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「あ、倉橋君はあっちか。 まぁそっか」




当然だが帰る方向は違う、だが河上は口に指を当てて何やら考えている。




「せっかく付き合うってなったんだから同じ方向帰ってみよっか」

「え? いやそしたら遠回り…」

「もう! 私部活休んだから少しは時間あるの!! 倉橋君ってモテないでしょ!?」




はい、悲しいけどモテません。




「なんか付き合ったらエスコートされるかと少しは期待してたのに私が決めちゃってんじゃん」

「ごめん、こんな経験なくて」

「私だってないし」

「へ?」

「私だって誰かと付き合うとか初めてなんだから」




そ、それを俺のようなモブと…… ? 一体どうなってんだ河上の頭の中は?




「ってあれ? 河上は?」




少し目を離したら河上が居ない。 辺りを見渡せばクレープ屋があって河上の後ろ姿があった。




「河上ッ」

「あ、倉橋君。 はいこれ」




クレープを手渡された。




「それあげる」





そしてベンチに座って俺と河上はクレープを食べていた。 




なんつーか河上が俺に呆れるのもわかる気がするな、よく考えたらこういうのって俺がすべきことなんじゃないのか? 甲斐性なしだろ俺って。




「美味しい?」

「あ、うん。 美味しい」

「そか、良かった。 ん?」




河上の指が俺の頬に触った。 




「付いてたよこれ」




クレープのクリームが付いていた…… それを指で拭き取った。 な、なんなんだこのやり取りは? ファンタジーだと思っていたことが現実に起きている。




河上は指に付いたクリームをペロっと舐めた、佐草がいちいち可愛い。 しかも冷たいと思ってた河上って実は優しい? お情けで付き合ってるとも過言ではない状況でこれとは。 ヤバい、惚れそうだ。




あれ? 俺もう1人の河上にも同じこと思った。





「ねえ、そっちはどんな味って…… 全部食べてるし」

「あれ? ホントだ」




いつの間にか食べてしまっていた。 やることも思い付かないからひたすら食う羽目になってたけど。




「ふッ、ふふふッ」




しかし何故か河上が笑っていた。




「河上… さん?」

「君ってばホントにどうしようもないなぁ。 そこはお互いどんな味かってやってみるのも面白いかなって思ったのに」

「は、はあ……」




そんなラブコメみたいな展開がこの状況で生まれていたとはそんなことも考えられなくなるくらい俺は動揺していたのか。




例えば漫画だとそういうシチュエーションになってたんだろうが俺は踏み外してしまったってわけか……




だ、ダメだ、俺には女心って奴がわからん。 




「ねえ、私のも食べてみる?」

「へ? ああ、うん」

「え!?」




考え事をしながら手渡された河上の食べかけのクレープを俺は一口で全部食べてしまう。




「食べちゃった… 一口でだけのつもりだったのに」

「ハッ!!? ごめん河上、こうなったらもう一個買ってくる」




信じられんとこちらを見ている河上はさぞや愛想を尽かしているだろうが散々失礼をしてしまったから…… というか俺の告白に付き合わされてる事態が失礼なんだ。 




だって俺が好きになったのはもう1人の河上で。 そう思っていると俺の視界が横にすっ飛んだ。




「きゃあーーーッ! ご、ごめんなさい、大丈夫ですか?!」

「だ、大丈夫倉橋君!!」

「いてて……」




河上が駆けつけて来てくれた。




「怪我はない? 痛いところある?」

「だ、大丈夫。 ちょっとぶっ飛んでビックリしただけ」

「びょ、病院に、あ! 警察かしら……」

「本当に大丈夫ですから。 俺も不注意でしたし大事にしたくありませんし」

「良かった…… 確かにそんな勢いはなかったけど。 倉橋君も倉橋君だけどお互い気を付けて下さい。 こちらもご迷惑お掛けしました」

「は、はい」




俺を轢いたおばさんに頭を下げる。 俺と河上は近くにあった公園に寄ってまたベンチに座っていた。




「もうッ!! 倉橋君ってばホント危なっかしいんだから。 ヒヤヒヤするよ、はぁー……」

「なんか頼りになるな河上って」

「それ普通逆だと思うんだけど。 私あんまり取り乱したりしない方だと思ったんだけど自転車に轢かれた時は焦ったんだからね」

「…… だよな、はぁー……」




溜め息が出る、自分の情けなさに。 女子と初めて付き合って醜態を晒しまくり恥ずかしい。 しかも河上だし。




「まあ考え方次第だけど男の子に振り回されるってのはなんかよくある恋人っぽいかな」

「え?!」

「いや、心臓に悪いからね自転車に轢かれるのとかは!」

「ああ、そうだよな」

「それより本当に痛いとこない? やせ我慢とかしてない?」

「うん、大丈夫だ」

「そっか、良かった。 一応初デートで病院送りとかなったらシャレになんないからね」





こんなんでもデートとして付き合ってくれてる河上めっちゃ優しいじゃん。 




「あ、そうだ。 連絡先交換しようよ」

「いいの?」

「いいよ」




スマホのラインを交換する。 




あ! もう1人の河上の連絡先も聞いてなかったな…… いやいや、目の前に女の子が居るのに何考えてんだ俺は。




「ん、高校入って初めて男の子のラインだ」

「そうなの?」

「そうだよ、ふふッ。 ラッキーだね倉橋君」




ツンと鼻の先を指でつつかれた。




ヤバい、予想外だったけど俺こっちの河上も好きだ。 どうしよう……




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