第27話:新たなる希望(中編)
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
神々は『魔王』の帰還を願いつつ、
星1つを特撮スタジオに作り変えた。
魔王代理の指導の元、特撮技師としての技術を高めつつ
毎日を楽しむ彼らが目指す未来は。
「この世界をすべて、
戦後の日本と同じ環境に作り変えましょう」
数千年続いた人類史の中、たった50年の奇跡。
戦後の日本で特撮が成長した理由は、
『魔王』の元となった天才一人の
活躍だけでは説明できない。
神々曰く、その理由は。
「外圧で平和を『強制的に作られた』からだな。
勝ち取った平和ではなく、押し付けられた平和。
それが発展する科学技術と未来への希望が合わさった時
特撮という奇跡が生まれたのだろう」
うんうん、とドヤ顔で頷く魔王代理。
元となった人物の世話好きな性格が、
成長していく神々を優しく見守っていた。
「既にここまでの1000年で種は撒いてきました。
組織的な宗教の発展の抑制をかけつつも、
無意識的な精霊信仰を根付かせ、
オーロラビジョンの周りに村を作る文化を育てる。
後は平和を押し付けるだけ。そのためには……」
「まずは戦争をしてもらえればいい。
まぁ、これはわしらが何かをするまでもねぇな。
この規模まで文化圏が育てば、
中世貴族が戦争ごっこをはじめてくれる。
その先はようやく……」
全員の視点がノアに集まる。
そのノアが横目でアキに確認を取り、
軽く頷かれたのを待って、宣言する。
「魔王軍、撮影を開始しましょう」
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騎士の仕事は戦争における前線司令官である。
しかし、魔王軍の恐怖作戦により
都市国家同士で戦争をしている場合でなくなって50年。
騎士は貴族の権威付けのためのステータスであり、
リンネも参加していた武術大会の人気と相まって、
騎士は人々の『ヒーロー』となっていた。
「おやじぃ! もう一杯くれぇ!」
「はぁ……お体に触りますよ、シンさん」
場末の酒場でエールを煽る30前後の男。
このアル中の正体が、かつて騎士の中の騎士と呼ばれた
ヒーロー、シン=ファストである。
「まったく……あなたは英雄だった方なんですよ?」
「そう、英雄だったやつだろ」
たしなめ半分、羨望半分のつもりで出た言葉が、
結果的にシンをさらに追い詰め、
酒の池に落とす結果になってしまう。
自身の失言に気付いたマスターの瞳が
一回り大きくなった後に、
表情を悟られまいとそっと床に沈む。
そこから頭をかくふりで表情を隠しつつ
何も言わずに開いたグラスの酒を注いだ。
「おやじぃ! 勘定ぉ~!」
「あー……ツケでいいさ。
今のお前さんなら少し多く請求したって
信じて払っちまうだろ?」
「ちっ……どおりでおかしいと思ったんだ。
明日明細確認させろよ」
睨みつけるような視線を
片手を振って追いやったマスターは、
シンが酒場を出るのを待って
いつものように明細のうちの数枚を破り捨てた。
「……お前はまだ、ヒーローなんだよ。
ヒーローで、あるべきなんだよ」
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数日前。
久々のヒーローショーの準備に取り掛かったリンネは
ステージの準備の指示と、
司会役と怪人役の俳優に台本を渡した後
ひとりでギルドを訪れていた。
(……特撮は、嘘。全部が嘘。
うまく騙すためには、まずは味方から騙す)
一抹の申し訳なさに後ろ髪を引かれるが、
これもすべて特撮のため。
完璧な嘘で全員を騙すため。
ギルドを訪れたリンネは、
ギルドマスターに挨拶代わりの菓子折りを手渡す。
そっと箱を開けたギルドマスターは、
中のお菓子を取り出すこともなく
そっと足元に箱を隠した。
「今日は随分を美味しそうなお菓子ですな。
少しずつ食べても半年は持ちそうだ。
それで、ご要件は?」
「橋を作って欲しいんです」
「橋?」
ギルドにとって建築は一番の事業。
橋の建設も依頼としては頷けるのだが。
「難所にかける橋です。
ギルドの技術でも安心して渡れる橋は作れない。
そこを、私と渡って欲しいんです」
「…………」
厄介事を持ち込まれたことを察したギルドマスターは
眉間にシワを寄せてリンネを睨みつける。
しかし、2人の間にはここまでのビジネスで培った
共犯とも言える信頼関係があった。
「うちのメリットは?」
「商売敵が消えます」
「それは剣呑な話ですね」
ペンでとんとんとこめかみを叩きつつ、
上目遣いになる形でリンネの表情を覗く。
それで? という意図と受け取ったリンネは
一度振り返って改めて扉も窓も閉じている様子を確認。
声のトーンを抑えた上で語り始める。
「犯罪ギルドは、今の町に、今の世界に
必要なものなんでしょう。
本当の意味での、必要悪。
しかし、誰もがその存在を
心のどこかでは疎ましく思っている。
二律背反の状況は、容認という停滞を構築し、
この状況は『力』以外では変わらない」
「うちにそんな『力』はありませんよ。
それはお宅の大学にしても同じこと。
思い上がるべきではない」
