第14話:恐怖のヘイト作戦 勇者を地獄へおとせ!
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
悪党のようでちっとも悪党には見えない魔王軍。
しかし、この世界に悪がないのかと言えば
決してそんなことはなかった。
その日、ショーに向け市場で買い物をしていたリンネは
つい目に入ってしまう悪を前に顔をしかめてしまう。
「……リンねぇ、あんま見んなや」
「……うん」
2人が見ていたのは店先に並ぶ商品。
樽や檻に入れられた汚れたソレ、すなわち。
奴隷である。
(当たり前……これがこの世界の、当たり前。
異世界だからとかではない。
むしろつい最近まで私の世界でも
当たり前の、常識だった)
悪いことだとは、思わない。
平等なんて概念は、平和で余裕からあるからこそ。
この世界の社会水準も、食料生産量も。
奴隷解放の域にはまるで、届いていない。
傲慢な現代人サマの理屈で奴隷を解放したところで
困るのはむしろ奴隷達の側と言わざるをえない。
(それでも、私とそんなに変わらない
歳の女の子がああして売り物になっているのは……
心が、痛むな……)
リンネにはカネがあった。
彼女を『購入』し、数ヶ月分の食料と服を与えて
その鎖を外してやることも可能だった。
だがそれは所詮、偽善だ。
世界すべての奴隷を購入して
解放することなんかできない。
この町の市場で言えばできるかもしれないが、
その全員の面倒を見ることはできない。
(こういう時に自分の無力さを……
本物のヒーローなんていないし、
特撮の嘘じゃ真実は変わらないってことに
気付かされちゃうんだよな……)
ため息をついて市場の別の方向を向くと。
(でも、この点でだけ言えばこの世界は、
私の知る1000年前の地球より、マシだ)
そこに並んでいたのは中古の武器や攻城兵器。
しかもかなり投げ売りクラスの安値がついている。
だから個人で攻城櫓やトレビュシェットが
調達できていたりするのだが。
イサム曰く、昔はこの世界にも戦争があり、
近くの都市国家同士での小競り合いが日常。
農家も春から秋には作物を育て、
冬は鋤を剣に持ち替えて戦争に参加するのが
当たり前のライフワークで季節のサイクル。
中には数十年、下手をすれば百年単位で
続いていた戦争もあったとか。
そんな戦争が消えた理由が、魔王軍の侵略だった。
人類を超越した圧倒的な超科学を持つ魔王軍が
全世界に向けて宣戦布告し恐怖を示した結果、
もはや人類同士で小競り合いをして
戦力を削る愚行などできなくなったのだ。
(……あまり考えたくない。
考えたくないのだけど……)
――魔王軍は特撮の嘘で、世界から戦争をなくした。
(ノアさんも言っていた……
恐怖で土地を奪う世界征服計画は、非効率的だと。
目的不明の魔王軍の行動。それはまさか……
世界を、平和にすることだというの……?)
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キッカは一人、町の路地裏を進む。
暗い路地の影からは、下衆な男達のにやにやとした
下賤な瞳が怪しく輝きを放っていた。
「おい、ガキ。ここはてめぇみたいなのが
来る場所じゃねぇぞ」
「ちっ……」
キッカは舌打ちをついて何かを投げ捨てる。
チャリンという金属音に、
男たちは反射的に目を奪われる。その隙に。
「下衆がっ!」
――キーンッ!!(金属音)
全力でち●こを蹴り上げた。
「がっ……あがっ……!」
股間を抑えてうずくまるならず者。
しかし多勢に無勢、すぐに大勢がキッカを囲む。
「このガキぃ! 生かして帰さねぇぞ!」
しかし当のキッカは冷静にポケットから
1枚のプレートを取り出して男達に見せる。
「客への対応がなってねぇなぁ、この店は!」
「そ、それは……し、失礼しましたぁ!」
ここは表の市場よりもさらにディープな品を扱う
犯罪上等の闇市場。キッカが手にしたプレートは
ここのメンバーズカードのようなものだ。
しかもそのプレートの色は、
大金持ちの上客だけが手に出来る金色。
それはならず者たちの態度も変わるというものだ。
「申し訳ありませんお客様。店員が失礼を。
しかし次回からは、事を荒立てる前に
そちらのカードを見せて下さると幸いです」
「そりゃぁ悪いな。覚えとくぜ」
そう口だけでは答え、
