第十四夜 暇だったので「知らない天井だ」ごっこをしていました
「……知らない天井……じゃねぇよなぁ〜」
篠原の家に手伝いに行ってから三日後、昼寝から目を覚まして最初に入ってきた光景は自分の部屋の見知った天井だった。
人生一度は「知らない天井だ」をやってみたいもんだ。
もう一眠りしようと思ったのだが、遅起きした上に昼寝までしているのでちっとも眠くない。
「あ〜〜暇だぁ〜〜〜」
こんなに日は部室にでも行って、暇潰しをするしかないか。
とは思ったものの、生憎と今日は石塚も星越も予定があるらしく部室に行っても誰もいない。
こういう時に限って誰もいないというのはなぜだろうか。
一種の嫌がらせなのだろうか。
だとしたら、それはそれですごいな。
「暇だなぁ……いや、暇だと思わなければ暇じゃなくなるんじゃないか? 暇で何もしていないといっても呼吸や心臓は絶え間なく動いてるし、脳だって寝てても一部は寝てないっていうし。あれ? 俺って今も案外忙しいんじゃね? あー忙しい、忙しい」
自分一人の部屋に俺の声だけが空虚に響き渡る。
「……やめよう、虚しくなるだけだ。こんなことしてたら、医者に勘違いされて送り帰らされるわ。石塚達だけ残して帰れるわけがない」
やめた、やめたと俺はぐるりとひっくり返ってベッドにうつ伏せになる。
ベッドの上でダラダラとしていないで、少しは中庭の噂話を成果として発表できるように何かしなくてはとはもちろん考えている。
しかし、今は篠原がオカ研の手伝いができるようになるまで待つしかない。
それ以外に俺達ができることはない。
裏を返せば、それだけ行き詰まっているってことだ。
「どうすっかな〜。適当に外でもほっつき歩くか? でもな〜、外は暑いしな〜」
篠原は数日あれば蔵から引っ張り出した戦争資料の整理が終わるって言っていたよな。
数日ってどのくらいだ?
三日ぐらいか?
だったら、そろそろ篠原から連絡が来てもおかしくない。
いや、三日は早いか。
だったら、五日、六日くらいか?
それともまさか、九日くらいか!?
一応、数日の範囲内ではある。
う〜ん……わからん!
いつまでこのもどかしい待機時間が続くんだ!
『ピロン』
俺がもどかしさを紛らわすため、ベッドの上でひっくり返ったカメムシが起き上がろうとしているように手足をジタバタとさせているとスマホからメッセージを受信した音が鳴った。
一度、完全に動きを止めてから、机に置いてあったスマホに俺は飛びついた。
「し、篠原っ!」
メッセージは篠原から来たものだった。
俺はスマホを天にかかげるように上げて、篠原からのメッセージを開く。
『今、時間あるか?』
内容は俺が今時間を持て余しているかどうかの質問だった。
『ある! めっちゃある! 超暇してた!』
俺は爆速で返信する。
篠原からの既読はすぐについた。
だが、メッセージが返ってくる気配がない。
俺が爆速で既読をつけて、爆速で返信したことが篠原から若干引かれてしまったのかもしれない。
『スポッ』
そんな俺の不安を嘲笑うかのように追加のメッセージを知らせる音がスマホから聞こえた。
『今から僕の家に来れないか? できれば、会って話しがしたい。石塚と星越も来れるのなら呼んで欲しい』
『わかった、すぐに行く。石塚と星越は、今日は予定があるようだから来るのは難しいかもしれない。一応、聞いてはみるが、あまり期待しないでくれ』
『了解した。新庄だけでも問題ない。とにかく、いち早く伝えたいことがある』
『なんだ? 俺への愛の告白か?w』
『ふざけてないで、早く来い!』
『おけ』
篠原とのトーク画面を閉じて、俺はスマホをベッドにほっぽり投げる。
多少バウンドして、スマホはベッドの上に腰を落ち着かせる。
それを見届けてから俺はロッカーから服を出して、適当な格好に着替える。
さすがに、このダラけた部屋着で外を出歩くのはTPO的にも自分の自尊心的にもよろしくない。
あとは、石塚と星越にも連絡しておかないとな。
予定があると言っても、午前中や午後一番くらいの可能性だってある。
昼間は部室に来れないだけで、夕方からなら行けないこともないという状況は星越あたりなら十分にあり得そうだ。
オカ研の三人がいるグループトークに今日中に篠原の家に来られる奴がいないか聞いてみる。
その間に俺は着替えを終えて、髪型などの身だしなみを整えに洗面所へと向かう。
帰ってくると早速、「既読3」と表示されていて石塚達から返信が来ている。
『わりぃな。今日は夜まで予定があって行けそうにない』
『ボクも』
『わかった。ダメもとで聞いてみただけだ。気にしなくていい』
『にしても、なんで急に篠原の家に来れるか聞いてきたんだ?』
『篠原が会って話したいことがあるって連絡が来てな。二人が無理そうなら、俺一人でも問題ないらしいから代わりに聞いてくる。今日のことは後日、部室に来た時にでも教えるわ』
『そういうことか。そうだ、どうせなら篠原をこのグループトークに入れようぜ。そっちの方が面倒くさくなくていいだろ』
『名案だな! 星越はどう思う?』
『いいよ、賛成』
『なら、今日会いに行くついでに俺達のグループトークに入らないか篠原に聞いとくわ』
『あざっす』
石塚達とのやり取りを終わらせて、俺はスマホをズボンのポケットに突っ込む。
「よし、行くか」
そう呟いて、俺は灼熱の太陽が降り注ぐ外を駆け出して行った。
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