第38話『ダンジョンを甘く見ていた』
[(笑)]
[さすがに笑う]
[本当にこれでいいの?]
[wwwwwwwwww]
[WWWWWWWWWW]
コメント欄では笑いの渦が巻き起こっていた。
「ラッキーっ」
それもそうだ。
なぜなら、完全な出落ちもいいところ。
依頼として受注した『【ラターン鉱石】の採取』が、第7階層に侵入して数秒で6個も回収してしまったのだから。
「なんかさ、私達だけズルしているような感じもするよね」
「わかる。受付嬢の説明では、通常の転がっている石と【ラターン鉱石】の判別は難しいって話だったもんね」
「そうそう。写真を見させてもらったけど、説明通りで全然わからなかったもん」
「だというのに、シンが急に『あれだよ』とか言い出すもんだからビックリしたよね」
「うんうんっ。しかもラターン鉱石の説明欄通りで、通常の石より軽いし」
そこまで喜んでもらえると嬉しいんだけど……たしかに、少しだけズルしているような気持ちにもなってしまうな。
「でもこれ、他の人達だと集めるのに時間が掛かるんでしょ? 平均して1時間とか言ってなかった?」
「言ってた言ってた」
たしかに、見慣れない人達が探したら時間が掛かるのかもしれない。
名前に『鉱石』とついていても、大きさに統一感がないから。
俺達が回収したのも、腰に携えている小さなポーチにそれぞれが入れられるものだし。
「後は慣れだと思うよ。俺も最初は普通の石と瓜二つの見た目に苦戦したけど、なんだかこう……沢山触って見比べていくとわかるようになってくる」
「何それ、全然アドバイスになってないんだけど」
「考えるな、感じろ。ってことなんだねっ」
「まあたぶん、そんな感じ」
マキが俺の説明不足っぷりにため息を吐いているけど、上手く言葉にできないんだよなぁ……ごめん。
「まあでも、そこら辺は街に戻ってからでもできるからね~。後は【ウォンフ】を10体討伐しちゃおーうっ」
「だね」
「緊張してきた」
ただの肌感覚でしかないけど、今まで自分が目の当たりにしてきたダンジョンとは違う気がする。
天井に生えている光苔は色も形も明るさも変わってはいない。
岩壁や地面の硬さや土の湿り気だって同じ。
空気だって冷たくなっていたり温かくなっているわけでもなく、ましてや湿度が高いというわけでもない。
じゃあ何が違うのか。
それは、モンスターの強さだけ。
「私も緊張してきた。でも、だからこそ警戒しつつゆっくり行こう」
「うん。私も集中しなくちゃ」
そう……だよな。
緊張しているのは俺だけじゃないんだ。
「狼系は群れている事が多いから、できるだけはぐれているやつが居たら嬉しい――あ、ちょうどいいのが」
淡い期待を胸に秘めていたけど、幸運にも1体だけの【ウォンフ】を発見。
しかも、大きな通路から外れている部屋のような場所で立ち止まっている。
「あそこで戦うなら逃げ道もわかりやすいし、自分達のペースでいけるんじゃなかな?」
「私も賛成。まずは無理せず、1体からで良いと思う」
「うんうん、私も賛成。1体でも無理そうなら即撤退の精神で行こう」
「だけど、どうする? 部屋って言うには大きい感じがするし、広がったりして戦ってみる?」
「それもありだね。やれそうなことはチャレンジしたいし」
「いいね~っ」
よし、事前に軽く策戦立てもできたし大丈夫だろう。
「――行こう」
俺を先頭に、1人分が通れる入り口から順々に入っていく。
一応、辺りを確認――よし、ここにはウォンフが1体だけだから、このまま戦って大丈夫そうだ。
「正面から俺が行くから、横からお願い」
俺はハルナとマキへ指示を出し終え、前進する。
「こっちだ!」
声を大にして、俺へ注意を向けさせる。
『グルルルルルッ』
「俺が相手だ」
わざと剣を大きく空振りして威嚇。
『グルゥッ』
よし、そのままこっちに真っ直ぐ走ってこい。
卑怯かもしれないけど、悪く思わないでくれよ。
「聖域展開!」
『グゥッ!?』
「そうなるよな」
真正面からの突撃は、結界にぶつかって完全に勢いが止まった。
当然、結界はたったの1撃で光の破片となって消え去っていく。
普通だったら危機的状況だが、衝突の影響かウォンフは頭をクラクラとさせている。
「今だ!」
「はいはーいっ」
「うん――」
2人が両サイドから駆け寄ってきて、剣を突き刺し――ウォンフは消滅した。
[うぇえええええええええい]
[ナイスー!]
[作戦勝ち!]
