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仮面の下の素顔  作者: りゅうや
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第九話「自己解決」

 

 夕食後も結局どうするべきなのか決めきれず、部屋にこもりっきりになってしまった。

 お父さんが何度か安否を確認しに来てくれたけれど、「大丈夫」くらいしか返せなかった。

 この病気を早くなんとかしないとお父さんが心配で倒れるかもしれない。

 昔インフルエンザで寝込んだら実際にあったし……

 でも私一人じゃどうにも出来ないし、だからと言って病院に行くのも難しい。


「本当にどうしよう……」


 解決への道が見えない。

 このまま引きこもっていたら学校にも行けない。

 そうなったら皆にも会えない。

 会えない……話さなくて、良い……


「────少し、良いかも」


 この先に辿る出来事に心が晴れる。

 が、すぐに頭を振ってその考えを払拭する。


「そんな事を考えたらダメ!」


 自分を戒める。変な事を考えて次からその考えが思考と行動に混ざったら大変だ。

 次があるのか、ないのか。

 それは分からない。でもどっちの可能性も含めて考えた方が良いはず。

 だから次があるって事を前提に、しっかりとダメな考えは(いさ)める必要がある。

 それに学校へ行くのも友達と話すのも、お母さんやお父さんと話すのも嫌だなんて思わない。はず。

 原因のヒビさえなんとかなれば、そんな事を考えなくて良い。

 要らない思考なんだから。


「でも私だけじゃどうしようもないし……」


 スタート地点から進めない。目の前に道はあるのに、それを誰かが遮っているみたいに進めない。

 そんな私が取れる手は多分一つだけ。


「病気を無視する」


 このヒビは私が見ている幻覚、で良いんだよね?

 だから気にしなければ皆に私が病気だってバレないし、心配をかけずに済む。

 鏡で顔を確認出来ないのは不便だけど、その程度で済むなら全然良い!


「うん、そうしよう! 見慣れればきっと間違って鏡とか見ても今度こそ大丈夫だと思うし……!!」


 解決策が見つかり口角が上がる。

 早速見慣れるためにベッドから降りて引き出しから鏡を探す。


「それに精神病って、気の持ち様で多少は治ると思うし、気にしないで過ごしていればそのうち見えなくなったりするかも!」


 声が明るくなる。

 小さな可能性のお陰で気持ちが変化する。

 そうこうしていると鏡が見つかる。


「…………」


 しかしいざ鏡を覗こうとすると、学校のトイレやパソコンの画面に反射した時の顔を思い出し怖気づく。

 が、気を取り直して鏡を見る。

 変わらずヒビはほぼ顔全体に達しているけれど、昨日の様に酷く進行はしていない。

 欠けている部分は増えているけどそれ程ではない。

 正直言って酷い顔。でもこれが私にしか見えていないならそれで大丈夫。


「大丈夫、大丈夫……」


 自分に言い聞かせる。

 しかしそれで良いと言い聞かせたのに頭の中には、ネットで見た検索予測の「死亡例」という文字がフラッシュバックする。

 統合失調症はそこまで死亡率は高くないけれど、適応障害はそこそこ高い。

 しかし厄介なのはどっちも合併症を引き起こしやすい所。

 もし摂食障害が起きてしまったらかなり危ないらしい。幸い食欲はまだあるから、そっちは大丈夫だと思う。

 気にしなければ病気も進行しないから合併症の心配もない。だから死ぬ事なんてない。

 私が気にしなければそれで済む。だから──


「──やっぱり無理……!! 誰か、誰か助けて……っ」


 死亡という文字のせいで抑えていた気持ちが決壊する。

 気持ちを抑えるのは得意だと思っていた。

 だからこの気持ちも抑えたいのに出来ない。

 怖い死にたくない助けて、こんな病気になりたくなかった。生きたい死にたいない助けて誰か誰かだれか……

 涙と共に気持ちが底から無限に湧き出てくる。

 もう栓は出来ないのかもしれない。


「だれかぁ……」


 助けて欲しい。けれど両親には頼れないし、一人だけで精神科に行けない。

 先生……も無理。言えない。こんな事で迷惑をかけたらダメ。

 友達はもっての外。こういうのは大人の方が良いだろうし。

 しかし両親や先生以外で私が頼れる大人なんて──あ。


「ユウマさん……」


 一人だけ思い当たり、パソコンに視線を向ける。

 前に大学生だと言っていた事を思い出す。

 頼れる大人。いつも私を引っ張ってくれる人。

 だからもしかしたらっと、つい考えてしまった。


「ダメ!!」


 しかし頭を振ってすぐにその考えを払拭する。

 いくらゲームで知っている人だからと言ってこんな面倒な事を相談したら迷惑をかけてしまう。

 そもそも私一人で解決する問題なのだから、やっぱり他人に頼っちゃいけない。

 だからユウマさんに助けを求めたらダメ。


「……」


 ダメなのに、ダメだって分かっているのに。

 いつもゲームで下手な私を助けてくれる彼なら、今回も助けてくれるのでは? と甘い考えを抱いてしまう。

 そう懇願する気持ちと拒否しようとする気持ちが、どちらかに傾くべきか迷ってシーソーをしていると不意にスマホの通知音が鳴る。

 それに肩をビクつかせる。

 両親からのメッセージだろうかと画面を確認すると、そこには普段ユウマさんと通話をしているアプリのマーク。


『昨日はごめん。俺が何かやらかしたから怒ったんだ……』


 そしてユウマさんからのメッセージが表示されていた。

 途中でメッセージが途切れて全文は分からないけれど、何故か彼が謝罪しているのは分かる。

 その内容とタイミングの良い彼からのメッセージに急いでアプリを開く。



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