はあるし、
火薬はなくとも弓やスリングはある。
仮に実際に村や都市を襲うなら、
魔王軍側にだって命のリスクが生じる。
もしも魔王軍がリンネと同じ現代人で、
現代から銃のような最新の武器を持ち込んでいても
剣で後ろから頭をガツンとやられたら終わり。
実際ベトナム戦争はそういう戦いもあったと聞く。
しかし、ただ特撮の映像を作り、
各町に配置したオーロラビジョンで流すだけなら
攻撃側のリスクが生じない。
その上、同時に世界中を侵略できてしまう。
もしも魔王軍に立ち向かおうと人々が武器を取り
北の大陸を目指すとしても、
その間には荒れた海が広がっている。
この時代の航海技術では、
遭難確率は3割を下回らないだろう。
そして運良く海を渡り北の大陸に上陸しても
決して魔王軍を倒すことはできない。
何故なら、そこに魔王軍など存在しないのだから。
さらにもしもそこが現実の地球における
南極大陸のような厳しい気候の土地だとすれば
上陸した軍は帰ることはない。
そして人々はこう思う。
魔王軍に全滅させられた、と。
(悔しい……完璧だ……!
異世界は、特撮の力で支配できてしまう……!
特撮の……私の大好きな……
人を楽しませるための技で……!)
だからこそ、リンネは旅立った。
その目的は、魔王軍の嘘を暴くこと。
そして……
(特撮の楽しさを、知ってもらうことだ!)
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たどり着いた村の人々に、生気はなかった。
様子を覗えば、その人たちが移住の用意を
していることは想像できる。
そして、この村の酒場の中にも。
(大型テレビと、発電機とアンテナがある)
聞けばこのテレビ、
村が出来る前からあるらしい。
そしてこの世界におけるテレビは、
神様のようなものが世界の創世と同時に作られた
神聖な物であり、誰もそれを触れたりしないらしい。
(私の世界でも、面白い形の岩を神聖視して
神様が作ったものだと祈ることは多い。
そして、自然の中で偶然テレビが完成する確率は
決してゼロではない。
少なくとも人間が世界に誕生する確率よりも高い)
人間が世界に生まれる確率は、
『腕時計が分解されプールに投げ込まれても、
自然の水の流れで元通りの腕時計になる確率』とか
『廃材置き場を竜巻が通過したら
ボーイング747が完成する確率』などと言われる。
それを考えれば、偶然テレビが完成したと言われて
ありえないとは言えない。言えないのだが……
(まぁありえないよなぁ……)
とりあえずそう考えてため息をつく。
そもそも今この謎について解き明かすには
ヒントが少なすぎるのだ。
今のリンネに出来ることは……
「魔王軍は……いえ、みなさんが、
魔王軍だと思い込んでいるものは!
すべて特撮! 特殊撮影です!!」
そう叫ぶことだけだ。
言葉が信じてもらえないとしても、
目の前で実証してやれば。
(また、信じてもらえるかもしれない……!)
こうしてリンネは再び人を集めて。
「ギャバン!!」
片腕で水平に開いて剣を持ち。
「ダイナミック!!」
一度円を描く形で剣を上段に構え直し。
一刀両断と同時に剣に仕込んだ黄色の色水を噴射。
太陽光に反射し、剣筋がきらきらと煌めいて。
大爆発。
一連のパフォーマンスでまたしても
人々の心はだいたい1つになる。
(すごい大爆発だ……!)
(あれが魔王軍の魔法の正体……!)
(あの姉ちゃんかっけぇ……!)
(全部トリックだったんだ……!)
(ギャバンってなんだ……?)
(あれが特撮か……!)
(爆発音もすげぇ……!)
このショーの後ですかさず。
「はいはい! ご覧の通りや!
魔王軍の魔法は全部嘘っぱち!
そしてその種がこの粉や!
おおっと大丈夫やで!
この粉が爆発するのは物凄く
めんどくさい手順を踏まなあかんねん!
むしろこいつは普通に撒くだけで
野菜の成長がすごく良くなるんやで!」
大阪のアキンドさながらのセールストーク。
ここに見ていた行商人が反応する。
「聞いたことある!
北の町ですげぇ野菜を作る農家があるって!」
「そうや! わいはその家のもんや!
行商人さん! あんたわいで契約や!
で、その行商人さん通してわいの家から
粉買えるよう頼んどくわ!」
「ホントか!? 是非頼みたい!」
「あぁええで!
見ての通り、魔王軍の魔法は全部トリックや!
怖がって逃げ出す必要なんてないんや!
畑耕して! この粉使って!
またたくさん野菜作るんやで!」
こうして魔王軍の恐怖を払うと同時に、
再びこの地域で農業をはじめるための肥料を撒き、
人々に笑顔を取り戻す旅をする。
これこそが魔王と戦う『勇者』リンネの旅だった。
この物語は第一章最終話まで書き上げたものを
予約投稿して公開してるの。
毎日22時20分更新で全18話、
第一章最終話は11月4日になるわ。
文字数は約10万文字で、普通のラノベ1本分くらいね。
気に入った方は前作もよろしく。
★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る
鉄オタエルフの奮闘記。
異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚
「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~
https://ncode.syosetu.com/n8087ko/
【Nコード:N8087KO】
★全員クズの勇者パーティの中に
裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり
全員が暗躍しはじめる話。
このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!
https://ncode.syosetu.com/n7991lc/
【Nコード:N7991LC】




