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第三夜 苦渋の決断

「なんだよ、その顔。何でそんな嫌そうな顔するんだよ?」


 俺がオカ研だと聞いて嫌そうな表情を浮かべた篠原に俺はわざとらしく聞く。


「あたり前だろ。オカ研といえば、勝手に占拠した部室でただ遊んでるだけの不真面目な不良がいることで有名なんだぞ。そんなとこと、合併なんかできるか!」


「まぁ、そう言うなよ。それとウチは不良ってよりも変人が多いな。マジョリティから取りこぼされたはみ出し者がさ」


「とにかく、今の話はなしだ! 不良だか、変人だか知らないが、オカ研と合併するなんて真っ平だ」


「そうか、それは残念だな。でも、本当にいいのか?」


 俺はどこか含みを持たせて挑発する。


「どういう意味だ?」


 まんまと俺の挑発に反応した篠原は少しイラついた様子だった。


「この学校は部活の加入が必須で、原則かけ持ちは禁止だ。そして、今はもう7月末。こんな時期に部活に入っていない奴なんて、不登校の奴ぐらいだろ。この状況で、あと二人も部員を見つけられるのか?」


 歴研の方が条件が安易に感じられたが、よくよく考えてみるとこれはこれで難易度が高いことがよくわかる。


「それは……そうだが、他の部と合併するという手もあるだろ」


 篠原は負けじと食い下がってくる。


「それこそ、お互いの活動に影響が出るんじゃないか? 運動部なら尚更だし、文化部でも難しいと思うぞ。オカ研以外の部は最低でも部員は10人以上いる。それに対して篠原の歴研は一人だ。これだけ人数差があると合併した時に必ず活動に悪影響が出ると言っていい。一方で、オカ研は部員が三人しかいないから人数差もたいしたことない。つまり、お互いの活動を完全に別々で行えるのはオカ研だけってわけだ」


「君のとこはそもそも活動していないから、そんなことが言えるんだろう」


 うっ、痛いところを突かれたな。


「そこはこの際、どうでもいいことだろう。重要なのは歴研の存続だろ? そして、歴研を篠原の望む形で残せるのは俺達のオカ研しかない。違うか?」


「……」


 先程、提案を受け入れた時とは比にならないくらい篠原は苦い表情で悩んでいる。

 廃部の危機がかかっているというのにここまで嫌がられると、そんなにオカ研はヤバいのかと不安になってくる。

 悩み続けている篠原はますます苦い表情を浮かべている。

 悩むのはいいが、早くしてくれ。

 さすがに、これ以上はこの暑さに耐えられそうにない。


「背に腹は代えられないか……わかった。合併を受け入れる」


 泥水をすする覚悟で篠原はオカ研との合併を承諾した。

 そこまで嫌がらなくてもいいだろ。


「英断ですよ、篠原さん。一緒に頑張りましょうね」


 悪徳銀行の融資担当者みたいな言い方をすると、篠原に若干睨まれた。


「さっ、善は急げだ。早速、高山に合併のこと言いに行こうぜ」


 場の空気がこれ以上悪くならないように、俺は強引に篠原を連れて職員室に入る。

 廊下に長時間いたせいで熱がこもりまくった体が一気に冷やされていくのを感じる。


「失礼しま〜す! 高山先生いますか〜?」


 自分の計画通りに事が進んでいるため、声色に上機嫌がにじみ出てしまった。


「なんだ新庄? 何を言ってこようが、結論は変わらな――」


 俺の声を聞きつけて高山が自分のデスクからズカズカと歩いて来る。


「どういう風の吹き回しだ? どうして篠原も一緒にいるんだ?」


 俺の後ろにいた篠原に気づいた高山は幽霊でも見たかのように驚いている。

 俺と篠原というペアがあまりにも不自然で考えられないのだろう。


「歴研もオカ研と同じように廃部の危機にあるんですよね? それで、歴研は文化祭までに不足している部員を集めなければならないと」


「待て。なぜ、新庄がそんなことを知っている?」


「まぁ、そこは別にいいじゃないですか。それよりも、歴研の条件クリアできました」


「クリアだと? 篠原に廃部の件を伝えたのは数分前だぞ。そんな簡単に部員が見つかるとは思えないがな」


「本当ですよ! 嘘じゃありませんって!」


「なら、その部員とやらはどこにいるんだ?」


「ここですよ」


 俺は自分の顔に向けて指を立てる。


「なんだと? 新庄、それは部活のかけ持ちが禁止されていることをわかって言っているんだろうな?」


「もちろんです。只今をもって、オカルト研究会と歴史研究会は合併し、『オカルト・歴史研究会』として新たなスタートを切ることにしました!」


 体育祭で選手宣誓をするように言い放ったことで、職員室にいた教師全員が俺に対して奇異な目を向けた。


「は? な、何を言っているんだ新庄? オカ研と歴研を合併するだと? 篠原は本当にそれでいいのか?」


「篠原は快く承諾してくれました」


「新庄には聞いていない!」


 お前は黙っていろというように高山はドスの効いた声を発する。


「どうなんだ、篠原?」


「……苦渋の決断でしたが、致し方なく」


 そんな屈辱そうにしなくともいいだろ。


「……そうか。存続するために辛酸をなめたか」


 高山も同情するように励ましの言葉を篠原に送っている。

 だから、そんなにオカ研はヤバいとこなのかよ!


「で、オカ研と歴研の合併は認めてくれるんですよね?」


 同情なんかしていないで話を進めてくれ。


「あ、あぁ……そうだな。合併自体は問題ない。双方の部の代表者が合意しているなら、合併は認められる。二人とも、合併に同意したということでいいんだな?」


「はい!」


「……お願いします」


 俺と篠原が合意したことを確認して、高山はゆっくりと頷く。


「わかった。オカルト研究部と歴史研究部の合意を認める。手続きはこちらでやっておこう」


『ありがとうございます』


 俺と篠原が同時に礼を言った。


「じゃ、これで失礼します」


「待て、新庄」


 このまま逃げ切れるのが一番よかったが、そうはさせてくれないようで俺は高山に呼び止められる。


「話はまだ終わっていない。歴研の問題は解決されたため、存続ということで結構だ。しかし、オカ研の問題は解決していない」


「それがどうしたんです?」


「オカルト研究会と歴史研究会が合併した今、二つの部は一つとなった。つまり、歴研の条件がクリアしていたとしてもオカ研の文化祭までに成果を出すという条件をクリアできなければ廃部だ。これは必然的に歴研が廃部になることを意味する」


 それを聞いた篠原から、そんな話は聞いていないぞと熱い視線が俺に注がれる。


「やっぱ、そうなっちゃいます?」


「なるに決まっているだろ。そのことをしっかりと踏まえた上でこの夏休みを有意義に過ごすことだな」


 そう言い残して高山は合併の手続きがあるからと職員室の奥へと消えていった。

 それを見届けたところで、俺は篠原に引っ張られる。


「失礼しました」


 さっきの丁寧なお辞儀はどこへやら、篠原は挨拶だけして俺を押し出すように職員室を出た。

 扉がしっかり閉まったことを確認してから篠原は口を開く。


「どういうこと?」


「一緒に協力して、廃部にならないように頑張ろうぜ」


「ふざけんな!」


 こうしてオカ研は歴研と一蓮托生の協働関係となった。

 残念ながら、相手方はお気に召さないようだが……

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次話の投稿は明日を予定しております。


少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


活動報告も書いています。

よろしければそちらもご覧ください。

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