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異世界を恐怖で支配する魔王の力は全部特撮なのにこの世界の人たちは私の言葉を信じてくれません! ~総天然色異世界~  作者: 猫長明
第1章:異世界を恐怖で支配する魔王の力は全部特撮なのにこの世界の人たちは私の言葉を信じてくれません!

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15/18

第15話:善騎

この物語はフィクションですが、

登場する人物・団体・名称等は、

実在のものが意識されています。


本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく

全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。

この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を

作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。

 魔王軍の目的はまだわからない。

 では、その魔王軍と戦う勇者リンネの目的は?


「魔王軍と同じ嘘を見せ、

 その嘘の作り方を説明し、

 ついでに特撮の楽しさを広める」

「それは目的やない。手段や。

 センねぇはその先に何を見てるんや?

 センねぇの、目的は。なんや?」

「…………」


 正直に言ってしまってもいいなら。


(わからない)


 リンネの心は今、揺らいでいる。

 揺らいでいるからこそ、

 あの程度の嘘に騙されかけた。


 彼女は今、気付きかけている。

 すなわち。


(魔王軍の目的は、世界平和かもしれない)


 だとしたら。そうだとしたら。


(彼らの邪魔をしても、いいの?

 少なくとも私の行動の先には……)






――何も見えていないから。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「難しいこと考えすぎなんだよ、センねぇは……

 ん……ぷっ! ははっ! わははははは!」

「ふふっ」


 魔王軍のB級特撮のギャグに笑う2人。

 ここに来てイサムも、

 この特撮の『見方』がわかってきたらしい。


 だが、今のイサムにも

 つい難しいことを考えてしまうリンネの気持ちが

 理解できてしまう。


 今この町には、目に見えての問題が

 発生しているからである。


「…………」


「おい、どうすんだよあの子」

「こんなとこにも居るのか……

 一体この町全体で何人居るんだ?

 解放奴隷は」


 数日前、謎の『あしながおじさん』が

 この町の奴隷すべての権利を買い取った。

 正確に言えば、この町すべてではない。

 今から3年間、この町を訪れるすべての奴隷を

 その持ち主にかかわらず購入し解放する契約。


 解放された奴隷は自由になる。

 ただ、自由と言っても放置に等しい。

 『あしながおじさん』が彼らを引き取ることはない。


 生き抜く知識も技も持たず、

 所持金も資産もゼロ。

 10より大きい数を数えらればマシで、

 下手をすれば言葉も通じない。


 そんな彼らが生き抜く方法は2つしかない。

 犯罪に手を染めるか、

 奴隷として再契約するかである。


(偽善ですね)


 驚くほどに白い紙の契約書を眺めつつ、

 ギルドマスターは呟く。


 事実上黙認された犯罪組織の長である彼が

 こんな偽善を受け入れた理由は2つ。


 1つは単純に、十分な額を前金として

 受け取ってしまったこと。もう1つは……


(犯罪をやるにしろ、奴隷に戻るにしろ。

 私達の利益になりますからね)


 こうして誰ともわからぬおせっかいのせいで

 面倒なことになっている町。

 そこにいる彼らは。


――ドッ、わはははははははははは!!


「…………」


 抱腹絶倒のギャグを見ても、笑えない。

 何故なら。


(知識がなければ、ギャグを理解できないから)


 ギリ、と歯を噛みしめるリンネ。


 特撮の技を暴こうとしても、

 前提知識がなければ嘘は、嘘のままだ。

 魔王軍への恐怖もそのままで、

 なにより特撮の面白さを感じて貰えることもない。


 世界の大半がこうでは、

 この先どれだけ努力しても無駄に終わる。


「わいは反対やで」

「…………」


 イサムはリンネを厳しく問い詰める。


「言いたくないが、言うで、センねぇ。

 今センねぇがやってるのは……

 野良犬に餌をやってるのと同じや。

 尻尾を振れば餌を貰えると覚えた犬は、

 もう、終わりやで」

「…………」


 町に解き放たれた大勢の奴隷たちが

 未だ犯罪に手を染めることも

 奴隷として再契約することもなく

 町をふらふらと歩いている理由。


 それは、リンネが自分のカネで

 彼らに食事を分け与えているからだった。


 目的も何も無い。

 ただの偽善で、先もない。


 だからイサムはこう問い詰める。


「センねぇ。センねぇの、目的はなんや?」

「…………」


 正直に言ってしまってもいいなら。


(わからない)


