第26話:新たなる希望(前編)
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
再び魔王に戻ってきてもらうため、
自分たちの特撮を作り始めた4人。
セットとして選ばれたIF地球でも
歴史が動き出しはじめていた。しかし。
「なんだか違うような気がしますね……」
それぞれがリスペクトする特撮技師の思考を取り込み、
自分たちの魂とも言える名前に組み込んだ4人だが、
どうにも自分たちの作品に違和感を覚えていた。
「あぁ。だが具体的に何をどうすればいいのかが
わしにはさっぱりわからん」
「指導者のような者がいればわかるのだろうが……」
物事を学ぶ際、師匠の有無は成長に大きく関わる。
本来は彼等が魔王と呼ぶ老人がその役目に
就くはずだったのだろうが……
「悩んでいるようだな! 遥かな未来の若人達よ!」
芝居がかったセリフに一同が振り向くと、
そこには1人の幼女がどや顔で腕を組んでいた。
しかし、そこにはただの幼女ではないと
一目でわかる点があった。
「光が、歪んでいる……?」
正面から顔を見ようにも何故か斜めからの角度になる。
その上、虚空から不思議な光源が常に差し込んでいる。
「あやつに影響されたようだな。
実に良い目をしている!」
「あなたは……?」
ふふん、と鼻をならして彼女は宣言する。
「あやつと並び立てるなど慢心するつもりはない。
が、若人に指導くらいはしてやろう!
あやつが戻って来るまで、
このアキを魔王代理と仰ぐが良い!」
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
数日後、リンネは街の人向けの
ヒーローショーの舞台に立っていた。
かつて、世界を恐怖で包みこんだ魔王軍の嘘を暴くべく
彼らと同じ特撮の技を目の前で見せるという目的で
はじまったリンネのこの興行は、
魔王軍の路線変更に伴い必要性が失われていた。
それでもリンネの趣味半分で続けてきた結果、
人々にとっては単純な娯楽の1つとなり、
今ではリンネの他にも旅芸人達の
演目の1つとなるまで文化として世界に根付ている。
大学関連の仕事が忙しくなって以来、
リンネ自身によるヒーローショーは
開催周期が長くなってしまっていた。
そんな中での久々の開催宣言に、
街の人々が盛り上がらないはずもなく。
集まった大勢の人々の目は、
これから始まる奇跡を期待する思いで輝いている。
しかし、そんな中にあっても
暴走した恐怖の噂は人々の心に影を落としていた。
「勇者リンネのヒーローショーは楽しみだけどさぁ……」
「あぁ。結局は嘘だもんな。
魔王軍の映像も嘘だが、ヒーローも嘘。
今街の噂になってる悪魔やモンスター、ヨウカイを
退治してくれるヒーローは、いないんだよな」
そんな客席からの声に、リンネは冷静に目を閉じる。
(かつての私は、嘘を暴くため、
魔物もヒーローも存在しないと証明するために
ヒーローショーを続けてきた。
ある意味で私はヒーローを……神を、殺していた)
神なんていない。
未来人の集まりである魔王軍が事実上の神であっても、
それを認めるわけにはいかない。
その一念は変わっていない。
しかし、今日のリンネの目的は……
(ヒーローを、創る。
本物のヒーローを……
人々に、ヒーローを信じさせる!)
肥大化する噂という存在しない敵を倒すためには、
噂には噂を、化け物には化け物をぶつければいい。
市井を恐怖に突き落とす怪異と戦う
無敵のスーパーヒーローの姿。
それを人々の胸に刻み込めれば、
あとは存在しないヒーローが
勝手に存在しない噂話と戦ってくれる。
この解決方法に早くから気付いていたリンネは、
この世界の宗教に頼ることを検討した。
しかし、信仰が深まることが彼女の理想とする
特撮全盛の時代を妨げる要素となってしまう可能性が
その解決策を選択できずにいた。
ならばいっそ、空想上の神ではなく、本物の神、
すなわち、魔王軍に助力を求める。
その不本意な選択を選びかけていたリンネは、
ノアとの会話をヒントに決意した。
自分自身で、本物のヒーローを作ってやる、と。
やることはかつてと同じヒーローショー。
だが、かつてのヒーローショーは
夢に現実に突きつけることが目的だった。
しかし今は、現実を夢で書き換えることが目的。
(そう……これが本当の、ヒーローショーだ!)
