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「は!? バカなのお前? 何もしないで戻ってきたとか……」
「いやー、美人の前に立つと超緊張すんのな」
「せっかく話せるようにしてやったってのにお前ってばほんとアレだよなぁ。 そりゃモテんわ」
「くッ…… うっせぇ、大体あんな美人が目の前に居たらフリーズしちまうだろ!」
「しかもいまだに傘も返してないときた」
「それなんだけどさ、あれ人違いだった」
「は?」
休み時間になって話したら駿はポカンとした顔をした。
「河上いちかって相当可愛かったけど朝に見た子とは別人だったんだよ」
「なんだって? 別人?」
「なんだよ、河上のこと話してんのか?」
そんな時俺達の話を聴いてたのか桐山が話しかけてきた。 『桐山 来』高校からの友達でかなりいかつい。 当初駿がモテてたことが癪に障ったのか絡んできたのだが話してみると意外とこいつも良い奴で友達になった。
「なあ桐山、河上いちかって知ってるだろ?」
「知らないわけがねぇ、まさかお前今度は河上と!?」
「違う違う、河上は確かにめっちゃ可愛いけど俺はもっと、なんかこう…… 好みの問題かな。 とにかく俺じゃないんだよ」
駿の奴はよりどりみどりだろうからすげぇ上から目線というか俺からしてみれば縁のない話しをしている。
「なんだと! 俺を差し置いてお前か!!」
「いやいや! 俺は確かに河上の話をしてたけど違う河上なんだ」
「違う河上?」
桐山が首を傾げた。
「違う河上いちかって…… うーん。 あ……」
桐山の顔色が変わったので2人も桐山の視線の先を見ると…… なんとさっきの別人の河上いちかが教室に来ていたのだ。 そして竜太を見つけると本人の目の前に歩いてきた。
「やべ…… 俺なんかしたかな?」
「そりゃ呼び出しておいてごめんなさいなんて言って戻ってきたらな。 なんせ河上いちかだし」
「ねえ、さっきのあれ何? 用があるんじゃなかったの?」
「い、いや別に用があったわけではなくて……」
「いちかちゃん、こいつこの通りハッキリしない奴だから俺と一緒に」
「ごめんね、私は彼に話してるの」
バッサリと話を切られた桐山は白目を向いた。
「うわ、キッツ……」
「なんか当たり強くなってきたよね、いちか」
「そりゃ告白ラッシュされたらウンザリするよね」
周りからもヒソヒソとその光景を見て可哀想な目を向けられていた。
「ええと、実はその……」
俺は事情を話そうとしたが予鈴が鳴ってしまった。
「あー…… ホントにハッキリしないね君。 授業の時間になっちゃったじゃん。 時間ある放課後の方がいっか。 じゃあね」
河上は自分のクラスに戻って行った。 すると白目を向いていた桐山がようやく覚醒した。
「てめこの野郎!」
「おい、もう授業だって」
「…… でもさ、河上が気になって訪ねてくるなんて結構レアじゃね?」
「「え?」」
その後、放課後になった。
「無茶言いやがって桐山の奴…… なんで俺まで告白しないと絶交とか言い出すんだよ。 河上に冷たくされたくらいでさ」
けどせっかく出来た友達と絶交するのも嫌だなぁと昇降口に向かう廊下で考えていた時フッと目に入った。
「あ!」
「あ、あれ? あなたは今朝の……」
なんと今朝見た女の子が学校に居た。 俺は急いでその子に駆け寄った。
「ごめん、君に会いたかったんだ」
「私に?」
「ほらこれ」
傘を見せるとその子は「あッ」と言った。 さっきまであの河上いちかと少し話したことでほんの少し免疫がついたのか自然にやり取りが出来たと思う。
てか上靴を見て気付いた。
「よく見たら同い年だったんだな。 ごめんな、俺のせいで」
「ううん、ありがとう。 本当だ、同い年だね。 えへへ」
可愛い、笑ってる顔も。
「あ! 俺、竜太! 倉橋竜太」
何故か名乗ってしまった。
「倉橋君…… 私は河上いちか。 よろしくね」
やっぱりこの子も河上いちか…… でも見かけなかったよな。
「あのさ、河上って何組なの? 俺は1組なんだけど」
「あ……」
少し言い辛そうな感じだったが河上は答えた。
