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「あ、今日は部活休めないわ。 ごめん」
「そ、そっか!」
ということは保健室の河上と帰れる!
「なんかホッとしてない?」
「いや、そんなことはない」
「竜太君そういえば部活は?」
「所属してるだけでサボり」
「だと思った。 はあー」
溜め息を吐いた河上は体育館へ向かって行った。
「いちかー、噂の彼氏は?」
私が体育館に行くと友達が話しかけてきた。
「さあ? 帰ったんじゃないかな?」
「ええッ… 帰るくらいだったら彼女の部活姿見て行くくらいすればいいのに」
「だよねぇ」
「バイトとかしてるのかな?」
「なわけないじゃん、竜太君にそんな甲斐性ありません」
「随分冷めてるねぇ。 あんたら本当に付き合ってんの?」
「んー、一応は」
「てことはいちかにあんまり興味ないんじゃない? いちかだって初彼氏でしょ、そんなんでいいの?」
やっぱりそう思うか、私もそんな気してたし。
「でもほら、距離感とかは別に嫌じゃないしがっつかれるの苦手だし私にはちょうどいいんじゃない?」
「ポジティブだなぁ、いちかは。 マイナス要素しかないじゃん。 浮気されるんじゃない?」
「そんな要領良くないし見た目もパッとしないしそりゃないよ」
とは言い切れない、私のただの願望だ。 だって私は竜太君の見た目なんて大して気にしないし要領良くなくても浮気自体やれなくないわけじゃないだろうし。
「…… 男の趣味悪かったんだね、いちか」
可哀想なものを見る目で見られた。
「いちかってまともそうな人の告白断っててさ、まだ付き合うとか考えてないんだろうなって思ってそれならそれでいいけどって思ってたんだけど変な男の告白にOKしたりして大丈夫?」
「一応私の彼氏だよ、ちょっと悪く言い過ぎなんじゃない? 心配してくれるのは嬉しいけどさ」
◇◇◇
「倉橋君待った?」
「それほど。 てか待ってたの河上の方だろ」
「あはは、そうだった」
心配事がなくなったので河上と帰れる。 このことを知らない河上には罪悪感があるがこっちとは付き合ってはいないし。
「あ、あのさ……」
「うん?」
河上の目がキョロキョロと動く、なんか凄く言い辛そうにしていて俺も少し緊張してくる。
「噂で、噂が聴こえてきたんだけど倉橋君って今誰かとお付き合いしてる?」
「…… は?」
な、何故?! あー、いや! 噂になったもんな。 でも保健室登校の河上に伝わるか? でも完全にシャットアウトなんてわけないし、トイレとか寄った時に聴こえたのか?
「あのさ、俺が誰かと付き合えるような見た目してる?」
ヤバい、何言ってんだ俺は? 嘘つくな、噂は事実なんだから肯定しないと。 ちょっと待て? それよりも俺が本当に好きなのはこっちの河上だ、あったの河上の方も好きだけど俺は選ぶとしたらこっちの河上だ、ならすぐにでも河上とは別れた方がいいか?
別れてしまいさえすれば俺は誰とも付き合ってないということになり後ろめたいこともなくなる。
噂は所詮噂だ、現場を見られてさえいなければデマで通じる。 もし付き合ってるなんて言えば河上とのこの時間もなくなるかもしれない。 それだけはダメだ!
「え…… 見えるけど」
「…… は?」
河上は目が悪いのだろうか? こんなパッと見どこにモテる要素があるんだと言いたくなるようなのが俺なのに。
「河上、本当にそう見える?」
「うん」
「俺ってそんなに良い男に見える?」
「…… うん」
…… あ、これ完全にお世辞だわ。 最後めっちゃ間があったし。 河上は優しいもんな、こんな質問されて堂々と否定なんて出来ないし。
「あー、あのさ…… それただの噂で俺付き合ったりなんてしてないし人違いだよ」
「…… な、なんで?」
ハッとした、だって河上の顔が泣きそうになっていたから。
「え? どうしたんだよ?」
「ごめん! 私用事思い出した」
河上は走って行ってしまう。
「なんで?」
俺はボソッと虚しく呟いた。
「で、俺にアドバイスを求めて電話してきたと?」
「すまん駿、俺何が何だかわからなくて」
「ヤバいなお前」
「え?」
「話聞くとさ、お前めっちゃ悪い奴じゃん」
後ろめたいことがあって嘘をついたのは認めるがそう言われると言葉に詰まった。
「あのさ、お前の話した通りなら保健室の河上はお前に脈アリかもしれない」
「ま、マジかよ!? てことは両想い?」
俺がこれまで1番気になってたことを駿に言われて舞い上がる。
「嬉しそうだけどお前にとってはかなり深刻だからな?」
「え?」
「今回のことで保健室の河上は相当傷付いただろうな、お前が嘘つくんだから」
「ちょっと待てって、河上は俺の告白を見たわけじゃないしただの噂話を聞いただけなんだぞ?」
「バカだなお前。 寧ろ確信があったから訊いたんじゃないかって考えないのか? 女は好きな男に関しては異常に鋭いぞ。 大体完全に離れてるわけじゃないし同じ校舎に居るんだから絶対バレないなんてことないんだからな」
駿はこれまで聞いてきて竜太の思考がなんとなくだが読める。
竜太は色々あったが生まれて初めて河上という美少女の彼女が出来て、おまけに保健室の河上も好きでどっちも嫌われたくない、あわよくば2人とも欲しいと思っている。 しかし流石にそんなことは無理だとわかるので混乱している。
いきなりモテ期が来た竜太には明らかにキャパオーバーだ。
「俺どうしたらいい?」
「それを俺に訊くか? まったく。 ならさ、さっさと河上と別れろ。 元々お前が好きなのは保健室の河上なんだろ?」
「そうだけど…… どうすれば穏便に済む?」
「あのなぁ、この時点で穏便に済ませようとかお前自分のことしか考えてないのか? それともう保健室の河上に付き合ってんのバレてると思え、お前が最初にすることはまず保健室の河上に本当は付き合ってますって言って包み隠さず自分の心情を曝け出すことだ」
「そんなことしたら嫌われるかもしれないだろ!」
「それで終わるならそこまでってことだ、諦めろ」
「いやそんなこと言われても」
成り行きとはいえこんなことになってしまったのは可哀想だがウンザリする竜太の電話にしばらく付き合わされた。