キッカは自分が股間を蹴り上げた男を見下す。
(ま、蹴りたいから蹴ったんだがな。
それ以上の理由なんてねぇよ。クズが)
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路地裏の扉をくぐった先は、
貴族の屋敷と見紛うほど豪華な部屋だった。
高度な精製技術で作られたガラス。
水晶の他、様々な宝石で彩られた調度品。
そして。
「…………」
卑猥な姿を晒す、生きたオブジェ。
(いい趣味してるぜ、まったく……)
キッカはちらりとオブジェに目をやった後、
案内されるままにソファーにドスンと腰を下ろす。
「さてお客様。本日はいかなる商品を?」
「買い物っつーか、依頼だな」
闇市場の商品は、盗品や奴隷だけではない。
カネさえ払えば、殺しに至るまでなんでもする。
まさに悪の暗黒ギルドとも言うべきシステムが
公然の秘密として存在していた。
「ターゲットは勇者リンネ。
凛音・セーデルルンドだ」
ぴくりとギルドマスターの眉が上がる。
なるほど、考えられる話だ。
儲かるやつが出れば、儲からないやつが出る。
特撮も魔王軍もどうでもいいが、
少なくとも彼女はカネを稼いでいる。
そんな彼女を疎む存在も、どこかに居て当然だ。
「……わかりました。
リンネ・セーデルルンドの暗殺依頼、
確かに受け……」
「なに勘違いしてんだよ」
ドン、とテーブルの上に叩きつけられる
真っ白に輝く紙に書かれた計画書。
とてもこの世界の製紙技術では作れない
完璧とも言える紙の上に書かれた、その内容は。
「ここに書いてある指示に従ってもらうぜ。
質問は受け付けねぇ。やるか、やらないか。
つーか、カネさえ払えば、なんでもするんだろ?
お前らはさぁ!」
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ギルドマスターは複雑な顔をしつつも、
前払いで小切手を押し付けられて小さく頷いた。
そのまま計画書を手に一度部屋から出るのだが、
この際に、手元の計画書をしげしげと見る。
人が書いたにしては形が完璧に整いすぎた文字と
それが印字された白く輝く紙を。
「やれやれ……」
ソファにドンと身を預け、
足を机の上に投げ出すキッカ。
その彼を背後から見ていたオブジェが、口を開く。
「あの、君……」
「…………」
「君、私より小さい子だよね?
お願い、私をここから逃が……」
「オブジェが喋んな」
振り返りもせず、冷たくドスの利いた声を出す。
オブジェの奴隷少女は思わず威圧される。
「助けてやったら、どうする?」
「え……?」
「あんたを買って、ここから逃がしたら。
その先どうするって聞いてんだよ」
「そ、それは……」
「野菜の作り方を、獣の捕り方を知ってるんか?
町で働くにして、計算はできるんか?
どうせ数も数えらんねぇんだろ? 3+8は?」
「え、えぇっと……」
少女がその両手を開いたのを見て。
「お前の指は11本もねぇよ。ばぁか」
「っ……!」
キッカが、下衆に笑う。
「どうせそっちの調教もろくに進んでねぇんだろ?
だからこうしてオブジェになるしかない。
教えてやる、お前は可哀想な奴隷じゃねぇよ。
裸で立ってるだけでメシがもらえる、
いいご身分なんだよ。それを忘れんな」
「……っ! き、君! それは……!」
必死に反論しようとする少女だが、
足音に気付いて口をつぐみ、
再び少女はオブジェに戻る。
「おまたせしました。
ご依頼、確かに受注させていただきます。
改めまして依頼料の件ですが……」
「あー、わりぃ。わりぃんだが……」
キッカはさらに追加で小切手を取り出して。
「追加で見積もり頼めるか?」
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――後日
その日、魔王軍と戦う勇者、
リンネ・セーデルルンドは、
驚くべき町の声を耳にした。
「特撮なんてダッセぇよなぁ!」
「CGで全部いいもんなぁ!」
そのまま宿に駆け込み、
イサムに問いかけるリンネ。
「そうなの!?」
「……っ!」
思わず目を逸らすイサム。当然だ。
シージーの意味はわからんが、当然だ。
最近のリンネはまだマシにはなってきたが、
物事に熱中して変なことを口走る癖は
まだまだ全然抜けていない。
この見た目だけは良い少女は、
決して嫁に行けるような女性ではないのだ!
