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異世界を恐怖で支配する魔王の力は全部特撮なのにこの世界の人たちは私の言葉を信じてくれません! ~総天然色異世界~  作者: 猫長明
第1章:異世界を恐怖で支配する魔王の力は全部特撮なのにこの世界の人たちは私の言葉を信じてくれません!

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12/18

第12話:姿ある挑戦者

この物語はフィクションですが、

登場する人物・団体・名称等は、

実在のものが意識されています。


本作品は特撮作品及びその関係者を批判するものでなく

全ての特撮作品へのリスペクトを持って執筆しています。

この場を借りて情熱をもって素晴らしい特撮作品を

作られたすべての方々へ謝辞申し上げます。

 ゴメス・ザ・ライドのオープンはこの世界の人類が

 魔王軍に大勝した大きな区切りとなった。


「魔王軍など存在しない!

 彼らは特撮の嘘で人類を騙し、

 世界をかすめ取ろうとしているんだ!」


 半年前にはありえなかったそんな言葉を

 叫ぶ人が次々に現れている。

 彼らの前で旗を振るのが勇者リンネである。


 爆発を用いたヒーローショーと、

 彼女がプロデュースしたゴメス・ザ・ライド。

 それは確かに、魔王軍の特撮の嘘を

 部分的には暴いていた。


「じゃぁアレはどうやってるんだ!?

 ビームを打ったり、空を飛んだり、分身したり!

 あの勇者は納得のいく説明ができてるのか!?」


 そう、あくまで部分的。

 リンネには説明ができない嘘が

 まだまだ無数に存在している。


 わずかでも疑問が残っている限り、

 確定した常識は変わらない。


 もう魔王軍の存在も恐怖も、

 この世界の常識として確定されていたのだ。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「なら、その常識を、ぶっ壊す!」


 カメラがなければ特撮は撮れない。

 その固定観念を覆したリンネは勢いに乗っていた。


 この世界の両親から届く仕送りに加え、

 水晶伯のゴメス・ザ・ライドの収益の3%。

 これが今のリンネの特撮に使える予算だ。

 これを用いてのヒーローショーは、

 今まで以上の設備を使う豪華な物になっていた。


「デュワッ!!」

「!?」


挿絵(By みてみん)


 ステージ上でリンネがその謎のポーズを取った瞬間

 観客席から数名が驚きのあまり立ち上がる。


「あのポーズは!」

「知っているのかライデンの!?」


 このいかにも解説役らしい名前の男だが、

 名前がライデンというわけではなく、

 ライデンという町に住んでいる一般人である。


 なお、実際にライデンという町は

 我々の地球のオランダに実在しており、

 そこにある大学がライデン大学で、

 この大学で開発された静電気を貯める装置の名が

 かの有名なライデン瓶である。

 日本人、雷電瓶と勘違いしがち問題。


 閑話休題。


「それで、あの腕を十字に組むポーズは!?」

「あぁ、魔王軍の魔物が光の魔法を……

 ビームを使う前に取ることの多い

 謎のポーズだ! まさか……まさか!」


 ごくりと息を飲んで見守る観客たちの前で。


「ヘアァッ!!」

「!!!!」


 リンネから、ビームが放たれる!


挿絵(By みてみん)


「嘘だろ!? いや……嘘だ! 嘘でいい!

 あれも魔王軍の、嘘だったんだ!」


 そしてビームが命中したカカシは爆発。

 今日はちょっと爆発の規模が小さいが、

 既に爆発の魔法は見慣れているし、

 嘘だということもわかっている。


「すげぇ……まさかビームまで、

 特撮の嘘だったなんて……

 でもどうやって……ん?