「私体弱くて。 少し前の話だったんだけどね、今は大分良くなってきたんだ。 でも入学式の時たまたま熱出しちゃったせいで保健室登校になってたの」
そうか、だから駿達もわからなかったのか。
「もう少ししたらみんなと同じ教室で授業受けられるけどちょっと緊張するよね」
「あ、うん。 なんかわかる気がする」
だって俺も河上を前にして緊張してるし。
「だよね、倉橋君は1組かぁ。 私は2組なんだよね、友達もまだ居ないし」
「じゃあ俺と友達になる?」
俺にしては大胆な提案、いつもだったらこの状況はガチ緊張してそんなことは言えないが桐山のせいで予行演習的な勢いでつい言ってしまった。
「え?」
「あ、ごめん、調子乗りすぎました」
あえなく玉砕、やっぱそうだよなぁ。
「違うよッ、ちょっとビックリしただけで嬉しい。 高校入ってからの初めての友達だ」
「そ、そっか」
いいのか? 俺なんかと友達になってそんなに嬉しそうに。 ヤバい、友達なのにもう惚れそうだ。
少し河上と話をしていると思った以上に話せた、というより楽しかった。 俺だけかもしれないが。
「あははッ、そうなんだ」
「うん、俺って何やっても微妙でさ。 なんかこんなもんなんだろうなぁって。 今日遅刻したのも夜中までゲームし過ぎてさ」
あ、あれーーッ?! 河上との楽しいお話のせいでこのまま別れたくなくてもう一緒に学校出ちゃったんだけど?
あっちの河上から放課後って言われてたのにすっぽかしちゃっていいのか?
「いつも1人で帰ってたから今日は楽しいなぁ。 私も普通に通えるようになったら誰かとこうしてお話ししながら帰れるのかな」
「……」
河上が誰かと帰る…… 女子とは限らない、だって河上めっちゃ可愛いから普通に通ったら即モテるに決まってる。
「倉橋君?」
「あ、いや。 きっと河上だったら友達いっぱい出来るよ、そしたら俺のことなんか忘れちゃいそうだなって」
「忘れないよ。 私ね、今凄く楽しくて…… 偶然だったけど倉橋君と話せて良かった、凄く。 うん」
しみじみと言う河上のことを見て俺は友達ということを置いておいて河上の方が好きになっていた。
「あのさ、河上に聞きたいことがあるんだけど」
「ん? 何?」
「女の子って告白とかされたら嬉しいのかな?」
「ええッ!? こ、告白?」
突拍子のない告白の話にいきなりなんだ? と言わんばかりに河上が驚く。
「もしかして倉橋君…… 好きな人いるの?」
「あ……」
ここで友達と絶交するのも嫌だからダメ元で告白してみようなんて言ったら幻滅するよな。 しかもフラれるの確定してるようなもんだから別にいいんだけど女の子と仲良く話が出来ていて調子に乗ったんだと思う。
「好きな人…… というか気になる…… いや、気になるって好きなのか?!」
「えっとね、全員が全員なわけじゃないと思うけど私だったら…… 多分嬉しいかな、相手にもよると思うけど」
あったの河上の場合はきっとそうじゃないな。 ウンザリしてるだろうって周りもヒソヒソ言ってたし。 よし! 俺はこっちの河上が好きだ!!
「だよな、例えば俺みたいなのがいきなり会った女の子に告白しようなんて身の程知らずもこの上ないよな!」
「そ、それは…… なんとも言えないけど倉橋君と居ると楽しいし、もっと知れたらなって思うし身の程知らずなんかじゃ……」
「お世辞でも嬉しいよ河上、でも河上に言われると少し自信ついたよ。 じゃあ俺はあっちだから。 また一緒にこうして帰ってくれ…… ってなんか言うと恥ずかしいな」
「わ、私も一緒に帰りたいな、でも倉橋君今の話って誰のこと……」
開き直った竜太は河上の話も最後まで聞かずに走り出していた。 少し回り道して学校の方に戻ってあっちの河上に玉砕されよう。 そうすれば面白おかしい話になるだけと。
俺には今日好きな女の子が出来た! しかもあっちも俺を友達と言ってくれて一緒に帰れて嬉しいって!!
竜太はフラれるというのにテンション高めでまだ間に合うはずだともうひとりの河上いちかに会いに行った。
倉橋君…… 大丈夫かな? 少し心配、心配? 心配なのかなこれ?
いちかはこっそりと龍太の後をつけることにした。