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第二十夜 調査組と待機組

「さて、どうするか」


 簡単にうめき声の正体が分かってしまい、手応えを感じられずに俺は肩の力が抜けてしまった。


「どうするって、んなの地下壕に行くに決まってるだろ。ここ以外に目ぼしいルートがあるんだろ、篠原?」


「……そ、そうだな。地図によれば、変電所の近くに出入り口のようなものがある」


「なら、そっちに行くしかねぇだろ。ここで終わりだなんて、興醒めにもほどがあるぜ」


「わかってる、それぐらい! 行かないなんて言ってないだろ!」


「お、おう」


 いきなり強い口調になった俺に対して、石塚は少しだけたじろいだ。

 自分でもなぜこんなに強い口調になってしまったのかよくわからない。


「……悪い、強く言いすぎたな。ここからだと門まで戻って変電所に向かうよりも学校のグラウンドを突っ切って行った方が早い」


「グランドから変電所のある公園に出れるところなんてあったか?」


「俺も聞くまで知らなかったが、あるらしい。野球部や陸上部はよく公園にランニングに行く時とかは、そこから公園に向かっているらしい」


 俺以外はその場所を知らなかったため先頭に立って篠原達を案内する。

 グラウンドの左端奥に野球部がよく使う緑色の網でできたフェンスがある。

 そのフェンスを少しズラして、裏側へ回ると人ひとり通れるくらいの簡易的な扉がある。


「こんなとこに扉があったのか。体育の授業の時、こっちの方に何度か来たことがあったのに気づかなかったな」


 石塚が興味深そうに扉を眺めて開けようとしたところで手が止まる。


「おい、鍵掛かってるぞ。これじゃ、出れねぇよ」


 扉にはダイヤル式の鍵が掛かっている。


「大丈夫だ。鍵の番号は知り合いの野球部員から聞いている」


 教えてもらった暗証番号にダイヤルを合わせて俺は難なく鍵を開けた。


「よし、開いた。じゃ、行こうぜ」


 出際よく開けた扉から俺達は一列になってぞろぞろと変電所へ向かう。

 変電所へと向かう途中に俺はふと、風の音が「おいてかないで、おいてかないで」なんて聞こえることがあるだろうかと疑問に思った。

 うめき声に聞こえたのはわからなくもないが、あの音から何かしらの言葉に聞こえるというのは難しいと思う。

 そんな疑問が頭をかすめていると変電所に着いていた。

 ここまでは歩いて数分だった。

 門に戻って向かっていたら五分は違っていただろう。


「ここが例の変電所か……」


 星越から借りた懐中電灯を持っていた石塚が変電所を照らす。

 双眼鏡を借りていた篠原はいつの間にか星越に返していた。

 懐中電灯に照らされた正面の壁には銃弾によって作られたと思われる痕が無数に残っており不気味に感じられる。

 光が当たっているのにクレーターのようになった銃弾の痕には光が届かず暗いままだった。

 貯水池で見た、かまぼこ型に水面から飛び出た地下壕へ繋がる穴の暗さと同じような感じだ。


「それで篠原、地下壕への出入り口はどこにあるんだよ?」


「そんなに急かさないでくれ。今、地図で確認する」


 石塚を制した篠原はスマホに保存してあった変電所の地下壕の地図を頼りに近くにあるはずの出入口を探しだす。


「……おそらく、この辺にあると思う」


 しばらくの間、付近を行ったり来たりと歩き回っていた篠原が足を止めて言う。

 地下壕と現在の地図を照らし合わせて篠原が指し示したのは小さな花壇だった。


「この辺の下に地下壕への出入り口があるんだな」


 石塚は躊躇なく花壇の外枠として使われていたレンガを使って掘り始めた。


「何やってるんだよ! そんなことしたら花壇がダメになってしまうだろ!」


「大丈夫だって! もし、掘ってなかったとしても埋め直せばいい話だろ? 逆に、掘って見つかったのなら花壇のことなんかいくらでも有耶無耶(うやむや)にできる」


 篠原の注意を適当にあしらった石塚は気にせず掘り続ける。


「篠原の肩を持つわけじゃないが、そんなレンガじゃまともに掘れないからやめとけ」


「なぜ、僕の肩を持たないんだ。普通は一緒になって止めてくれるものだろう?」


「悪いな。考え方は石塚の肩を俺は持つ」


「……新庄達がオカ研だったことを忘れていたよ」


 オカ研にいいイメージを持っていなかった最初の頃の篠原の表情が久しぶりに見られた。


「でもよ、新庄。まともに掘れそうな物なんて、このレンガぐらいしかないぞ」


「それは、そうなんだけどよ……」


 学校に戻ってスコップでも持ってくるか?

