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敗北の国  作者: Lv:7
3/13

刃とパンと静かな時間

「力を抜いて。柄を握り込むと、逆に斬れない」


「う、うわっ!」


鋼鉄の音が響く。

カイの剣が土に転がり、マークが横で吹き出した。


「お前それ、鍬の握り方じゃねぇんだぞ」


「……うるさい……」


 


セリナ中尉は構え直すよう促し、淡々と訓練を続けていった。

カイもマークも泥まみれになりながら、必死に食らいついた。


 



 


「……よし、ここまで。昼にする」


セリナの号令とともに、訓練が一旦中断された。

兵士たちが天幕の影や木陰に腰を下ろす。


しばらくすると、配給係が木箱を抱えて現れ、手早く昼食を配り始めた。


カイの手に渡されたのは、乾いた黒パンと、ぬるいスープの入った木の碗。

パンは硬く、香りも味もなく、まるで泥を噛んでいるようだった。


「……これ、パンか?」

マークが苦笑まじりに言う。


「まぁ、腹に入れば一緒だろ」


カイもそう言いながら、パンの端をちぎった。


 


そのとき、隣に腰を下ろしたセリナがぽつりと呟いた。


「王都にはね、美味しいパン屋があるの。中央通りの角、古い石造りの店。知ってる?」


カイとマークは顔を見合わせて首を振る。


「……名前は『ル・ティエール』。朝の焼きたてを狙えば、甘い葡萄パンやクロワッサンが手に入る。バターが染みてて、香りも絶品なのよ」


セリナは、固いパンを口にしながらどこか遠くを見ていた。

彼女の目には、もう戦場ではなく、王都の静かな朝が映っているようだった。


 


「そんなパン、今食えたら……たぶん泣くな」

マークが冗談っぽく言った。


「ほんとですよ……」

カイもパンを噛みしめながらつぶやく。

「戦争が終わったら……行ってみたいな、その店」


 


セリナは小さく笑った。


「いいわよ。案内してあげる。もちろん——私の奢りでね」


 


その言葉に、カイの胸が静かに熱くなった。

それは夢かもしれない。でも、確かにそこに「生きる意味」が一つ、芽生えた気がした。

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