「なんてこと……」
その日の夜。次のショーに向けての準備のため
馬車に乗って町の周辺を移動していたリンネは
唐突にぼそりと御者に呟いた。
「止めてください。一人になりたいです」
そのままぶらぶらと夜の町を歩き。
「くっそぉぉおおお!!」
バッティングセンターでバットを振り。
「うぇっ……ぷっ」
ぶどうジュースで酩酊し千鳥足で夜の町を歩く。
そんな彼女の頭によぎるのは。
――特撮なんてダッセぇよなぁ!
偶然町で聞いてしまった、少年の声。
ふらふらと歩いていたリンネは
ここでつい明らかにカタギとは思えない
怖そうなお兄さんと肩をぶつけてしまう。
「いってぇな姉ちゃん!」
「うるさいです!」
「ごめんなさいやろぉおぉ!?」
こうして男たちにボコボコにされ、
リンネが宿に戻った時。
リンネは、明らかにあの後、
屈強な男たちの手によって。明らかに……!
「お、センねぇおかえ……って、
どうしたんやセンねぇ!!」
ストリート羽根つきを挑まれ、大敗していた。
立つんだ! 勇者リンネ!
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「本当ですか!?」
「はい! 特撮はすごいです!」
「すごいすごい!」
崖の上で心を入れ替えた町の少年達の
声を聞くリンネ。
「特撮が一番楽しいです!」
「そう! お姉ちゃんホッとしたよ!」
良かった。やっぱり私は間違ってなかった!
特撮が……特撮が一番……!
「あ は は は はは
は は はは は
は は は は ははは!」
が、突然子供たちが狂ったように
リンネを指さして笑い始める!
「うーそーだーよー!!」
「えっ……?」
「特撮なんていらないよ!」
「いらないいらない!」
「帰ってフルCGのネトフリULTRA見ようぜ!」
嘲りながら振り向いて去っていく少年少女。
リンネはつい彼らを追いかけてしまう、が。
「ま、待って……あっ! あああああああ!!」
突然足元の崖が崩れ、谷底に落下してしまう!
「あああああああああああああ!!」
………
……
…
「ああああああああああ」
「……センねぇ、何やってんじゃ?」
気付けばベッドから落ちてもがくリンネだった。
「あ、爪が割れちゃった……」
立つんだ! 勇者リンネ!
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市場を歩くリンネの表情は暗い。
確かにこの世界には奴隷など、
目をそむけたくなる現実が残っているが、
今のリンネはそれ以上に……
「特撮って……」
「ひぃっ!?」
突然耳を塞いでうずくまるリンネ。
ここ数日、彼女は町の噂話に怯えていた。
特撮を否定し、必要ないと言う声に。
「くくく……ノアの言った通りじゃねぇか……!」
そんなリンネを影で見ながらほくそ笑むキッカ。
彼の横には今日までリンネに聞こえるように
街角の至るところで、そしてリンネの宿の隣の部屋で
特撮の悪口を言い続けていた少年少女達、
さらには酩酊したリンネを羽つきでボコボコにした
ガラの悪そうなおじさん達の並んでいる!
そう、すべて……
すべてはこのクソガキの書いた台本通りである!
「精神攻撃は基本だぜぇ……!
特にお前みたいな、メンタルよわよわで
世間知らずの女子高生にはなぁ!
さぁ、諦めろ……! 諦めて……」
そんなキッカの視線の先、
石畳に涙をこぼすリンネの隣で。
「まぁ! この野菜とってもみずみずしいわ!」
「あぁ、それな。北の農家から仕入れててな。
ほらあの、肥料売ってるとこ!」
「あぁ、あの!」
「っ!!」
イサムの家の野菜を褒める女性。そして。
「おかーさん! 今日のご飯なに!?」
「今日はこの野菜でシチューを作るよ」
「やったぁ! お父さんも喜ぶね!」
「っ!?」
そんな女性に抱きつき、手を引いて行く少女。
二人の先には……
「ぁ……ぁぁ……!」
少女を優しく抱えあげ、肩車する父親が!
