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学校に戻ると校門の前で丸くなってる女の子が見えた。 走ってくる俺の姿を見てキッと睨まれる。
「信じらんない、探したのに居ないと思ったら帰ってる。 最低!」
印象最悪…… いつもの俺ならこんな可愛い子にそんなこと言われたら深いダメージを負っていたがもうひとりの河上のことを思えば堪えられる。
「ごめん、すっかり忘れてて」
「君って凄くいい加減だよねぇ倉橋君」
「あれ? 俺のこと……」
「同じクラスの人に聞いたよ、倉橋竜太君でしょ君は」
あの河上に呼ばれるなんてこんな日が来ることが俺にあるとは…… いやでもフラれるんだわ俺は。
「まぁいっか。 ところで倉橋君は結局何だったの? 私に何がしたいの?」
上目遣いで問われる。
改めて見ると甲乙つけ難い、同じ名前で同じく美少女って一体どういう冗談なんだ!?
「じ、実は俺…… 河上のことが好きでさ」
「却下」
秒でフラれる、傷付いた。 でもそりゃ当然かと思う。 なんせ印象は最悪、フラれるのは当たり前だ。
でも俺にはもうひとりの河上が居る。 こうやってフラれるかもしれないけど今度はこんな風にならないようちゃんと仲良くなっていつか告白しよう。
「そっか、まぁそうだな。 ごめんな、余計な時間取らせて」
「そうだね」
「じゃあ俺の用は終わったし」
「…… ねぇ、倉橋君」
帰ろうとした俺に河上が近付く。
「君ってホント失礼だよね」
「え?」
「ここまで気持ちがこもってない告白なんて久し振り。 体目当てとかそういう度胸もなさそうなのになんなの君? 私だって誠意あるんならちゃんと対応するのに」
「そ、それは……」
予想外に河上の逆鱗に触れてしまったようだ。
「そもそも告白する気なんてあった? そうは見えなかったけど? 思いついたように告白したようにしか見えない」
当たってる…… すげぇ河上。
「私のこと舐めてるの?」
「い、いや…… そういうわけでは」
「ふーん、そう。 わかった、付き合ってあげる」
「は!?」
「何? 都合悪い? 付き合うって言ってんの」
ありえない展開に俺の心臓がドクドクと鳴っている。 俺、これからはもう1人の河上にちゃんと仲良くしようって思っていたとこなのに。
自業自得。 ハッキリとしない、これといった特技もない竜太は当たって砕けろの精神で砕ける方を期待していたが予想外に河上と付き合うことになってしまった。
「な、なんだってー!?」
「しッ、声がデカいバカ桐山!」
竜太の醜態を拝もうと桐山は駿を誘って物陰から見ていた。
「う、嘘…… 付き合っちゃうんだ倉橋君」
そしてもう一方の物陰からもうひとりの河上いちかも見ていたのだった。
◇◇◇
「ハアッ、ハァ……」
竜太の告白を見たいちかは急いで学校から出て帰り道に戻った。
「友達だし倉橋君とは…」
◇◇◇
「ほ、ホントに俺と付き合うの?」
「告ってきたくせに何言ってんの?」
「ソウデシタ……」
おかしい…… なんなんだこの状況? 付き合うってなったのになんだか辛辣な空気感。
「誰だよあいつ?」
「河上と帰ってね?」
「もしかして彼氏か?」
「てかさっきもあいつ見かけなかったか?」
なんか冷ややかな外野の声がめっちゃ聴こえる。
「あ、あれ?! そういえば河上部活は?」
そうだよ、確か駿の情報だと河上は女子バトミントン部で今日も普通に部活のはず。
「今日は休んだ、放課後って言ったのは私なんだし」
「そっか」
そしてまた重たい沈黙。 これ絶対楽しくないよな河上の奴も。 なんとか気の利いたことは言えないのか俺? ダメだ、女子との話題なんて思い付かん!
「ね、なんで私に急に告ったの? 怒らないから正直に話して」
真っ直ぐな瞳に射抜かれる。
改めてなんて綺麗な顔をしてるんだ河上は。 信じられるか? 何かよくわかんないけど付き合ってくれるみたいなんだぜこの子は。
「聞いてる?」
「は、はい……」
俺は正直に話した。
「そういうこと。 絶交がなんとなく嫌だったからなんとなく私に告ったと」
「そういうことでございます…」
理由がわかれば用無しだし別れの言葉を告げられると思ったのだが……
「でも私がすぐ断っても全くショックな感じしなかったよね、てことは私に興味なし?」
「い、いや! 河上みたいな可愛い子に興味ないって奴の方が少ないと思うけど! 勿論興味はあった」
「そ……」
そんな中ジーッと河上の目が俺の目を見ている。
そんな見つめないでくれよ、ほんの少しだけ免疫がついたかもしれないけど河上レベルの顔で纏められたら……
「倉橋君ってそんなに私のこと好きじゃないでしょ?」
「は?」
「なんとなくそう思った。 別にいいけどね、でも付き合うのOKしたしこのままハイお別れってのも芸ないし付き合ってあげるよ」
「は、ははは… ありがとう」
これはモテ期なのか?