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第二十二夜 後日談と呼び出し結果

 あの地下壕から飛び出した後、俺達はすぐさまその場から立ち去った。

 だが、少し冷静になってよくよく考えてみると死体を見つけたわけだから、これは警察に通報しなくてはならないのではないかという常識的な考えがよみがえってきた。

 俺は足を止めて自分のスマホで警察に通報する。

 真夜中であったが警察はすぐに来てくれて、現場まで案内することになった。

 こんな時間に未成年が外出していることに関してはしこたま怒られたが、白骨化死体が発見されると事が事なのでそっちの件はすぐにうやむやになった。

 ちなみに、夜の学校に不法侵入したことは黙っておいてある。

 警察からの事情聴取を一通り終えると、時間も時間なのでそれぞれの自宅に警察官同伴で帰してもらえることになった。


 夜が明けた翌日には警察から連絡がいったのか、どっかの大学の偉い教授がたくさんやって来て俺達が見つけた地下壕の出入り口を調べていった。

 後日それが歴史的発見であることが新聞、テレビ、SNSとあらゆるメディアで発表された。

 そのおかげというか、何というか、俺達は一躍有名人になってしまった。

 今まで誰にも見つけられていなかった巨大な地下壕を地元の高校生達が見つけたのだから、話題になって当然ではある。

 俺達はメディアからの取材やらインタービューやら何やらで残りの夏休みを慌ただしく過ごすはめになった。

 聞かれたことに関しては警察にもメディアにも基本的には何でも正直に答えていたが、俺と篠原には唯一誰にも話していないことがある。

 白骨化死体がたくさんあった広間のような部屋の奥にいた狂気を纏いつつも決して見えない名状しがたいもののことだ。

 そして、もう一つ。

 俺はあの日、警察官に自宅へと帰される別れ際にある質問をこっそり篠原にしていた。

 体の硬直が解けて無我夢中で逃げている途中に、「おいてかないで、おいてかないで」という声が聞こえなかったかと。

 落ち着いて思い返してみるとアレは若い女の声に聞こえなくもなかったような気がする。

 しかし、篠原には何も聞こえなかったという。

 パニック状態だったから僕には聞こえなかっただけかもしれないと篠原は言ってくれた。

 その理論でいくと、俺がパニック状態になっていて何かの音を聞き間違えただけかもしれないとも考えられるんだけどな。

 あれ以降、あの時見たものや音のことについて二人で話すことはなかった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 そんなこんなで、俺は9月1日の始業式を迎えていた。

 校門をくぐると、校舎の窓から横断幕が垂れ下がっている。

 そんなのを見ると文化祭の準備が着々と進められていることを実感させられる。

 垂れ下がった横断幕は横長に大きいため左から右に視線を動かしてようやく、第41回と学校名に続いて文化祭と書かれていることがわかる。

 地下壕の騒動から半月近く経ったことで少しは落ち着いたかと思っていたが、俺達は学校でも注目の的になっていた。

 教室に入る以前に、校内に入った時点でたくさんの生徒に話しかけられた。

 悪い気はしないのだが、この熱気もどうせすぐに冷めるだろうとどこか冷静な自分もいた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 クラスメイトやこれまで一度も話したことのない生徒に囲まれながら質問攻めにあうという心落ち着かない一日を終えて、やっと放課後になった。

 今日が始業式で時間割が短縮されていることに、ここまで感謝した日はなかった。


 さて、放課後になったことだし部室にでも向かうかと俺が教室にある自分の椅子から腰を上げた時、放送で俺を呼び出すアナウンスが入った。


「……クソ、なんだよこんな疲れてる時に」


 そういえば、一学期の終業式の日もこんな風に呼び出されたっけ。

 そんなことを考えながら、俺は思い足取りで職員室へと向かった。


「失礼しまーす」


 相変わらずキンキンに冷やされた職員室に俺の気怠げな声が響き渡る。

 職員室は一瞬ざわざわとなって、たくさんの教師から視線を浴びた。

 俺達の話題の熱が冷めていないのは生徒も教師も変わらないらしい。


「お、新庄、来たか」


 奥から顔を出した高山が、こっちに来いと手招きする。

 高山は良くも悪くも変わらないな。


「お久しぶりです、高山先生。ここ最近は、こっちの方にはいらっしゃらなかったとか」


「そう言ってくれるな。先生もいろいろと仕事があるんだ」


「わかってますよ。それで、オカ研のことで呼び出したんですよね?」


「その通りだ。成果を出せとは言ったが、まさかここまでとはな。素直によくやったと褒めておこう」


「ありがとうございます。オカ研を廃部にされないように必死で頑張りましたから」


「正直、オカ研が成果を出すことなどあり得ないと思っていた」


「でしょうね」


 生徒に向かってそんなこと言うのは正直すぎるだろと俺は苦笑いする。


「それなりのものを目に見える形で出してくれば、それを成果として認めてやろうなどと軽く考えていたんだがな……どうも君達を見くびっていようだ。本当によくやってくれた」