「おとうさん……おかあさん……」
虚ろな目で遠くを見るリンネの後ろで
キッカがにやにやと下衆な笑いを続ける。
まもなくその隣に、先程の両親と娘が合流する。
「そうだ、諦めて……
諦めて実家に帰って土いじってろバァカ!
ぎゃははははははははは!!」
恐るべき(※当社比)魔王軍の陰謀が、勇者を襲う!
がんばれ! がんばれリンネ!
負けるな! 立て! 立つんだ勇者ッッッ!!!
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ずんと沈み込み、
宿の部屋の端で体育座りするリンネ。
そんな彼女の姿にイサムは首を傾げる。
今やイサムもリンネと共に特撮ショーを開催し
本物は見たことないもののリンネの特撮の
面白さにはある程度の自信を持つ身である。
確かにリンネのメンタルはよわよわだが、
それを差っ引いても、彼も悪口を聞いて
多少なり心を痛めるはず。
しかしイサムはリンネが落ち込む理由がわからない。
何故なら彼は……
「なぁセンねぇ。
なんでそんな最近元気ないんや?」
「イサムっ……!」
今の自分に声をかけてくれたのはうれしい。
しかし、その内容が最悪だ。
「なんでイサムはこんな毎日悪口言われて
平気な顔してられるのっ!? おかしいよ!」
嘆くように、訴えるように、必死で叫ぶ。
流石にその形相からただ事ではないと理解するも
それでもイサムにはわからない。何故なら彼は……
「わい、この町で一度も悪口聞いとらんで?」
「……え?」
冷水をぶっかけられた顔で
ぽかんと口を開けるリンネ。
「あぁ、そういやなんか、変なこと言うたな。
特撮はださい、シージーの方がええて。
そういや聞きたかったんや」
――シージーって、なんや?
――!?
リンネの目に正気が戻り、
その頭が高速回転し推理をはじめていく。
(私は町の至るところで悪口を聞いたのに、
イサムは一度も聞いていないという。
それになにより、悪口は確かにこう言った。
特撮はいらない、CGでいいと。
言われてみれば当たり前……気付いて当然……
この世界の人がCGを知っているはずがない!
なら、これは全部……!)
「魔王軍の仕業だっ!!
おのれ魔王軍っ!! ゆ゛る゛せ゛ん゛っ!!」
イサムとしては何が何だかさっぱりだが。
「そもそもCGもそうなんだけど、
この世界でネトフリULTRAの名前が
聞こえたのがおかしいんだよ!」
「ね、寝と振り?」
なんだかよくわからないが、
どうせえっちな単語に決まっている。
センねぇは変態なのだ。
「私見れてないもんネトフリULTRA!
おもしろかったらどうしようって思って!
最近そういうの多いんだよ!
SPは我慢して見て面白かったけど、
Rebirthは怖くてまだ見れてないんだ!」
「な、なんや!? なんの話やねん!?
エロい話か!? それもえっちな話か!?」
さっきまで凹んでいたと思ったら
今度は両肩に両腕を重ねてがたがたと
体を前後に揺らしてくるリンネ。
バカ力で頭を揺らすのは勘弁して欲しいのだが、
それはさておきセンねぇが平常運転に
戻ってくれたのはうれしいイサムである。
「こんなの気付いて当然の嘘……
トリック以前の問題だった!
にもかかわらず騙されたのは、
私の心の中にずっとそういうモヤモヤが
消えずに残っていたから……!
だからネトフリは見られなかった……!」
なおストーリーから原作愛は感じられるのだが
それはそうとして特撮好きにはどうしても
複雑な思いを抱かせてしまう作品ではある。編注。
それでも見るならグリッドマン、ダイナゼノン、
ゴジラSP、ガメラRebirth、ULTRAMANの順で
目と精神を慣らしていくのがオススメ。
「そんな嘘をつけるのは魔王軍だけ。
魔王軍は私の心を折るため、
卑劣な噂話を私の近くでだけ囁いた……!」
「あぁ、そういうことだったんか……」
くらくらと視界が回る中、
ようやく事情を理解したイサム。
魔王軍、なかなかに卑劣な手を使う!