 リンネの心は今、揺らいでいる。

 魔王軍の目的は、世界平和かもしれない。

 彼らの邪魔をする行動の先には、

 何も見えていないから。


 だけど。それでも。

 ただ1つだけ言えることは。


「私は……私は!

 私は特撮の楽しさを、知ってもらいたい!

 そのために……!」




――この町に、学校を作る!!




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「学校とはまた、大きく出たねぇ、

 セーデルルンド嬢」

「水晶伯様……」


 リンネは自らの計画を支援者である水晶伯に伝え、

 資金提供を求める。理由は単純。

 今の彼女の手持ちでは、足りないからだ。


「領民の知識レベルが上がれば、

 領地で生産できる産物の質は上がります。

 これは、慈善事業ではありません。投資です」

「ふむ……」


 水晶伯も理屈はわかる。

 わかる、が、だからこそ。


「では、入学資格は読み書きと計算が出来ること。

 それは当然だろう?」

「それは……はい。そうなりますね」


 わかるからこそ、投資効率の最大化を狙う。

 『投資』と言ったのは自分だ。

 ならばこそ、その言葉に抗う方法がない。


「ふむ……」


 だが、それはそれとして。

 水晶伯は、リンネの本当の目的に気付いている。

 このお嬢様は、なんだかんだ理由をつけて

 解放奴隷を救いたいだけなのだ。


 そして水晶伯もまた、その理念を無視できない。

 彼は徳を理解した善人なのだ。


 しかし同時に経営者でもある。

 領民は彼にとっての社員であり家族である。

 個人的な善意で、彼らを苦境に立たせられない。


「……申し訳ない、セーデルルンド嬢。

 君の願いへの答えは、NOだ」

「……はい。申し訳ありません。

 お時間をいただいてしまい……」


()()()

「!?」


 水晶伯は1枚の証書と指輪を差し出す。


「君を私の騎士と認めよう。特例だがね」

「は……え? えっ?」


 話が、理解できない。何故? 何故騎士なんて。


「2ヶ月後、この町に世界中の騎士が集まる。

 目的は大陸最強の騎士を決める大会への参加。

 生憎花形である馬上槍試合へのエントリーは

 既に締め切られているが……

 歩兵戦闘の部の締め切りは、まだ間に合う」

「騎士の大会……」


「その優勝賞金があれば、君の願いは叶うだろう」

「!!」


 そうか……なら……それなら……!


「騎士の任を、受けるかね」

「……はい!」


 リンネは水晶伯に傅き、剣を抜く。


「騎士の誇りにかけて!」




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「面倒なことをしてくれたな、キッカ」

「知らねぇな。

 わしはここから逃がしてくれと言われただけ。

 その先は知らねぇよ」


 キッカは契約書を扇子代わりに笑う。


「第一どっからこんなカネ……」

「お前知らねぇの?

 B級特撮は、低予算なんだよ」


 人それを、業務上横領と言う。


「それより帰ろうぜ、ミケ。

 リン姉ちゃんはいいやつだぜ」

「お前、裏切ったな!?

 というかなんだその呼び名は!」


「リンネの姉ちゃんでリン姉ちゃんだ。

 リン姉ちゃんはウルトラマン派でも

 いいウルトラマン派だ。

 まぁそもそもわしはライダー派だけど

 ウルトラマンが嫌いなわけじゃない」

「まぁ俺もそうだが。だとしても。

 俺はすぐには、帰れんな」


 前回の笑顔ですっかり牙を抜かれたキッカ。

 だが、ミケはまだリンネを認めていない。

 というよりも……


「お前の尻拭いをしてやらんと、

 アキ様にもまだ見ぬ魔王様にも。

 合わせる顔がない。俺は……」


 ミケは金色の剣を引き抜き、天にかざし。


挿絵(By みてみん)


 そのまま頭上に円を描くように剣先を一回転して。


挿絵(By みてみん)


 振り、


挿絵(By みてみん)


 下ろす。


挿絵(By みてみん)


 そして……


「…………」

「…………」


 そして……?


