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「うわッ、なんで降ってくるんだよ、傘なんて持ってきてないし」
高校生になったばかりの曇りのある日、寝坊して急いで家を出たことで雨が降ってき始めた。 もう少しで学校に着くというのに『倉橋 竜太』は走っていた。
「きゃッ!」
「うわッ!!」
そんな時まるで使い古された漫画のネタのような曲がり角から女の子とぶつかり2人は尻餅をついた。
「うわ、ケツが冷めてぇ…… じゃなかった! あの、ええと、大丈夫ですか?」
俺と同様に雨の中尻餅をついた女の子の傘を拾ってその子に近付く。
「うわッ」
「え?」
あまりの可愛さについ声が出てしまいその子は怪訝な眼を向ける。 セミロングの少し茶色がかった髪色にとても整った顔立ち、そんな彼女の大きな目がこちらを向いていた。
「あ、いや…… 俺のせいで濡れちゃって。 ごめん! 走ってて気付かなかった…… です」
「私も急いでたから…… ごめんなさい、そっちも大丈夫ですか、転びましたよね?」
とても可愛い女の子から真っ直ぐ見られそんな風に心配されたからか急に龍太は緊張してしまう。
「ケ、ケツが!」
下品な言葉遣いが出てしまいハッとした竜太は咳払いをして言い直した。
「お、俺は大したことないです、それよりどっか怪我とかしてないですか? あ! 制服も汚れちゃいましたよね?!」
が、しかし彼女の服をよく見れば同じ高校の制服だった。
「ええと、なんともないです。 それにそれはこっちこそですし…… あ! ごめんなさい、遅刻しちゃうので!」
「あ、ちょっと!」
傘…… と言おうとしたのにその子は走って行ってしまった。 しかし竜太も遅刻寸前だったことを思い出してダッシュで学校に向かった。
学校にはなんとか間に合ったけど結局あの子見かけなかったな、間に合ったのかな?
そう思ってキョロキョロしながら教室に向かっていると肩をポンと叩かれた。
「よ! 濡れても良い男とは程遠いなお前」
「駿か、余計なお世話だ」
『速水 駿』中学から同じ高校に入った友達である。 自称イケメン…… というわけではなく本当にイケメンでよくモテてる。 そんな駿を見ていて多少の劣等感を常に抱いていたが駿自身は良い奴で竜太とは結構仲が良かった。
あ、こいつに聞けばさっきの女の子のことわかるかな? 傘も持ってきちゃってるし。
朝のホームルームが終わり竜太はさっそく聞いてみた。
「いやお前…… それに名前とか書いてないの? 確かめろよ」
「あッ!」
『河上 いちか』そう書いてあった。
「知ってる?」
「え!? あの河上かよ!」
「有名なのか?」
「逆に知らないってマジかよお前… 俺のこと僻んでるくせに可愛い子のこと知らねぇってホント間が抜けてるよなぁ」
「そこまで言わなくてもいいだろ」
「でもまぁ結構あいつの周り人集まってるし入学式の時もお前眠そうにしてたから見てなかったんだろ。 確かにあいつは可愛い」
「だろ、可愛かったんだよ」
「じゃあ早速行ってみるか」
「は?」
心の準備が出来てない俺は駿に首根っこを掴まれ引きずられながら河上がいる教室に向かった。
「あれ? 居ないな河上のやつ」
「居ないならやっぱ戻ろうぜ、後でいいし」
「バカだな、お前だとその後でがいつになるかわかんねぇだろ? 今ならもうみんな慣れたろうし入学式の時より話しやすいだろうし」
ある意味良かったと思い引き返そうとした。
「ね、私のこと探してるの?」
「うわッ!」
「?」
またまたあまりの可愛いさに声が出てしまう。
「あー居た居た。 河上、こいつがお前に用があるんだってさ」
「おい駿!」
「良かったな、美少女と話せるチャンスだぞ」
「いや、それはそうなんだけど……」
違う、朝に見た子と同じくらい可愛いんだけど別人だ。 この河上いちかは髪の色も朝に見た子より明るいし顔も相当可愛いけど気が強そうっていうかなんていうか……
「用があるの? ないの?」
「あるある! じゃあ俺は教室戻ってるから」
「俺1人かよ!? 駿の野郎……」
教室に戻る駿の方向を見ていると河上がその視界に移動してきた。
「どうでもいいけど用って何?」
「あ、ええと……」
オタオタしている俺にイラッときたのか河上が俺の制服の裾を掴んだ。
「はあ…… もう、こっち来て」
河上に引っ張られ歩いていると周囲の生徒から同情のような眼差しを向けられる。
「あー、ありゃフラれるな」
「身の程知らずもいいとこだ」
そんな声が聴こえてくる。
は? 俺は告白なんてするつもりはないぞ、そもそも傘を返しに来ただけだし。
人気がなさそうな場所に移動して河上が俺に向き直った。
「で、用って何?」
やっぱり可愛い、こりゃ入学式に人だかりが出来るわけだ。 めっちゃ緊張してきた… しかもなんか俺が告る流れなのか?
「早くしないと授業始まっちゃうよ?」
「ぐッ…… ご、ごめんなさい!!」
「…… はい?」
追い込まれた俺は何故か謝って河上の元から逃げてしまった。