 おい……おいおいおいおい!」


「まさか!? セーちゃん!?」

「まさか!? セルちゃん!?」

「まさか!? セラさん!?」

「まさか!? セールン!?」

「まさか!? セド様!?」

「まさか!? セデル君!?」


 相変わらず呼び名が統一されないリンネこと

 リンネ・セーデルルンドなのだが、

 彼らが驚いた理由は彼女のこのポーズ。


挿絵(By みてみん)


 そう、このポーズも魔王軍の映像で

 見たことがあるポーズだ。ということは……


「まさか……まさかまさか……!」


 ごくりと息を呑む一同の前で。


「シュワッチ!」

「ああっ!? やっぱり飛んだぁ!!」


挿絵(By みてみん)


 そのままリンネがジャンプ。

 そしてステージの上枠に一瞬その姿が消えた後。


「嘘だろぉぉぉおぉおおお!?

 いや!! 嘘だぁぁぁぁああああああ!!

 あれも嘘だったんだぁぁぁぁああああ!!」


 あろうことかリンネはそのまま空を飛び、

 雲の中に消えてしまったのだ!


挿絵(By みてみん)


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 嘘だとはわかっている。

 わかっているからこそ。


(一体どうやっていたんだ……!)


 そう、彼らはもう特撮の概念を知っている。

 すべてが嘘だとわかっている。

 だからこそ、信じられず、わからない。


(どうすればあの嘘がつけるんだ……!)


 しかしその目に恐怖はない。

 むしろ、期待とわくわくに輝いている。


 そう。ショーはここまでが半分。

 ここからが、本番だ。


「はいはい! 全員枠の中から出ちゃあかんで!

 もう一度ルールを説明するからよう聞いてな!」


 一同の前にイサムが駆け込んできて声を張る。


「みんなわかっとるやろ!?

 これは全部嘘や! トリックがあんねん!

 今回の暴くトリックは、2つ!

 魔王軍のビームと、空を飛ぶ技だ!

 この謎を暴くのは……あんたらや!」


挿絵(By みてみん)


 観客たちを指差し、にやりと笑うイサム。

 そう、ここからが、本番だ!


「この2つの謎をそれぞれ解いた先着1名に、

 うちの肥料1ヶ月分と、ゴメス・ザ・ライドで

 使える商品券5000クレ分をプレゼントや!

 おっとまだや! まだ動いたらあかんで!

 今回もわいとセンねぇのショーに来てくれて

 ありがとな! 己らが立ってるその枠は、

 あんたらが並んで勝ち取ったスタートラインや!

 不公平なんてあらへん!

 さぁ……カウントダウンはじめるで!

 ゼロで走りだし、謎を解いてわいに伝えるんや!

 いくで! みんないっしょに!」


『5!』


 イサムが銀の皿のようななにかが

 書かれた絵を広げると同時に全員が叫ぶ。

 この絵はリンネが描いたものなのだが、

 イサムを含めた全員がこれが何かわかっていない。


『4!』


 カウントが進むと同時に紙芝居のように

 絵を入れ替える。次に現れたのは

 黄色の小さな家だ。ありえないとは思うが

 どうも海の中にある家に見える。


『3!』


 続いて赤い筆か槍のようなものが現れ。


『2!』


 今度は大きな緑の亀。


『1!』


 最後の銀と青の筆もしくは槍が出た後で。


『サンダバー! (あご)ー!!』


 全員意味はわかっていないのだが、

 とにかくリンネがそう言えというのだから言う。

 ある意味でお約束のコール&レスポンスだ。


 こうしてステージに向け走り出した一同は

 この日のショーの謎解きを行う。

 これが新たなリンネのヒーローショーの本番だ!


「うおぉっ!? なんだ!?

 見えない壁があるぞ!」

「ガラスだ! すごい出来のいいガラスだ!」


 まず先頭を走る数名が、

 ステージの前に貼られていたガラスの壁に気付く。

 しかしこの時、後ろを走っていた数名は

 あらかじめそこに壁があるのをわかっていたように

 横に迂回しステージに登っていた。


「甘い……これだからヒーローショー素人は甘い!

 最前列は確かによく見えるが、見えすぎる!」

「センちゃんはそれを計算している!