 だが、備品倉庫が開いてるとも限らないしな……


「またしても、ボクの出番のようだね」


 不敵な笑みというか、ドラ◯もんが四次元ポケットから秘密道具を出すかのように星越が大きなリュックパックからスコップを取り出す。


「だから、なんで持ってるんだよ! ありがたいけど!」


 星越の大きなリュックパックには、懐中電灯やら双眼鏡やらスコップやらとがたくさん入っていたらしい。

 どうりで星越が門をよじ登る前にリュックを受け取った時、重かったわけだ。


「ナイスだ、星越! それ借りるぞ!」


 いろいろ持ってる星越の奇妙さを構わずに石塚は星越のスコップを受け取って、レンガを使ってわずかに掘れた部分にスコップの先端を当てて掘り進める。


「一応聞いとくが、他にもまだ持ってるのか?」


「持ってるよ。他には……筆記用具、モバイルバッテリー、コンパス、無線機、望遠カメラ、小型ドローン、非常食、花火、発煙筒とかその他諸々いろいろある」


「いろいろありすぎだ! お前はここに何しに来たんだよ!」


 星越はこれからサバイバルにでもいくのかというほどの重装備だった。

 あまりの星越の装備過多に呆れている横で、花壇の見る影がなくなるほどの大きな穴が掘られているのを諦めたように篠原が眺めていた。

 一方で、掘り進めている石塚は意気揚々としている。

 そこから石塚は数分掘り続けたが、出入り口のような物が見つかる気配はない。


「これ本当にあってんのか? 場所違うんじゃねぇの?」


 しびれを切らした石塚が篠原に疑いの目を向ける。


「地図では、この辺りのはずなんたが……古い物だから多少のズレはあるかもしれない。もう少し掘ってみて見つからないようであれば、場所を移そう」


「わかった」


 そこから数回、石塚が掘り続けたところでスコップの先端がカツンっと金属なようなものに当たった音がした。


「これ、キタだろ!」


 スコップを通して金属の感触を感じられた石塚が確信するように叫ぶ。


「ここからは丁寧に掘ってくれ。貴重な扉を傷つけられてはたまらない」


「言われなくてもわかってるよ!」


 石塚はスコップを優しく扱う。

 ある程度余分な土を退けたら、あとは全員で手を使って払い除けた。

 すると、土にまみれた金属製の扉のようなものが現れる。


「マジかよ……本当にあったぞ……」


 最初はあり得ないと考えていたものが今、俺達の目の前に大きく横たわっている。

 現実とは思えない妙な浮遊感が俺をつきまとう。

 だが、それはこうして眼前に存在している。

 これは疑いようのない事実だ。

 いや、疑ってはいけない事実だ。


「貯水池で空洞が見つかった時点で、地下壕が存在していることは理解していた。でも、いざ目にして見ると理解の深度が歴然と違うな」


 この世のものとは思えないものを目の当たりしたような恍惚とした表情を篠原は浮かべていた。


「この先に、地図にある通りの巨大な地下壕が広がってるってことだよな!? ヤベェな、おい!」


「単純にすごいとしか言葉がないね。このことはアーカムのミスカトニック大学にぜひ報告すべきだ」


 石塚と星越は楽観的に興奮し合っている。


「で、これ、どうやって中に入るんだ?」


 ついさっきまで興奮していた石塚が何の前触れもなく、真顔でそんなことを聞いてきた。


「……どうにかこじ開けるしかないだろ」


 扉は土の中にあったとはいえ()びついていて、中々開きそうにない。


「そうだよな〜……星越、貸してくれ」


「ボク、まだ何も言ってないけど?」


