第二夜 魅力的な提案
職員室から出ると廊下のムワッとした空気が顔にまとわりつく。
キンキンに冷えた職員室との温度差が激しすぎて体が追いついていない。
これじゃ、体調を崩す奴が出てきても仕方ないだろう。
「はぁ~~」
心なしか大きなため息が出る。
廃部を回避できたのはよかったが、廃部の危機は以前去っていない。
文化祭までに成果を出せなければ俺達のオカ研はなくなってしまう。
「それで、これからどうするの?」
とりあえず、数秒いるだけで汗がたれてくる廊下に長居する必要はないので部室に向かおうと足を向けた矢先、フレームの細い眼鏡を掛けた一人の男子生徒が前からやって来た。
その男子生徒は職員室に用があるらしく、真っすぐこちらへ向かって来る。
俺の横を通り過ぎて行き、律儀に職員室の扉をコン、コン、コンと三回ノックする。
「失礼します。二年四組の篠原軅浩です。高山先生はいらっしゃいますでしょうか?」
四組ってことは俺の隣のクラスの奴か。
顔はあまり見覚えがないな。
コイツも俺と同じように高山に呼び出されたのか。
そういえば、俺の後に同じような用件が入っているって高山は言っていたな。
ん?
待てよ。
俺と同じような用件ってことはコイツも高山から廃部を言い渡されるんじゃないか?
そして高山のことだ、俺の時みたいに救済措置として条件を出すはずだ。
どこの部活に所属しているかは知らないが、お互い廃部の危機にあることに変わりはない。
廃部を阻止したいという利害も一致しているはず。
ならば、協力関係を結んだ方が条件クリアの確率も上がるというもの。
「暑いのは避けられないが、ここはアイツが出て来るまで待つしかない」
僅かに冷気を残しながら職員室の中へと消えていった篠原という男子生徒を出待ちするために、俺は蒸し暑い廊下に残ることを決意した。
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10分ぐらい経っただろうか。
さすがに暑さの限界で心が折れかけていたところ、ようやく待ち人が扉を開けて出て来た。
「失礼しました」
90度に頭を下げて出て来た待ち人を見て、内心俺はコイツとは合わなそうだなと思ってしまった。
これから協力関係を申し入れる相手にこんな第一印象を持ってはいけないのだが、思ってしまったものはどうしようもない。
顔には出さないようにして、ここは素直に受け入れよう。
「なぁ、ちょっといいか?」
ここから逃がさまいと進行方向を塞ぐように俺は声を掛けた。
「うわっ!」
いきなり声を掛けられたことに余程驚いたのか、待ち人は目を丸くしてのけ反っていた。
「あ、悪い。びっくりさせたよな」
「そ、それもそうだけど……汗すごいよ」
10分近く蒸し暑い廊下にいたんだ。
滝のような汗をかいてびっしょりとしていた俺は、さながら風呂上がりの人間のようであったろう。
あまりの暑さに体がマヒしていて、すっかり忘れていた。
俺は乱雑に額の汗をぬぐう。
センター分けにしている前髪からこぼれ落ちていた毛先が汗でぐっしょりと濡れていた。
「あぁ、気にしないでくれ。それよりも、高山の奴から廃部を言い渡されたんだろ?」
「え!? どうしてそれを――」
「知っているのかだって? それは俺も同じクチだからさ」
「君の部活も高山先生から廃部って言われたんだね」
「そういうこと。俺は、二年三組の新庄駲だ。同じ廃部の危機にあるもの同士、仲良くしようぜ」
なんとなく手を差し出してみる。
こういう場面ではお決まりの展開だろう。
「あ、えっと、二年四組の篠原軅浩だ。こちらこそよろしく」
遠慮がちに篠原は俺の手を握り返してきた。
さっきまで職員室にいたせいか、篠原の手は冷たかった。
「それで、篠原はどこの部活に所属しているんだ?」
「僕は歴史研究会に所属している」
「歴史研究会? そんなのウチの学校にあるのか?」
「知らないのも当然だよ。歴研には実質、僕一人しか所属してないから」
「一人? 一人だけじゃ、部として認められないんじゃないのか?」
俺の学校は部員が最低三人いないと部として認められず、作ることができない。
オカ研が俺含めて三人で構成されているのもそのためだ。
「まさに、そのことで高山先生に呼ばれたんだ。今年の夏で先輩達は受験で引退して、唯一いる一人の後輩は幽霊部員で一度も歴研に顔を出したことがない。このままでは存続できないと、高山先生から廃部の通告を受けたわけなんだ」
「なるほど。そっちは、そういう理由だったのか。どこも色々と大変だな。それで、どんな条件を言われたんだ?」
「条件?」
「あっただろ? 救済措置がさ。文化祭までにどうこうしろって感じのやつが」
「あぁ、あのことね。文化祭までは廃部の処置は待ってくれるって言われたよ。もちろん、文化祭までの猶予期間中に部員を規定の人数集められれば、引き続き歴研は存続していいみたい」
歴研の廃部を阻止する条件は文化祭までに不足している部員を集めることらしい。
オカ研と比べて条件の難易度が随分と優しいじゃないかと文句を言いたくなるが、まともな活動も成果も出していない俺達と比べたら妥当な判断か。
篠原の職員室での態度を見るに、コイツは真面目な優等生タイプなのだろう。
きっと、歴研の活動も真面目にやって目立つ成果はなくともそれなりの成果は出しているのだろう。
「その条件ならすぐにも解決できるいい方法があるぞ」
俺は協力関係を築くという目標を果たすために篠原へ甘い蜜をたらす。
「なんだって? 本当にそんな方法があるのか?」
「ある。それは俺達のとこと篠原の歴研を合併することだ。俺達のとこは既に部員が俺含めて三人いる。そこに篠原が加われが部員は四人になるから部員不足による廃部の心配もないし、必要最低人数よりも一人余裕もあってお互いにいい事づくしだ」
「たしかに、魅力的な提案だね。だけど、合併となるとお互いの活動に影響が出てしまうんじゃないかな?」
「そこは心配いらない。合併って言っても、名目上だ。活動自体は完全に別々で構わない」
「……それなら、問題なさそうだね。その提案、ぜひ受けさせてもらうよ」
少し考える仕草を見せてから、篠原は快く俺の提案に乗ってくれた。
「ところで、新庄君の所属している部活どこなの? まだ、聞いてなかったよね」
「そういや、そうだな。オカ研だよ。オカルト研究会。知ってるだろ?」
そう言った瞬間、篠原はもの凄く嫌そうな顔をした。
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