「おぉ~、いいねいいね~」
「今の、良い感じ」
「上手くいって良かった」
まずは一安心。
だけど――、
「わわ、さすがに早いね」
「どうする? 下がる?」
「――いや、結界はすぐに使えないけど戦ってみよう」
喜んでいるのも束の間、奥の方からウォンフが2体だけ出現していた。
完全に安全策をとるなら、ここで下がった方がいい。
だけど、さっきの感じから考察するにウォンフの耐久値はそこまでないず。
なら、感覚を忘れないうちに連続で戦闘してもいい、と判断した。
「こっちの武器だけでもやってみないと」
「連携力を高める良い機会だね」
「じゃあ、まずはさっきと一緒で俺が注意を引きつける。そして、隙をみて1体だけをお願い。そこからは攻防戦、かな」
「オッケー」
「わかった」
この作戦だと、さすがに入り口付近では戦えない。
なら、さらに前進しよう。
「おらっ、こっちだ!」
自分でも言うのもなんだけど、予想以上に部屋中へ声が響いた。
ともなれば当然、2体のウォンフは瞬時に俺を標的と定めて駆け寄ってくる。
「ほらほら!」
まだまだ引き付けるんだ。
「はぁあっ!」
「はっ!」
「――わお」
[ひゅううううう]
[ふぉおおおおお]
[やるぅ!]
なんと、まさかのまさか。
ハルナとマキはそれぞれ1体ずつのウォンフを討伐してしまった。
完全な意識外の攻撃として、脇腹へ剣を突き刺し――そこから横一線で斬り裂き。
「もしかして、俺ってこのまま囮役で居た方がいいんじゃないか?」
[落ち込まないで]
[これも策戦の内]
[適材適所だから]
コメント欄の励ましが心に響く。
「うひぉー、自分でも驚いてるよ」
「やってみるものだね」
「てかてか、考えてることが一緒なのいい感じぃ~」
「まあね、感触的にいけるかなって思った」
あぁ、そこら辺は打ち合わせなしでやってたのね。
「でも、このペースで戦えるなら良いんじゃないかな。超効率的って感じでっ」
「そうね。もしも数が多くなったりしたら、シンのスキルだってあるわけだし」
「まあたしかに」
今は、防御としてだけではなく攻撃としても使えるこのスキル。
防御面は今のところ大丈夫だし、威力的にもまとまって突撃してきてくれたら同時に討伐できそうだ。
「しかも残り7体だしね。だけど、調子に乗らず焦らず、ね」
「失敗を糧に、だねっ」
「そうだ、慎重にいく精神は忘れずに、だ」
このままいけば大丈夫だ。
「よし、次……が……」
「……」
「……」
[え]
[え……?]
[なにあれ?]
得体の知れない何かの気配を感じ、咄嗟に振り返る。
そしてその姿を前に、俺は、いや、全員の思考が停止してしまった。
『グルルルルルゥ』
ウォンフと見た目はほとんど変わらい。
ふかふかした体毛が全身に生え、牙が少しだけ口から出ている。
しかし、その大きさは桁が違う。
ウォンフは膝下ぐらいまでしかなかったものの、今目の前に居るモンスターは目線の高さほどある。
「もしかして【トガルガ】なんじゃ……」
「信じたくないけど、そうかも。普通の中ボスだったら、部屋の最奥で待ち構えているからね」
マキが言っていることは正しい。
だから、この部屋へ入る時に中の確認をした。
そして、中ボスはその部屋から基本的には出てこない。
例え戦闘中の人間が部屋から逃げ出したとしても。
だけど【トガルガ】だけは、例外なく通路までも移動してくる。
そうあの時、偶然にも遭遇してしまった赤毛の大熊のように。
「今すぐに、に、逃げ……」
られない。
なぜなら、逃げ口は今あいつがいる後ろになるから。
ヤバい。
ヤバいヤバいヤバい。
マズい。
マズいマズいマズい。
ダメだ落ち着け。
考えろ。
考えるんだ。
「やるしかない」
それしかない。
ハルナとマキは俺へ目線を向けている。
わかっている。
どう考えても無謀だ。
あの時みたいに、真っ直ぐ突進してきてくれる保証はない。
「それでも、やるしかない」
[おいおいおいおいおい]
[大丈夫なのかよ!?]
[お願い生きて]
「無謀だっていうのはわかる。でも、このまま簡単に死ぬわけにはいかない。でしょ」
「そうだね」
「わかったよリーダー」
ごめん、こんな時に気が利く事を言えなくて。
目を背けたくても見えている。
ハルナもマキも、きっとあの時の恐怖が蘇ってきているんだよね。
その震える手を見て、その震える息を聞いたらわかる。
だけど、やるしかないんだ。
「こいつに勝ったら、後で『ダンジョンを甘く見ていた』って笑い話にしてやろう」
「それいいねっ」
「だな。しかもあいつ、俺らより強いくせに警戒してるぜ」
これぐらいの事しか言えない自分が情けない。
でも。
「――みんなで勝とう」
「うん」
「うんっ」