「でも、だとしたらおかしい……
魔王軍だって同じ思いを抱いているはず……
特撮が好きだからこそ、
CGでいいんじゃないかという思いはある……
特撮の映像が良く見えてしまうのは、
ただの懐古厨なのではないかと……」
「んー、わいはようわからんが、つまり、
あれか? 魔王軍の……自虐ネタか?」
「……っ!?」
その時、リンネは思い出す。
(お父さんがビデオ録画していた
放送当時のウルトラマンガイア……
その、途中に挟まれていた変なCM……!
今はもう潰れてなくなったゲーム会社の専務が
自虐めいたCMに出演していた!!)
※編注:潰れてはいません。
(言ってしまえばあれも……あのCMも……!
ある意味、B級特撮!
前に本郷猛さんが柔道着で出ていたし!)
そうかな? そうかも。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
一方その頃。
リンネが立ち直ったことをまだ知らないキッカ。
にやにやと下衆な笑いを浮かべながら、
リンネの泣き顔を拝んでやろうと町を歩く。
「さてさて、そろそろ荷物をまとめて
田舎に帰る支度を……お?」
と、ちょうどその時。
『愚かな人間共! 貴様らに今週の
雷魔神の世直し活躍を見せよう!!』
今週の魔王軍の魔法放送が始まった。
「いいぞー! 魔王軍!」
「雷魔神がんばれー!」
「おもしれぇぞー!」
自分の撮ったB級特撮を楽しむ人々の声は、
甘美な響きに聞こえた。が……
「ちっ、ふざけやがって」
「どう見ても嘘だってわかんだよ」
「くだらない真似をしてくれる……」
当然、アンチの声も聞こえてくる。
そこまでは、いい。まだいい。当然だ。だが。
「やるなら真面目にやって欲しいんだよなぁ」
「嘘だとわかっても、すげぇ絵が見たいんだよ」
「どーせカネもかかってないんだろ?」
そういう声は、鬱陶しい。
(何もわかってねぇアホが
好き勝手言いやがって……!
B級特撮がB級に見えるのは、
見るヤツの目がB級だからなんだよ……!)
もうとうに聞き慣れたはずなのに。
わかってないやつらの声が、鬱陶しい。
ついつい恨めしく群衆を眺めていた、
その中に。
(あいつ……!)
真剣な目で映像を見る、
勇者リンネの姿もあった。
(……けっ。ちげぇよ。違う。
お前も何も、わかってねぇ)
おそらくリンネには、見えている。
この一見馬鹿げた映像の影に隠れた
高度な特撮技術の数々が。
だがそれでも。
それでも彼女はわかっていない。
(目が、ちげぇんだよ。
俺の絵は、そんな目で見る絵じゃねぇ。
そんな真剣な目で……っ)
その時、爆発が起きる。
――ドッ、わはははははははははは!!
「今のギャグ最高だな!」
「雷魔神おもしれーっ!」
「いいぞー! 悪徳貴族をやっつけろー!」
渾身のギャグに大爆笑する群衆の中で。
「……ぷっ……ふふっ……くくくっ……!」
「!!」
リンネもまた、笑っていたのだ。
「おいおいセンねぇ、いいんか? 笑ってて」
「なんでよイサム」
「卑劣な魔王軍の罠やで?
どうせなんか裏があって……」
「だろうね。そう思う。絶対そうだ。
だけど……」
「面白いと思ったら笑う。
そこに理由なんて、必要ないんだよ」
「……なんや」
キッカは最後まで映像を見ず広場を後にする。
そこにこれまでのような下衆な笑顔はなく。
「わかっとるやんか」
楽しげに笑ってから。
「ギルドとの契約は、ここまでだ。
わりぃことしたな、リン姉ちゃん」
ポケットの中の契約書を破り捨てて。
「……あ。こいつは……どうすっかな」
最後の1枚だけを、ポケットに戻した。
この物語は第一章最終話まで書き上げたものを
予約投稿して公開してるの。
毎日22時20分更新で全18話、
第一章最終話は11月4日になるわ。
文字数は約10万文字で、普通のラノベ1本分くらいね。
気に入った方は前作もよろしく。
★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る
鉄オタエルフの奮闘記。
異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚
「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~
https://ncode.syosetu.com/n8087ko/
【Nコード:N8087KO】
★全員クズの勇者パーティの中に
裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり
全員が暗躍しはじめる話。
このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!
https://ncode.syosetu.com/n7991lc/
【Nコード:N7991LC】




