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敗北の国  作者: Lv:7
4/13

魔法

風が吹いていた。

訓練場の片隅で、カイはひとり、手のひらをじっと見つめていた。

何かが、体の奥でうごめいている。温かく、鋭く、でもどこか不安定な何かが。


「またぼんやりしてるじゃない、カイ」


セリナの声が背後から聞こえ、カイははっとして振り返った。

その後ろでは、マークが木剣を振っている。


「最近、様子変だぞ。訓練も上の空で」


「……変な感じがするんだ。体の中に、何か……風みたいな」


カイが言い終える前に、空気が震えた。

彼の体を中心に、かすかな風が渦を巻く。枯葉が足元からふわりと舞い上がった。


「やっぱり」

セリナがそっと近づいてくる。


「それ、魔法よ。風の魔法――体や武器に風を纏わせて、動きを鋭く速くする。カイ、あなたにはその素質があるわ」


「魔法……オレが……?」


カイは自分の手を見つめ直した。意識すれば、風は確かに反応する。

だがまだ不安定で、力の制御はできていない。


「でも、なんで分かったんですか?」


「私も魔法を使えるからよ」

そう言って、セリナは指先に意識を集中する。

次の瞬間、バチッという音とともに、指先に雷光がほとばしった。


「私は雷の魔法使い。剣に雷を纏わせたり、自身の速度を上げて動くことができるの」


その言葉と同時に、セリナの姿が消える。

……いや、速すぎて目で追えないだけだ。雷鳴のような一瞬の動きのあと、彼女はカイの背後に立っていた。


「すげえ……!」


マークが驚きの声を上げる。


「それだけじゃないのよ。私は“他人の魔法を理解する力”も持ってるの。あなたたちがどんな属性で、どんな魔法に目覚めているか――おおよそ分かるの」


セリナはそう言って、マークへ視線を向けた。


「マーク。あなたの魔法も、感じるわ」


「え、オレ?」


マークが眉をひそめた。


「たしかに最近、腕力が増した気はするけど……もう一つ変なことがあってさ。地面が突然盛り上がって、岩の塊が飛び出したんだ」


「それも魔法の一種。身体強化と岩の魔法。地から岩を生み出し、射出する……力強くて、実戦向きの能力よ」


「……へえ、実戦向きね……」


マークは苦笑する。


「でもなんか、地味じゃね? カイは風でカッコよく動けるし、セリナの雷とか速くて派手で……オレだけドゴン!って岩投げてるだけっていうかさ。なんかこう……泥臭いんだよな」


「派手さと強さは別よ」

セリナが静かに、しかし断言するように言った。


「岩は守りにも使える。仲間を庇う壁にも、敵を砕く弾にもなる。カイのような速さが活きるのは、あなたのような堅さと重さがあるからこそよ」


「……そっか」


マークはそれでも、どこか納得しきれないような表情で鼻を鳴らした。


「まあ、どうせ岩投げるしかできないしな。カッコつけたって始まんねえよ」


「ふふっ」

セリナが笑う。少女のような、優しい笑みだった。


「そのままでいいのよ、マーク。あなたはあなたのままで、十分に強い。私が保証するわ」


マークは少し照れくさそうに頷き、地面に拳を当てた。

その瞬間、小さな岩が突き上げられ、ボフッと音を立てて宙に飛んだ。


「……よし。もうちょい鍛えてやるか、この岩魔法ってやつ」


「うん。お前の岩、意外と頼りになるしな」

カイが笑いかけると、マークもようやく顔をほころばせた。


セリナは二人を交互に見つめ、心の中でそっと呟いた。


(この二人はきっと、これからの戦場で光にも、影にもなる。だから――今のうちに、育てておかないと)


訓練場の空は、どこまでも青かった。


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