 そのガラスも、左右や後ろの方からなら

 微妙な反射の違和感でわかるのさ!」


 それがわかっているリンネのおっかけ達は、

 真っ先に並んで最前列真正面の席を嫌う。

 これがイサムの言う「公平」だ。


「ん、これは……青色のついた水と、

 きらきら光る金属の粉?」

「まさかあのビームは、

 ただの水鉄砲だったのか!?」


 ステージに登った数名は

 色水の入った樽を発見する。

 彼らはちらりとイサムに振り向くも、

 イサムはふるふると首を振って返した。


「そうだ、もしも水鉄砲だとしても、

 水が飛び散ることも下に落ちることもなく

 まっすぐビームのように伸びるのはおかしい!」

「それにあのポーズを取ったセイちゃんは、

 水鉄砲なんか打てるはずがない!」


 それぞれが口に出しつつ推理を進める。

 確かに一番には賞品が用意されているが、

 彼らは別段賞品欲しさに競っているわけではない。


 彼らが求めるのは謎を解く気持ちよさ。

 そしてここにいる全員は、

 それを共有する同志でありチームなのだ。


「おい! ステージの前にガラス板が!」

「だからもうそんなのわかってんの!

 今更そこで足止めされてないで……」


「違うんだよ! このガラス板の奥に

 大きな管みたいなのが通ってるんだ!」

「なにぃっ!?」


 慌てて駆けつける数人の男たち。

 確かに管がある。

 その管はステージの中心から左に向けて

 一直線に伸びていたが、

 中心部分でLの字型に折れ曲がり、

 ステージ奥へと繋がっていた。


「なんだ、この管は……」

「……この折れてる場所、

 セーさんが立ってた位置だよな?」


 ここまでの情報を推理して、一人が叫ぶ。


「わかった!!」

「はい兄ちゃん答え言うてみい!」


 駆け寄るイサムにドヤ顔を返してから。


「この管を通してステージの奥から、

 さっきの青い水に光る金属の粉を混ぜた液体を、

 一気に流し込んだんだ! それが観客席から

 ビームに見えていたんだよ!」

「正解や! 肥料1ヶ月分持ってけ泥棒!」


 この回答を、一人隠れて聞いていたリンネは

 満足そうに頷いてみせる。


(そう、その通り。言うならば、

 リアルタイムのエリアルイメージ合成。

 ステージの前に透明のガラスを貼り、

 そこにタイミング良くビームを重ねる。

 当然時間と太陽の光の角度も計算済み。

 ビームに見えるよう、水に溶かす金属の粉の

 種類や量もいろいろ試しましたからね!)


「あっ!! セド様そんなところに!?」

「ふふっ、見つかってしまいましたね」


 と、ちょうどその時、リンネが隠れていた

 ステージの上の梁の下に入り込んだ人が

 彼女を見て指をさす。


「よっ、と」


 梁から飛び降りると同時に、

 脇の下にまわしていた背景色と同じ黒のベルトと

 金具のロックをぱちぱちと外していくリンネ。


「えええっ!? い、いつの間に戻って!?」

「お、俺は君が空の彼方に消えたのを見たぞ!」


 混乱する人々。だが数名は冷静に今のリンネの

 動作に注目していた。


「なるほど、やはり飛んで見せたのはトリック。

 梁の上に回した紐で引き上げただけ」

「その通りです」


 そこまではいい。この技自体は、

 以前も攻城櫓を使用して見せていた。

 あの時よりもさらに芸が細かく、

 バレにくいようにセットが組まれているが。


「で、でも! 確かに俺達は

 空に消えていった君を見たぞ!」

「しかし本物のせっちゃんは梁の影に居た。

 ということは俺達が見た空を飛んだ姿は……」


「偽物だった……?」


 それならわかる。わかる、が。

 だとしてもどうやって……?


