第27話:新たなる希望(後編)
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
シンが英雄と言われたのは、
その強さと騎士としての高潔さにあった。
25年前、15歳の若さで戦場に立った彼は
歴戦の騎士達と並んで都市国家を勝利に導き、
後に野盗化した敗戦国の傭兵たちを相手に
英雄の評価を勝ち取るにふさわしい立ち回りを見せる。
誰もがこのまま彼が歴戦の騎士としての
栄光の道を歩む姿を夢見た。
しかし、彼が二度目の戦争に立つことはなかった。
ついにこの都市にも魔王軍の噂が届いたのだ。
魔王軍は即座に全世界に対しての
プロパガンダを開始したわけではなかった。
あえて少しずつ情報を小出しにすることで
人の噂で恐怖の土台形成を狙っての策だった。
こうして噂が届いてまもなく、
都市のオーロラビジョンで魔王軍による
恐怖の特撮映像が放送されはじめる。
その効果は絶大で、もはや人類同士で
戦争をしている場合ではないという風潮が広まり、
シンは騎士の名誉を自ら放棄した。
しかし、その後も町の厄介事を引き受ける
なんでも屋のような仕事で小銭を稼ぎ続けた結果、
40歳になる今まで英雄という評価のまま
人々に一目置かれる存在であり続けられたのだ。
既に中年となり、体力の衰えが見え始めるはずの
歳になってなお若く見えるその筋肉は
未だに彼が毎日厳しいトレーニングを続けてきたからで
そういった完璧さも相まってシンは本物の
ヒーローと呼ぶにふさわしい人物だったのだ。
「はははは!
嬢ちゃん、お前面白いな!」
「評価してもらえるのはうれしいですね!
まぁぶっちゃけ私はただの特撮オタクで、
この世界でも特撮を楽しみたいだけなんですけど……」
「いいんだいいんだ。
目的はなんだっていい。
それで世のため人のためが出来てるなら
嬢ちゃんは立派な騎士で英雄だよ」
「ありがとうございます!
でも……」
リンネが腰の獲物に手を伸ばそうとすると、
そのタイミングを見計らってジョッキに
追加のエール酒が注がれてしまう。
「シンさんには勝てませんね。
戦わせても貰えませんから」
「やめとけやめとけ。
俺はまともなヤツとは戦いたくねぇんだ」
噂通りの実力。
リンネはそれを、戦わずして感じることとなった。
「けど、戦えないのは、悔しいですね」
「ははは。10年はええよ」
「戦えない悔しさはシンさんも、わかるでしょう?」
「……こりゃ1本取られたか」
ぼりぼりと頭をかけばフケ舞う。
そんな不潔さも気にすることなく、
リンネはシンの手を取って正面から目をあわせた。
「しかし私は戦えない相手との戦い方を、
存在しない相手との戦い方を知っています。
お願いします。私と、戦ってください!
魔王軍と……いえ、魔王軍がばら撒いた
人々の恐怖と!」
その真っ直ぐさに呆気にとられるシンだったが、
ここまでの会話で既にリンネが信頼できる人間だと
理解できていた。何より彼女には、
目的のためなら手段を選ばない覚悟がある。
「……俺は何をすればいい?」
「そうですね、まずは……」
ごそごそと机の下を漁るリンネ。
取り出したのはなにも盛られていない皿と、
空っぽのコップ。それになにやら不思議な
道具を取り付けたかと思えば……
「一曲歌ってください!」
「……は?」
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ヒーローショー当日。
会場入りしたリンネが
来るはずのない出番を待っていた頃。
都市のはずれで建築中の建物では、
犯罪ギルドによる秘密取引が行われていた。
「おぉ、これが噂の……!」
「あぁ。あのメスガキが開発した魔法の肥料……
爆薬を利用した新兵器だ」
リンネが開発し、販路を独占し、
製造に厳しいライセンス契約を結ぶことで
爆薬として使用されることを
回避しようとしてきた肥料。
しかし、犯罪ギルドはその製造方法を盗み取り
こうして秘密裏に爆薬の販売を始めていた。
「魔王軍は嘘をついていたとわかったんだ。
まもなく再び、戦争の時代が来る。
そこで戦場の主役になるのは
もう剣や弓じゃない。この、手榴弾さ」
「そのとおりだ。へへっ、こいつを集めれば……」
手榴弾を受け取ると同時に
多額のカネを渡し、
取引終了かと思われた、その時。
「待てぇい!」
「っ!?」
フルフェイスの鎧の奥から籠もった声が響く。
同時にリュートと笛の音が
さみしげなメロディを奏ではじめた。
「悪しき心を抱く者は、
真理の光をまともに見ることはできん。
決して隠し通せぬ罪の意識を貫く光。
人それを、『正義』と言う!」
「ええい、囲まれているのか!?