「そのとおりです。
しかし、『正義を思う心』は力にできる。
今回私が依頼したいのは、
正体不明の正義のヒーロー候補の紹介と、
そのヒーローを影から支える秘密基地の建設です」
「…………」
ギルドマスターもリンネとは長い付き合いである。
彼女から受け取っている裏金は、
本来なら大学運営のためにスポンサーの貴族から
預かっていたはずのもの。
バレれればすべてが終わりになるスキャンダルだろう。
そんなリスクを承知で彼女がカネを渡してきたのは
リンネが理想ではなく現実を見ているから。
トクサツというよくわからない物を好んでこそいるが、
彼女はどこまでも合理的で、
必要とあれば泥水をも飲み干す覚悟がある。
そんな彼女がいうこの計画は、
決して趣味をやろうというつもりでもなく、
ましてや道徳的な正義のためでもない。
おそらく……
「町の悪い噂を拭いたいなら、
他にも方法があるのでは?」
「あるのならご教授ください」
決意の籠もった瞳でまっすぐに射抜かれた
ギルドマスターは、少しだけ考えた後にため息をつく。
「このお話は聞かなかったことにします」
「……っ」
食い下がろうと一瞬体が前に出るが、
意志でそれを押し留める。
当然だ。リンネには、無茶を言った自覚があった。
「うちはあくまで建築でやってましてね。
おかしなことには協力できません。
うちは『図面通りに仕上げるのが信条』でして」
「……!」
その一言に、リンネの表情が明るくなる。
「ただ図面だけをください。
それがまともな図面なら、
バベルの塔だって作ってみせますよ」
「それじゃぁ……!」
思わずギルドマスターのペンを奪い取り、
テーブルの白紙にスケッチを走らせるのだが。
「こう、牧場の緑が左右に分かれて、
光るマシンが現れる感じとか!
五湖に隠れた南の斜面にパラボラが回る感じとか!」
「現実的な図面をお願いできませんかね?」
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同日夕方。シンはいつもの酒場を訪れた。
懐には昨日自分が飲んだはずの酒代に加えて、
これまで勝手に踏み倒させられたはずの額の予測分。
「これで足りんのかね……?」
かつて、騎士の中の騎士として
カネも栄光もほしいままにしていたシン。
そんな彼の栄光を終わらせたのが、魔王軍だった。
かつての人類は、都市国家同士で戦争を続けていた。
春から夏にかけて畑仕事で食料を確保した後、
冬は鋤を剣に持ち替えて戦争を始める。
騎士はそんな彼らの最前線で戦う英雄だ。
そんな中現れた圧倒的な武力を誇る魔王軍は、
人間同士で戦争を続ける余裕を奪い、
さらには、抗おうにも絶対に勝てないという
絶望を突きつけてきた。
だが魔王軍のドラゴンは風車だった。
本当の意味で勝てない相手。
かといって、魔法にしか見えない超科学を持つ彼らが
無言の圧をかけてくる現状では
再び戦争をはじめることもできない。
こうして多くの騎士が解雇される中、
シンにも解雇宣言を突きつけられた。
正確に言うならば、シンの側から辞表を出した。
英雄である彼を雇い続けることは
確かに貴族にとってのステータスなのだろうが、
それまでの活躍相応の給与を無意味に支払わせることを
シン自身が容認できなかったのだ。
「元英雄は、酒に溺れることも許して貰えねぇのかよ。
まったく……いい加減気付けよ。
今の俺は、うだつのあがらないダメ男だってことにさ」
ぼりぼりと頭をかくとフケが舞う。
そんなどこに出ても恥ずかしいダメ男が
酒場の扉を開いた。
「親父ぃ~、ツケ払いに来たぁ~、
いくら溜まってんだぁ~?」
「それは私が払わせていただきました」
カウンターに座るのは見知らぬ服の見知らぬ少女。
貴族とは違う独特な雰囲気は、異邦人、もしくは、
この世界の存在ではないように見えた。
じと目をマスターに向けると、
にへら笑いで謝罪のジェスチャーを取られてしまう。
「シンさん。あなたを雇いに来ました」
「……はぁ」
再びフケを振りまきながら、
シンは不快感を顕にする。
「嬢ちゃん、俺は騎士だ。腐っても騎士だ。
騎士の仕事、なんだか知ってっか?」
「戦争ですよね?」
「そうだ、戦争だ。ヒトゴロシだ。
大会で腕前を競い合うアスリートじゃない。
だから、俺を雇うってことは
どっかと戦うってことなんだぞ。わかってんのか?」
「当然」
シンは腰を落とし、剣に手をかける。
もしもこの少女が本気なら、
ここで斬らねばならない。
魔王軍は結果的に世界を平和にしてみせた。
押し付けられたような平和だが、
それでも人々が心の底では望んでいた平和。
それを壊そうとする意志を、
シンは許すことができないのだ。
「聞かせろ。誰と戦うつもりだ」
「…………」
シンのその声色にマスターの顔が青くなる。
ヤツは本気だ。その思いは理解できるが、
それでも自分の店の中での刃傷沙汰は勘弁願いたい。
迂闊なことを言ってくれるなよと、
この少女、リンネに声をかけようとするが、
当のリンネはそんな不安も無視して。
「当然、魔王軍とです」
シンに自信満々のドヤ顔を返すのだった。
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