「どうせ、また扉をこじ開けられるような道具を持ってんだろ? もったいぶらずに早く貸してくれよ」


 ここまでのパターンを学習していた石塚は星越に先手を打つ。

 貸してもらう側にしては随分と図々しい態度だが、借りる時に毎回我が物顔をされるというのも腑に落ちない。

 ってなわけで、俺は石塚を支持しよう。


「……もう、わかったよ! ほら、どうぞ!」


 出鼻をくじかれた星越は心底不満そうに荒い手つきで石塚にバールを渡す。

 バールなんか持ってきて肝試しでどう使うんだよと言いたくなるが、こうやって実際に使っているのでぐうの音も出ない。

 あと、俺が他に持ってきている物は何かと聞いた時にバールなんて言ってなかっただろ。


「どうも。これで気兼ねなくこじ開けられるぜ」


 扉の僅かに空いていた隙間からバールの折れ曲がった先が短い方の先端を突き刺す。

 石塚がバールを使ってテコの原理で扉をギギッとこじ開ける。

 嫌な音を響かせながら扉は反対方向に土煙を上げて倒れる。

 そこから見えてきたのは、暗い下へと続くコンクリート製の階段だった。

 懐中電灯で照らしても一番下が見えないほど奥が深い。

 地下壕の中がどうなっているのか、ここからでは皆目見当がつかない。


「これは誰かが確かめに行くしかなさそうだな」


 俺の一言で一斉に全員の目があった。


「ボ、ボクは行かないよ!」


「だろうな。というか、最初から期待していない。何かあった時のために調査組と待機組で別れておこうと事前に篠原と話していたからな」


 調査組と待機組はそれぞれ半分ずつにするため、各組二人ずつだ。

 自動的に星越が待機組となったことで、残った三人のうち一人だけが地下壕の調査には行けないことになる。


「ズルいようだけど、僕が調査組に行くことは確定している。地下壕の中を案内できるのは僕だけだからね」


 地下壕の地図を持って案内することができる篠原は調査組に入れざるを得ない。

 だとすると、地下壕の調査に行けるのは俺か石塚のどちらか一方になるわけだ。


「石塚も星越みたいに残るって選択肢は……」


「あるわけねぇだろ!」


「だよな。じゃあ、恨みっこなしの軍艦じゃんけんだ」


「臨むところだ」


 俺と石塚は白熱の戦いを繰り広げて、見事に俺は勝利を掴んだ。


「クッソっ〜〜!」


 頭を抱えて悔しがる石塚は余程地下壕の調査に行きたかったと思える。

 だが、それは俺も同じか石塚以上だ。

 勝負は勝負だ。

 勝ったのだから、遠慮はいらない。


「悪いな、石塚。そういうわけで、調査組は俺と篠原、待機組は石塚と星越に決まりだ。地下壕に入ってから一時間以内には必ずここへ戻ってくる。もしも、一時間が過ぎても俺達が帰って来なかったら迷わず警察か消防に通報して助けを呼んでくれ。突発的な緊急性のあるアクシデントでもない限り、必ず一時間以内には帰ってくる」


「わかった、任せろ」


「警察とかに通報とか面倒くさいから、絶対に一時間以内に帰ってこいよ」


「おう! じゃ、頼んだぞ」


 石塚と星越に後を任せ、俺と篠原は底の見えない地下壕の入口に足を踏み入れた。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次話の投稿は明日を予定しております。


少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


活動報告も書いています。

よろしければそちらもご覧ください。

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