ステージの後ろで待機するリンネの耳に、
舞台からの声が聞こえてくる。
「げひゃひゃひゃひゃひゃ!
この会場は俺達がホラー妖怪帝国がジャックした!
ここを起点に、世界を恐怖で支配してやる!」
当然、敵は今の街に蔓延る恐怖を
具現化した存在をモチーフにした着ぐるみ怪人。
ヒーローショーのお約束として、
最前列に座る子供を怪人がステージまで連れて行く。
「ああああああ!! お母さん! 助けて!
おかあさーーーーーーん!!」
ざわめきの中には乾いた笑いが混じっている。
しかし、子供の恐怖の叫び声は本物だ。
「くっ……こんな時に、ヒーローが居てくれたら……!
みんなお願い! 私といっしょに、
ヒーローの名前を呼んで!
怖い悪魔や妖怪になんか負けない、
絶対無敵のヒーローの名前を!」
司会役のお姉さんがお約束の文言で会場を盛り上げる。
乾いた笑いの観客たちが、
しょうがなくの付き合いでヒーローの名前を呼ぶ。
声が小さい! もっと大きな声で!
と、煽りが飛ぶのもお約束。
さぁ、ここからがリンネの出番。
ステージに建てられた高さ20mやぐらの上から
太陽の光を背に大ジャンプ。
観客席からは死角にあたるクッションの上に着地し、
そこから先は切った張ったの大立ち回り。
最後は怪人と格闘しながらやぐらに登って、
必殺技で怪人をやぐらから叩き落して大爆発。
と、そんなプログラムがここから先の予定。
まさにコテコテのヒーローショー。
悪役に人々の漠然とした恐怖の象徴を起き、
それを正義のヒーローが打ち倒すことで、
ヒーローさえ居てくれれば安心だと
人々の心も安定する……
わけがない。
(そんな茶番で大人が騙されるわけがない。
いかに現代人視点で過去になる異世界だとしても、
人々がそんな簡単にヒーローを信じるわけがない)
当然。こんなコテコテの子供向け茶番で
真実を見抜く目を鍛えられた人々が騙されるわけがない。
それは彼らの目を鍛えてきたリンネ自身が
一番よくわかっていた。だからこそ……
「おい! 大変だ! 大変だぞ!」
さぁ今から登壇というタイミングで、
ステージ後方が騒がしくなる。
街の中央エリアから駆け込んできた男曰く……
「ヒーローだ!
こんな偽物のごっこ遊びじゃない!
本物のヒーローが現れたんだよ!」
「な、なんですってぇぇ!?」
耳にかろうじて入ってきた男の叫びに
オーバーリアクションで反応するリンネ。
ここで人々が振り返り
やぐらの上に登っていた彼女の姿を確認すると同時に
ヒーローマスクを脱ぎ捨てる。
死角にあるクッションへはあえて飛び降りず、
20mのやぐらを梯子を使用。
みっともなくステージから駆け下りるのは
ヒーローが絶対に見せてはいけない姿だ。
「中止! ショーは中止です!
そこの方、案内してください!
ヒーローなんて、現実に居るわけがありません!
間違いなく、魔王軍の陰謀に決まってます!」
思わず唖然とする観客たち。
怪人に囚われていた子供も、
バツが悪そうに着ぐるみを脱いだ役者に
ごめんねとジェスチャーを取られて呆然としている。
作られかけた夢が壊れ、
リアルの中を走るリンネ。
その表情は焦りと真剣そのものだが、内心は……
(さぁ、ここから。
ここからが、本当のヒーローショーだ!)
この物語は毎週日曜日9時に公開しています。
気に入った方は前作もよろしく。
★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る
鉄オタエルフの奮闘記。
異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚
「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~
https://ncode.syosetu.com/n8087ko/
【Nコード:N8087KO】
★全員クズの勇者パーティの中に
裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり
全員が暗躍しはじめる話。
このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!
https://ncode.syosetu.com/n7991lc/
【Nコード:N7991LC】




