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第十夜 持つべきものは地主の家の友達

 篠原からスマホに送ってもらった住所を頼りに、俺達は篠原の家の前まで来ていた。

 立派な門構えがあり、そこから玄関までは車が何台も置けそうなスペースが広がっている。


「うへぇ〜、でけぇ〜な〜」


 サンサンと照りつけられる太陽の眩しい光をさえぎるように手をかざして、石塚は篠原の家を見上げながら感嘆の息を漏らす。


「本当だよ。デカすぎるだろ」


 俺も石塚と似たような感想しか出てこない。

 庶民暮らしの俺達からすれば、篠原の家の大きさは規格外だった。

 これなら、本当にイメージ通りの蔵があっても不思議じゃない。

 生憎とここからは蔵らしい建物は見えていないが。


「さすが、地主の家って感じだな」


「あぁ」


 石塚が言うように、篠原は俺達が通っている学校がある地域で昔から地主をしている家系の子供らしい。

 俺と星越は知らなかったので、石塚が教えてくれて助かった。

 知らないで来ていたら、「家が大きな〜」ぐらいの驚きでは済まなかっただろう。

 ま、それでも驚かずにはいられなかったが……

 とはいえ、石塚の情報通に助けられたな。

 学校の掲示板があることも教えてくれたのは石塚だった。


「何でもいいから早くしてくれ。暑くて死にそうだ……」


 前髪が影になって表情は読み解きづらいが、今にも溶け出しそうな星越が気怠そうに言った。

 変人要素が強すぎて根暗ではないと思っていたが、改めて考えてみると根暗ではあるかもしれない。


「そうだな。オレも早く冷房のあるとこで涼みたい」


 この場で星越の提案に反対する者などいるはずもなく、俺達は開けっ放しにされていた立派な門をくぐって玄関に向かう。

 二階建ての瓦屋根に大きな窓と縁側のある日本家屋が近づくにつれて、よりいっそう大きく見える。

 玄関までの長いアプローチを歩いていき、ようやく玄関の扉の前にたどり着く。

 俺は玄関横に備え付けられていた呼び出し鈴のボタンを押す。

 来訪者の存在を知らせる軽快なチャイムが鳴った。


「今、行く」


 チャイムが鳴ってから数秒して、篠原の声が玄関扉越しに聞こえてきた。

 直後、ガチャリと鍵が外れる音がして横開きの玄関扉がガラガラと音を立てて開く。

 篠原の家に来ているのであたり前のことなのだが、俺達は私服姿の篠原に出迎えられた。


「よっ、お邪魔します」


「どうぞ。ありがとうな、新庄。わざわざ手伝いに来てくれて……新庄だけじゃなかったのか?」


 一緒に来ていた石塚と星越を見て、篠原は驚く。


「あれ? 言ってなかったか?」


「あぁ、聞いていない」


「そうか、悪い。言い忘れていたみたいだ。けど、人手は多いに越したことはないだろ?」


「それは、その通りだが……」


 篠原が困惑するのは計算済みだ。

 なんせ俺は、わざと石塚達を連れて来ることを言っていなかったからな。

 篠原と石塚達は、俺が篠原をオカ研に紹介した時以来会っていない。

 しかも、廃部に関するいざこざもあってわだかまりが残ったままだ。

 この現状はよくないと思った俺は、篠原と石塚達のわだかまりの解消と親交を深めさせるために今日ここへ石塚達を連れて来ることにした。

 前日に、石塚達にも篠原の家に手伝いに来てくれと頼んだ時は二人ともあまり乗り気ではなかったが、オカ研廃部阻止のためだと説得したところ了承してくれた。

 まぁ、石塚なんかは篠原の家にある蔵がどんなものか興味があって来たところは大きいかもしれない。

 星越は石塚が行くならと流されるように来ただけだしな。

 理由はともあれ、これから先に篠原がオカ研のために手伝ってくれるってなった時、今日の交流を通してお互いもう少し仲良くなっていた方がいいだろう。


「わかった。外は暑いだろうし、とりあえず家に上がってくれ。これから手伝ってもらうことだし、全員少し涼んでからの方がいいだろう」


『お邪魔しまーす』


 俺達はそれぞれ挨拶をして靴を脱ぐと、篠原に案内されるように後ろをついて行く。

 中の間取りは日本家屋そのものだが、床はフローリングになっており近代的になっていた。

 外見を見ることなく、この中を見せられたら普通の大きい家としか思わないだろう。

 瓦屋根がある日本家屋という発想はまず出てこない。

 とは思ったが、一部屋だけ書院造のような畳の間があったので、そうでもないかもしれない。


 俺達は大きな窓と縁側のあるリビング的な広い部屋に案内された。

 部屋を見渡してもエアコンらしい機械は見当たらないため、全体空調なのだろうか。

 そういえば、玄関に入った時点で既に涼しかったような。


「なぁ、篠原。何でこんな広い家に住んでんだよ? 昔からの地主の家系っていうのは聞いていたが、にしても大き過ぎないか? 超金持ちなのか?」


「あぁ……まぁ、たしかに一般的な家に比べると少し大きいかもしれないね」


「少しどころじゃねぇよ」


 篠原の謙遜的な口調に石塚がツッコむ。


「……一般的な家に比べると大きいけど、お金持ちというわけではないよ」


 石塚のツッコみを気にしたのか篠原は言い直してから話を続ける。


「昔はすごいお金持ちだったらしいけど、今は築かれた財産を引き継いでいるだけだからね。僕が祖父から聞いた話によると、江戸時代の幕末頃から明治維新にかけて外国との商売で成功して、財閥の一歩手前までいったとか言っていたかな。戦時中は軍との繋がりもあったって聞くけど、どこまで本当かはわからない」


「なるほど。だから、蔵なんかあるのか」


「そうだね。貿易業的なこともやっていたらしいから、仕入れた商品を保管するために当時はいくつも蔵を持っていたらしい。今は、この家にある蔵の一つしか残っていなくて、中身も僕の家系に関する古い書物とかがあるだけだ。一番古い物だと、江戸時代ぐらいの物があったりするんじゃないかな」


 江戸末期に財を成した地主の家の子かと、俺はまじまじと篠原を見てみる。

 そう言われると、品がよくていいとこの出という感じもしなくもない。


「で、その蔵ってのはどこにあるんだ?」


「ここからは見えないけど、そこの縁側から庭に出て右奥に行ったところにある。高い木があるせいで、外からは見えづらくてね」


 高い木が庭にある家ってなんだよって思ったが、縁側越しに見える日本庭園のような庭がある篠原の家であれば、格段おかしなことではないのかもしれない。


「そうなのか。なら、その蔵とやらに案内してくれ。そこで、戦争に関する資料を探せばいいんだろ?」


「もう、いいのかい?」


「手伝いのために俺達はここに来たんだからな。石塚と星越も十分涼んだことだろうし、もういいだろ?」


「おう、いいぜ。もっと暑くなってくる前に、さっさと終わらせたいしな」


「海外と貿易していたとなれば、例の物もあるかもしれない。早く、行こう」


 二人とも準備万端のようだ。


「わかった。三人とも、ありがとう。僕は蔵の鍵を持って来るから、待ってる間に玄関から靴を取って、そこの窓から縁側に出て靴を履いておいてくれ。縁側から庭に出て蔵へ向かった方が玄関から行くよりも早いからな」


 それだけ言い残すと、篠原は別の部屋へと行ってしまった。


 いよいよ、ご待望の蔵が拝めるようだ。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次話の投稿は明日を予定しております。


少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


活動報告も書いています。

よろしければそちらもご覧ください。

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