「おい見ろ! この岩の影にあるの……

 トレビュシェットだ!」

「と、トレビュシェットだとおっ!?」


挿絵(By みてみん)


 トレビュシェット。地球の歴史で紀元前250年頃、

 古代の賢者アルキメデスが発明した攻城兵器。


 尤もそれは眉唾物の半オカルトで、

 実際に使用が確認されている

 最古の記録は西暦1165年の東ローマだ。


 ともあれ、どちらにせよ。

 この世界の技術水準でも既に登場していて

 おかしくない機械である。


 高さ3mのこの木製の機械は、

 回転する木製のアームの遠心力を利用して

 遥か遠くまで石を投げる投石機だ。


 なお投げられるのは石のみではなく、

 槍を投げたりもできる他、

 敵軍の士気を下げると同時に伝染病を広める目的で

 死んだ人間の首や体の一部を敵陣に

 投げ込む目的で使われていたこともある。


「……そうか! あの空に飛んでいったのは、人形!

 ただの人形だったんだよ!!」


 と、納得のいく答えが出かけるが……


「いや、それはありえない」


 ここでいかにもインテリな学者貴族めいた

 男が前に歩み出る。


「確かにトレビュシェットを用いれば

 物を遠くに投げ飛ばすことは可能だ。

 しかし、私達が見たセーデルルンド嬢は

 雲の彼方に消えていった。

 このサイズのトレビュシェットでは、

 身長140cm、体重……うぼぉっ!?」


 ここで学者貴族が3人の男にタックルを喰らう。


「おいバカやめろ!

 こう見えてセイちゃんは女の子だぞ!」

「そうだ女の子に体重の話をするな!

 デリカシーがないぞ!」

「あとお前は知らないらしいが、

 セルちゃんの前で身長の話もタブーだ。

 覚えておくんだな」


 ありがたいのだがなんとも

 微妙な気分になってしまうリンネである。

 学者も申し訳無さそうに軽く頭を下げた後に、

 こほんと咳払いを挟んで話を続ける。


「とにかく。平均的な女性の体から計算される

 重量を考えれば、雲の彼方まで投げ飛ばすのは

 不可能と言えるだろう」


 してやったぞと言わんばかりの学者。

 だが、リンネのショーを何度も見ている常連は

 呆れ顔とドヤ顔の混ざったような顔で彼へ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「!?」


 そう、彼らはもう、その程度のトリックは

 とうに見破っている!


「遠くの物は小さく見える。遠近感ってやつだ。

 なら、本物よりも小さい人形を飛ばしても、

 それは遥か遠くを飛んでいるように見えるだけ。

 本物よりも小さいとは、気付けない!」

「小さい人形なら、細部の作りが多少荒くても

 気付きにくいというメリットもあるしな」

「ああっ!?」


 衝撃に一歩下がる学者。そのままに叫ぶ。


「つまりあれは!

 梁の上にセーデルルンド嬢をロープで引き上げ、

 本人がその影で隠れると同時にタイミングをあわせ

 トレビュシェットで人形を発射!

 体を一直線に伸ばした姿勢は、

 槍を投げる要領で射出するためのもので、

 見事自然に入れ替わり、

 空へと飛んで消えたように見せていたと!

 そういうことだったのか!?」


「「「「……あ」」」」


 と、こうして一連の考察をつなげた学者に対して。


「あー、正解や。ゴメス・ザ・ライドで使える

 5000クレ分の商品券や。楽しんだってな」


 謎を解いた賞品が、授与されるのだった。

この物語は第一章最終話まで書き上げたものを

予約投稿して公開してるの。

毎日22時20分更新で全18話、

第一章最終話は11月4日になるわ。

文字数は約10万文字で、普通のラノベ1本分くらいね。




気に入った方は前作もよろしく。


★異世界で国鉄分割民営化を回避するため走る

 鉄オタエルフの奮闘記。


異世界で森を切り開き鉄道敷いて魔王を倒したエルフの後日譚

「ファン・ライン」~異世界鉄道物語~

https://ncode.syosetu.com/n8087ko/

【Nコード:N8087KO】

挿絵(By みてみん)




★全員クズの勇者パーティの中に

 裏切りものが1人いる(※1人しかいない)とわかり

 全員が暗躍しはじめる話。


このパーティの中に1人、魔王の手先がいる!

https://ncode.syosetu.com/n7991lc/

【Nコード:N7991LC】

挿絵(By みてみん)

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