「……なんだよ? 続きは?」

「ここでカメラ止めてくれ。CGを使う」


「いや今は回ってねぇけど?」

「そうか。じゃぁ30分ほど

 その辺をぶらぶらしてきてくれ」

「お、おう」


 で、しぶしぶ目を逸ら……


「あ、ちょっと待て」

「なんだ?」


「顔のアップだけ」

「おう。それは今やっとかんとな」


挿絵(By みてみん)


 で、ここから時間があいて。






~~30分後






 同じアングルでの顔のアップから。


挿絵(By みてみん)


 剣を胸の前で構えて。


挿絵(By みてみん)


 再び下ろす。


挿絵(By みてみん)


「俺は()王様の()律に従う()()

 これより、特撮を執行する!」


 少々かっこつかない部分があったが

 気にする必要はないだろう。


 今のカッコ悪さは文章上だからの問題に過ぎない。

 実際に映像化される際には、

 30分のタイムラグは消え、

 CGによる変身エフェクトも入っているのだから。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




~~2ヶ月後


 大陸最強の騎士を決める大会。

 華はやはり、馬上槍試合だ。


――わぁあぁぁぁあああああ!!


 馬上槍試合とは書いて字の如く、

 騎士同志が馬に乗って槍を打ち合い、

 相手を馬から落とした者が勝利となる競技だ。


 現実の地球でも12世紀から16世紀にかけて流行した

 騎士同士の腕試しの模擬戦であり、

 その勝負には騎士の名誉に加えて

 多額のカネが賭けられた興行としての側面もあった。


「んー、すごい迫力だねぇ」

「せやなぁ。流石のヒーロー、僕らのセンねぇも、

 馬に乗ってのあれは無理やろ?」


「うん。乗馬の経験はあんまりないからなぁ」

「あんまりないかぁ……」


 多少はあるの意味。

 なお忘れがちだがこの主人公、

 17歳の現代人女子高生である。

 帰国子女ならなんでもできるのかな?


 さておき。


 普段競馬が行われている競技場で進む

 馬上槍試合の部に対して、

 そんな我らがヒーローが参戦するのは

 コロッセオで開催される個人戦部門。


 こちらの勝敗は以下の3つのいずれかで決まる。


1:相手の死亡

2:相手の降参

3:倒れた相手の首元に刃を突きつける


 トーナメントの優勝者には多額の賞金が

 授与されるこの大会だが、

 ではその賞金はどこから出るかと言えば。


 試合毎に行われる観客からの掛け金である。


「今年の優勝候補は?」

「特に聞いてないなぁ」

「じゃぁ試合前の演舞を見て考える感じか」


 こうしてトーナメントに挑む騎士が

 次々にコロッセオに入場するのだが。


「ん? なんか……」

「うん、なんだか……」


「一人小さいのがいるな」


挿絵(By みてみん)


 2mを越える巨体も少なくない中、

 140cmのリンネはいつも以上に小柄に見える。


 しかも彼女は参加者唯一の女性、

 もとい、もはや少女である。


「一人お転婆さんが混ざっているなぁ」

「ははは! がんばれよー! お嬢ちゃん!」

「10秒くらいは持たせろよー!」


 けらけらと笑い野次を飛ばす観客たちだが、

 普段の彼女を知っている人々は

 後方彼氏面での加藤立ち、

 もとい、ベガ立ちを決める。


(わかってねぇなぁ……)


 したり顔で解説してやってもいい。

 いいんだが、おそらくその必要はない。

 一度演舞が始まれば……


「お、おい、あの嬢ちゃん……!」

「あぁ……!」


「なんて体のキレだ……!」


 評価は、すぐに塗り替わるのだから。


挿絵(By みてみん)