この怪しげな音楽はなんだ!?」
「貴様……何者だっ!?」
慌てながら周りを確認する取引中の男たち。
しかし、フルフェイスの騎士は
彼らの問いに答えることはなく。
「貴様らに名乗る名前はないっ!!」
ガラスを割って窓の外へと跳躍した鎧の男。
2人が男を目で追うが、
日の光の眩しさに一瞬呆気に取られる。
何者だったんだ、あの男は。
外に飛び出て何をするつもりだったんだ。
そう、呆気に取られた、その時。
(……天誅)
「がはっ!?」
男の背中に、剣が突き立てられた。
「ひぃっ!? な、なんでそんなところに……
うわぁぁぁぁあああああ!!」
やぶれかぶれのままに逃げ出した取引相手。
彼の視界の片隅には、その建物を建築している
ギルドのエンブレムが輝いていた。
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肥料の販路を独占するリンネは、
犯罪ギルドの動きを掴んでいた。
しかし、犯罪ギルドを敵に回せれば
どうなるかくらいはわかっている。
結果ここまで何もせずに黙認してきたのだが、
今日、新たなヒーローがデビューする今、
彼らはまさに格好の標的だった。
(うまくやってくださいよ……シンさん!)
リンネが図面を引いた建物には
不自然な間取りが存在していた。
鎧を着込んだシンが身を隠すための隙間だ。
取引をその建築現場で行わせるよう誘導し、
予めシンを潜ませておく。
その上で前口上を述べるだけの役者を雇い、
彼にヒーローらしい見栄を演じさせた。
その見栄に目が奪われた隙に
役者と同じ鎧のシンが
声を出すことなく戦闘を始める。
シンは英雄であり、顔も声も割れているのだ。
故に彼を、鎧という着ぐるみの中に入れる。
それがリンネの描いた、特撮だった。
♪~今、正義の鐘が鳴る。
悪を裁く時が来た。
人だかりが出来た広場の壇上に
2人の亡骸を引きずって鎧の騎士が立つ。
その亡骸の顔は『天誅』の張り紙で覆われていた。
「な、なんだあいつは!?」
「ていうかこの歌はなんだ!?
誰がどこで歌って……いや、
これが本当に人間の声なのか!?」
広場に響く怪しげな歌。
これはリンネが嫌がるシンに空のコップをもたせ
無理矢理歌わせたものと同じ歌だった。
空のコップの下には針をつけられており、
その針の下でリンネが手回りしで皿を回す。
これにより音の振動で溝が掘られた皿は、
歌を記録した音声ディスク、レコードとなる。
原始的な蓄音機の仕組みである。
未熟な技術力で作られた蓄音機は
後にエジソンが発明したものと同じような
リアルな音の記録・再生はできない。
しかし、その不完全で怪しげな音が
今ここでその歌を聞く人々には
まったく新しい不思議な音として聞こえていた。
リンネは、技術の低さを逆手に取ったのだ。
「あんたは……あんたは一体何者なんだ!?」
「…………」
騎士は答えない。
しかし誰もが期待を込めて理解していた。
彼は、正義のヒーローなのだと。
「どいてください! 通してください!」
群衆を無理矢理押しのけ、
リンネが広場の中央に躍り出る。
鎧の騎士の前に立ち、
大げさな身振り手振りと同時にセリフを紡ぐ。
『あなたは……あなたは一体何者なんですか!?』
『…………』
騎士はまだ答えない。
『まさかあなたは……正義のヒー』
『違う』
リンネのセリフを遮り、
騎士はリンネに指をつきつける。
『お前のような、ごっこ遊びの偽物とは違う』
『っ!?』
ついに口を開いた騎士の声に人々がざわつく。
「誰だ……?」
「知らない声だな……」
「名のある騎士だったやつじゃないのか?」
ざわつく人々の前で、
鎧の騎士が剣を天にかざし、叫ぶ。
『ジャッジメント!』
同時に町外れで大爆発の音が響く。
押収した爆薬を、すべて爆発させたのだ。
人々が音に意識を奪われた隙に、
リンネが煙幕に火をつける。
そしてその煙に乗じて、騎士は姿を消した。
一体どこへ、どうやって逃げたのか。
人々に囲まれた騎士に逃げ場などなかったはず。
人々は気付かない。
騎士の足元に、ギルドが管理する下水施設への
排水溝があったことに。
『あの騎士は……』
明後日の方向に目をやりつつ、
リンネな人々に聞こえるような声で演技を続ける。
そう、今日のヒーローショーの主役は
最初から勇者リンネではなかった。
今日の主役の名は……
『天誅の・騎士……!』
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