 高山はなぜか深々と頭を下げる。


「やめて下さいよ。先生なんかが生徒に頭を下げるなんて。それに、俺達がどれだけ成果を出したからといって、今更何かが変わるわけではないでしょ」


「それでも君達はよくやった」


 折れない高山に俺はぎこちない雰囲気になる。


「ってことは、オカ研の廃部はナシってことでいいですよね?」


「もちろんだ。今回の地下壕発見という偉大なる功績を挙げたことを鑑みて、オカ研廃部の件は白紙となった」


 廃部を言い渡された時はどうなることかと思ったが、無事に俺は廃部の阻止に成功した。

 なんだか、とてもホッとした気分だ。


「ただし、明日の文化祭で今回の地下壕発見について発表すること。オカ研の廃部白紙は既に決定事項だが、元々そのつもりだったんだろ?」


 オカ研が文化祭で体育館の舞台を予約していたことを高山は把握していたようだ。


「知ってたんですか。わかりました、それでお願いします。じゃ、俺はこれで」


「待て。もう一つ、言っておきたいことがある。未成年が遅い時間に外を出回っていいと思っているのか?」


「そっちも知ってましたか……」


「あたり前だ。罰として反省文を書かせたいところだが、今回の功績に免じて不問とする。以降、気をつけるように」


 深夜に外を出回っていたことには目を瞑ってくれるらしい。

 これなら学校に不法侵入したことも隠さなくてよかったかもな。

 いや、さすがにそれは許してくれないか。


「はっ!」


 柄にもなく、俺は敬礼をしてみる。


「ふざけたことしてないで、早く帰れ」


 高山に面倒くさそうにあしらわれて、俺は職員室を出た。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 部室に入ると石塚に星越、そして篠原がいた。


「なんだ、篠原も来てたのか」


「まぁね。新庄が放送で呼び出されたのを聞いて、もしかしたらと思って来てみたんだ」


「高山の奴、何て言ってた? 言われたんだろ? オカ研の廃部について」


 篠原も石塚も俺が呼び出された理由はわかっていたようだ。

 星越も本を読んでいる振りをしているが、こちらの話が気になって内容は上の空だった。

 ちなみに、今日のタイトルは……「名状しがたいもの」だった。


「そうだ。高山から廃部のことについて言われたよ」


「どうだったんだ?」


「オカ研の廃部の話は……なくなった!」


 わざとらしく、タメを作ってから俺はオカ研が存続できることを叫んだ。


「いっ、よっしゃー!! これで廃部とか言われたら、高山を殴りに行くとこだったわ!」


「予想はしてたけど、はっきり言われるまでは少し不安だったよ」


「これでボク達の部室は守られたね」


 廃部にならなかったことを各々手放しで喜んでいる。


「ただし、明日の文化祭で地下壕について発表しろってさ。あと、深夜に未成年が外を出歩くなってお咎めも食らった」


「なんだよ、ケチくせぇこと言うなよ。素直にオレ達の成果だけ褒めとけつーの」


「だけど、高山先生が言っていることは正しい。わかった、新庄。明日の文化祭では、予定通りに今回の地下壕発見について発表しよう」


「え〜〜! 本当にやるの〜!? これだけの成果出したんだから、発表なんかしなくても廃部にならないと思ってたのに……」


 人前に出て発表することが極度に苦手な星越が口を尖らせる。


「文化祭で発表すれば、俺達が卒業するまでは二度と廃部の危機は来ないんだから頑張ろうぜ」


「そうだぜ、星越。ほんの数分、舞台に立って発表するだけだ」


「ボクは、それが嫌なんだって〜! 石塚みたいに誰もが得意なわけじゃないんだよ」


「僕もサポートするから」


「……わかったよ。やればいいんでしょ」


 篠原の補助があると聞いて、星越は渋々了承する。

 いつから篠原は星越からそんなに信頼されるようになっていたのだろう。


「よしっ! 明日の文化祭での発表、成功させるぞ!」


 明日の発表に向けて士気を高め、その日は解散となった。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次話の投稿は明日を予定しております。


少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


活動報告も書いています。

よろしければそちらもご覧ください。

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