第13話:死斗! 勇者対二人の幹部
この物語はフィクションですが、
登場する人物・団体・名称等は、
実在のものが意識されています。
本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく
全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。
この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を
作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。
順調に進む勇者リンネのヒーローショー興行旅。
魔王軍の嘘を暴き、放棄された畑に肥料を撒き、
肥料を作って売る両親と、協力した水晶伯、
両方の宣伝活動をして収益を上げ、
増えた予算でさらに魔王軍の嘘を暴く。
そんな勇者の快進撃に対し、
魔王軍の勢いは当然反比例する。
「おい! 魔王軍の魔法放送だぞ!」
「あー、もういいよ、それ。
どうせ嘘なんでしょ?」
今までは恐怖に震えながらも
この先を生きるための情報を少しでも得ようと
魔王軍の魔法放送と向かい合ってきた人々。
だがそれがすべて嘘とわかれば話は別。
今まで散々自分たちを怯えさせた魔王軍への
怒りと反感に感情の色を変えつつあった。
しかし、この追い詰められたと言える状況で。
魔王軍は、まさかの手を打ってくる。
「いっけー! がんばれ電魔人!
怪獣ギララをやっつけろー!」
「おいおい、何応援してんだこのガキ」
「ははっ! 気持ちわからなくないけどな」
魔王軍の魔法放送を前に集まる人々。
彼らの表情には、今までなかったものが。
笑顔が、あった。
「いやぁ、魔王軍の魔法放送。
嘘だとわかって見れば面白いじゃないか!」
「あんなのどう見ても嘘ってわかんだよなー!
もはやセリ姉のヒーローショーの方が
かっこいいしすげぇんだって!」
魔王軍は、路線を変更した。
これまでの豊富な予算を使ったハイクオリティの
特撮映像から、いかにもな低予算でチープで適当な
まるでコントのようなB級特撮に内容を変えたのだ。
(……やっぱり、一筋縄で行く相手じゃないか)
そんな誰が見ても嘘とわかる映像を見て
リンネは険しい顔をする。
彼女はまたしても、危機感を覚えていた。
「おいおいセンねぇ、何そんな怖い顔しとんのや。
もうこんなん、魔王軍の『マイリマシタ』や!
やっこさん嘘を暴かれてヤケになっとんのや!」
「……本当にそう思う?」
リンネは周りが指を指して大爆笑する映像を
ひとり鋭い目で睨みつけ続ける。
「なんやなんや、あんなの全部嘘やろ!
わいが見たってわかるわ!」
「……じゃぁイサム。右上の空を見て」
「ん?」
言われて見た空には、空飛ぶ円盤が
ぷかぷかと浮かんでいた。
「あれがどうしたんや?
どうせ見えない紐で吊ってるんやろ?」
「違う。紐で吊ったんじゃあんな揺れ方しない」
リンネは手元で鞄を吊って揺らしてみる。
確かにその揺れ方を円盤の揺れ方はまるで違う。
「あー、つまりあれか?
あの円盤の嘘は、センねぇでもわからんのか?」
「円盤だけじゃない。他にも私が見て
まるで撮り方がわからない技術が至る所にある。
正直……私が見ても、特撮に見えない。
魔法と言われても、信じてしまいそうな絵が
無数に隠されている」
「なっ……!?」
リンネは考える。魔王軍の特撮技術の秘密を。
そして、魔王軍の狙いを、目的を。
「……わからない。でも、おそらく。
映像を『見てもらわないと』困る理由がある。
映像を『見せること』自体が目的になっている。
だから、一見楽しく見えるコントめいたB級特撮を
わざと作っているんだ……!」
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「と、考えているとしたら。
半分しかあってねぇなぁ……」
魔王代理アキの元に集う魔王軍四天王。
彼らは戦隊ごっこのために集まったわけではない。
そのひとりひとりが、高度な特撮撮影技術を持つ
映像作品における『監督』とも言える役割を
担える超級の職人たちである。
四天王は全員得意な分野が異なり、
それぞれに特徴とも言えるスタイルを持つ。
ここ最近の魔王軍の映像を担当する
四天王が1人、キッカ。彼の特技は……
「いつからB級特撮がB級だと錯覚していた?」
B級特撮である!
「たしかにわしらには目的がある。
その目的で言えば、わしらの作る映像を
見て貰わないといけないのは事実だぜ。
けどな、見せる方法なんていくらでもある。
あんまりわしらを舐めるなよ、リンネちゃんよぉ。
ノアも、シグも、ミケも。勿論アキ様も、
誰が撮ったって目を逸らせない絵は撮れる!」
それは強がりなどではない、明確な事実。
実際のところ、魔王軍の真の目的を前に
リンネの行動は、さしたる妨害になっていない。
ただ、恐怖という方法が
もう使えなくなったに過ぎないのだ。
「で、なんでわしがB級特撮を撮るかって?
そんなもんなぁ……」
あぐらをかいたままニヤりと笑い。
「好きだから以上の理由はねぇよ! ばぁか!」
魔王軍四天王、蒙古斑のキッカ。
彼こそ、B級特撮の神童である!
