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早朝、ドキドキする。
昨日の夜、俺は決意した。 河上に本当のことを話そう、それから謝ろうと! しかし寝て起きていざとなるとその意気込みも尻込みしてしまう。
嫌われてしまったらどうしよう? せっかくあんなに良い子と友達になれたのに、好きなのに。
やっぱやめようかな…… 昨日はたまたまあんなことになったけど寝て起きたら河上もいつも通りとかになってたりして? 澄み渡った空を見てそう思った時河上がやってきた。
そして俺を見ると驚いた様子だった。
「河上ッ!」
しかし河上は踵を返した。
「待って!」
俺は走って河上の手を掴んだ。
「や! は、離して!」
「待ってくれ河上、昨日のことで話がしたいんだ!」
そう言うと河上の力が緩んだ。
「昨日のこと……?」
「ああ、嘘ついた。 確かに俺は今付き合ってる人が居るんだ、告白したのは友達から…… いや、それでも断れば良かったんだけど結局は俺が悪いな。 でもOKされるなんて思ってなくて俺自身も信じられなくていまだにそうで」
「それで…… 倉橋君はそんな気持ちでその人と付き合ってるの? 好きなの、その人のこと?」
「ごめん! 俺他に好きな人居るのに流されて中途半端なままその人と付き合ってるんだ、最低だろ」
「他に好きな人? 居るんだ……」
「ってそんなことより俺河上に付き合ってる人が居るって言うのが恥ずかしくて嘘ついたんだ!」
なんで河上に言うと恥ずかしいってなるんだ? 言ってること変だろ、これじゃ好きな人が河上だからその河上にはバレたくないみたいじゃねぇか。
いっぱいいっぱいな俺でもそう思うんなら……
「なんで私に言うのが恥ずかしいの? だってそこはおめでとうって思うとこだよ」
「あ、ええと…… 要点はそこじゃなかったんだ! 俺は好きな人が居るから今付き合ってる人とは別れる! どっちに対しても失礼だったし相手にもキチンとこれは伝える」
「ええッ!? そ、そうなの?」
「俺モテたこと今まで一度もなくて告白したら成功してそしたらなんかその子も良いかもとか都合の良いこと思って調子乗ってたんだ! めっちゃカッコ悪いだろ、笑ってくれ…… いや、それよりも幻滅したか」
心の中の俺は干からびていた。
終わったな、モテないダメ男、優柔不断で嘘つきで最低な奴。 俺みたいな奴で友達選びに失敗したな河上は。
「倉橋君……」
「俺みたいな残念男、友達なんてごめんだよな」
「ううん、そんなことないよ。 自分のこと話すのって結構勇気いるよね」
ポンと頭に手を置かれた。
「え?」
「あッ!? お、落ち込んでたから倉橋君が。 嫌だよね、あはは」
「ビックリしただけで嫌じゃないけど」
「そ、そっか! …… こっちこそごめん!」
河上が俺に頭を下げた。
「な、何が?」
「私ね、倉橋君が告白してたとこ見たの」
「…… な、なんだって?」
見てた? 嘘だろ!!
「倉橋君のこと気になって後ろからこっそりついて行ったの」
「そう…… なんだ」
駿と桐山にも見られてて河上にまで見られてたとか恥ずかしすぎるだろ……
「だから知ってた、だから倉橋君に嘘つかれてショックだったの。 でも人の告白覗き見するなんて趣味悪いよね、ごめんなさい」
「あ…… え、まあ…… 過ぎたことだし。 俺も悪かったし」
俺は河上と付き合ってこっちの河上とも一緒に帰ってた。 友達だから付き合ってないしと考えて。
駿が言ってたことが本当ならもし脈ありだったのなら河上は何を思って俺と一緒に帰ってたんだ?
「それで本当に別れるの?」
「あ…… うん、そのつもり」
そう言われると意志の弱い俺はちゃんと別れられるだろうか? 怖い、あっちの河上怒ると凄く怖そうだし。
「見て思ったけど倉橋君の彼女ビックリするくらい可愛いよね」
「そ、それは! いや、うんまあ、可愛いと思うけど…… 河上もめっちゃ可愛いよ」
「へッ?! わ、私?? そ、そんな、それほどでもないよ私は」
思いの外照れてる、こんなに可愛いなら言われ慣れてると思ったけど。
まさか、まさか…… 俺に言われたから? いや、調子に乗るな俺。 モテない男が身の丈に合わないことしてたから今みたいな状況になってんだろ!
「ぶッ!!」
「は?」
そうこう考えていると河上が電信柱に顔面をぶつけていた。
「お、おい、大丈夫か?」
「あうう…… 鼻が、鼻が……」
「何してるんだよ、鼻の先ほんの少し擦りむいてるじゃん。 ティッシュ……」
「ごめん、ボーッとしてて」
「せっかく綺麗な顔してるのに」
「はうッ!」
河上はドテッと尻餅をついてしまう、ついでにパンツも見えてしまう。
うッ…… なんでこんなラブコメみたいな展開に。 しかもパンツ見えた、思いっきり見えた。 河上はわかってないようだけどヤバい、まだ見えてるんだけど。
パンツに視線が釘付けになる。
脈あり…… 河上は脈あり。 言葉が心の中で木霊する。