 この時代、鋼鉄の鎧で身を固める騎士は

 戦場の華であり最強の戦力だった。


 騎士が強い理由。

 それは、圧倒的な防御力にある。


 全身を覆う鋼鉄のフルプレートは、

 弓を弾き、一般人の振るう剣ではビクともしない。

 そんなフルプレートは当然ながら極めて重い。


 故に騎士に求められる能力とは、

 フルプレートを着て()()()こと。

 どこぞの汎用人型決戦兵器よろしく、

 歩けるだけで十分なのだ。

 実際ATフィールドめいた防御力があるし。


 そんな騎士に対抗するための剣は、

 時代と共に大きく、そして、重く進化した。

 その行き先が長さ2mを超える両手剣。


 ツーハンデッドソード、

 ツヴァイヘンダー、クレイモア。

 フィクションで言えばドラゴンころし。

 これらの所謂、グレートソードである。


 こうして剣が進化する一方、

 あるところで人は気付く。




 別に剣じゃなくてよくね?

 だって、鎧は斬れないんだし、と。




 そして最終的に、鎧の対策に

 巨大なハンマーが引っ張り出されるというお話。

 このあたりは戦略シミュレーションゲーム、

 ファイアーエンブレムシリーズを遊んでいると

 直感的に理解しやすいかもしれない。

 あ、魔法はないよ、この世界。


 そんな騎士の歴史と常識から考えれば、

 リンネは邪道も邪道である。


 鎧はワンポイントで防御力に乏しい。

 持つ剣も80cm程度で打撃力に欠ける。


 一撃を貰えば終わりで、

 逆にこちらは何発も入れても無駄。

 勝機は鎧の関節部を狙うくらいだ。


(確かに、動きはいい……)

(とにかく速い。ありゃ相当鍛えてるな)

(ただのお転婆じゃねぇな)


 披露された演舞を見て、観客の目の色が変わる。

 これには後方彼氏のみなさんもにんまりだ。


 だがしかし。


(((あれじゃ勝てないな)))


 それが、騎士の戦いを見てきた人々の共通見解。

 彼女に足りないもの、それは……


射程リーチがない)


挿絵(By みてみん)


 そう、やっぱりここでも、身長だった。


 身長がないからリーチもない。

 そうなれば相手に近づかざるをえない。

 どんなに動きが素早かろうが、

 円の動きで振り回される大剣は回避できない。

 そこで一発もらえば、おしまいだ。


 さらに言えば、見るものが見ればわかる。

 リンネの技は……


(あれは、見た目だけだ。

 速さ以前に、重さがない。

 いかに演舞で強そうに見えても、

 実戦では役に立たない。

 ただの、()()()()()だ)


 そんな反応を見て、観客席から見守るイサムも

 深くため息をつく。


(だから2ヶ月で鍛えようって言うたのに。

 この2ヶ月でセンねぇがやったことは……)


「ダメだイサム!

 どう頑張っても鎧の早着替えはできない!

 アイドルがよくやってるから出来るかもって

 思ったけど鎧は無理だ!

 これじゃぁ、人前で変身できないっ!!」


挿絵(By みてみん)


 ただ、どうすればかっこよく変身できるか。

 その方法の模索に2ヶ月を使い、使った上で

 『無理』の結論を出していたのだから、もう……


(勝てるわけないやろ)

この物語は第一章最終話まで書き上げたものを

予約投稿して公開してるの。

毎日22時20分更新で全18話、

第一章最終話は11月4日になるわ。

文字数は約10万文字で、普通のラノベ1本分くらいね。




気に入った方は前作もよろしく。


★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る

 鉄オタエルフの奮闘記。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】

挿絵(By みてみん)




★全員クズの勇者パーティの中に

 裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり

 全員が暗躍しはじめる話。


このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!

https://ncode.syosetu.com/n7991lc/

【Nコード:N7991LC】

挿絵(By みてみん)

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