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「は? 嘘だろ?」
「リンネ・セーデルルンドを魔王軍に迎えます。
これは既にアキ様の承認もいただいています」
キッカは耳を疑った。
四天王のリーダー的ポジションを務めるシグが
寝耳に水をリットル単位で流し込んで来たからだ。
「ゴメス・ザ・ライドの開設で有耶無耶になったけど
そもそも私はそのつもりで彼女に接触したの。
彼女のひととなりを調べ、
同志になってくれるだろう土台も確認しているわ」
「ふ、ふざけんな! わしは認めないぞ!
なぁミケ! お前もそう思うだろ!?」
ちらりと目を向けたミケは腕を組んで目を瞑り。
「キッカの言いたいことはわかる。
俺もキッカと同じで反対だな。
相手はただのオタク。素人の女学生だぞ?
仮に同志に加わったとしても、
操演以外では活躍できんだろう」
「きぐるみの中でも活躍できねぇよ!
つーかあの身長じゃ入れるきぐるみがねぇっての!」
「それでもあの発想力は侮れません。
ゴメス・ザ・ライドの完成度の高さは
あなたも見たでしょう?」
「あ、あんなんただ、ネズミの国の
ジョニーデッブのファンだったから
思いついただけだろ!」
と、言ってはみるが。
「本当にそう思いますか、キッカ。
あなたがあそこで見た海は
カリブの海ではなく大戸島の海のはずです」
「う゛っ……!」
そう、それは確かにキッカ本人も認めている。
あの技は間違いなく、初代ゴジラの撮影技法だ。
「そもそも彼女の行動で我々は
計画の変更を余儀なくさせられています。
一度こちらの上を取られている以上、
野放しはできません。それはわかりますよね?」
「だからって引き入れるって話にはならねぇ!
始末するって選択肢だって……」
その言葉にノアとシグは目を逸らし、
ミケは瞑ったままの目を開かない。
「……ではあなたがその始末をしますか?」
「そ、それは……」
始末とはつまり、そういうことである。
それを無意識に避けようとするあたりで、
彼らが純粋な悪党ではないことはわかる。
「……ノアとシグの言うこともわかる」
「おいミケお前裏切んのか!?」
ミケもキッカと同じく、反対側である。
ただ、前回の逆恨みからリンネを認められるかと
意固地になっているキッカとは違い、
単純に自分たちの境遇と理念とプライドからの反対だ。
冷静に現状を考えれば、ノアとシグの言葉が
正しいことは理解できた。
「つーかノア! わしは初耳だぞ!
ひととなりって言うけど、
一体何で判断したか聞かせろよ!」
「なるほど。確かに。
まぁ判断した点はいろいろありますが、
なにより彼女は……」
一呼吸をおいて。
「ウルトラマン派です」
「「話にならん!!!!」」
やはり、いついかなる時であっても
悪の組織の内部対立は不可避のお約束であった。
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「……ちっ」
「それで、どうするキッカ。
大見得を切って出たが」
他の目がない2人だけの場。
ミケも仲の良いキッカを相手に
声のトーンを下げた気楽なタメ口になる。
「始末するしか……ねぇだろ」
「だが……」
口ではそう言っても、やはり目には迷いがある。
明らかに人を殺したことなど一度としてない目。
魔王軍などと悪を名乗りつつも、
その本性はどうみても善性側にあるらしい。
「わかってる。別に殺そうってわけじゃない。
戦う気力を奪って田舎に帰らせればいいんだ。
ノアの話じゃ実際その一歩手前だったんだろ?」
「女子高生らしいメンタルの弱さ。
そこを狙うのか。なるほど」
にやりと邪悪に笑うキッカ。
世が世ならSNSで炎上とか狙うタイプだろう。
「そういうことだ。
わしが、高度な情報戦ってやつを見せてやるよ」
「高度な情報戦……ねぇ」
しかしミケはそんな戦略に不満が見える。
殺しは当然のライン超えとして、
彼の中では誹謗中傷ですらライン超えらしい。
「気に入らねぇって?」
「気に入らんな。俺は俺でやらせてもらう」
「はいはい、ホントにお前はおりこうさんだよ。
だが、わしの邪魔はすんなよ?」
「わかっている」
こうして2人は夜の闇に溶けていく。
次回、勇者リンネに魔王軍の悪意が迫る!
そんなに大した事ない悪意が迫る!
この物語は第一章最終話まで書き上げたものを
予約投稿して公開してるの。
毎日22時20分更新で全18話、
第一章最終話は11月4日になるわ。
文字数は約10万文字で、普通のラノベ1本分くらいね。
気に入った方は前作もよろしく。
★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る
鉄オタエルフの奮闘記。
異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚
「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~
https://ncode.syosetu.com/n8087ko/
【Nコード:N8087KO】
★全員クズの勇者パーティの中に
裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり
全員が暗躍しはじめる話。
このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!
https://ncode.syosetu.com/n7991lc/
【Nコード:N7991LC】




