第六話「夜、ヒビの進行」
「…………って事があって、お陰で先生に注意されたんです」
『ははは、それは災難だったね』
「本当に!」
学校での出来事をただ話しているだけ。それだけなのに楽しい。
正直今でもゲームは苦手。
敵が来たら怖いし、頭が真っ白になってうまく動けなくなる。
でも彼とやるゲームは少しだけ楽しく感じる。
それが彼が素で話せる相手だからなのか、それともただゲームを楽しく出来るようにサポートをしてくれるからなのか。
その理由がわからない。でも今はこの時間がとても好きだ。
「ああ! ユウマさん敵、敵!背後から敵来てます!!」
『……大丈夫落ち着いて。ゆっくりやれば行けるから』
例えのほほんと会話をしていて急に大変な状態になってもユウマさんはいつも冷静に対処してくれる。
私も早くこんな風に余裕を持って戦える様になりたい……
『よし。クリア。ナイス、サナさん。』
そうこう思っている間に終わった。
結局私は何も出来ていない。ほとんどをユウマさん一人が倒してしまった。
「今のはどうしたら良かったですか?」
『そうだな……もっとスキルを使って行こう。憶えている限りだと最初の一回しか使ってなかったよね?』
「……はい」
『最初に使ったのは良い判断。報告も良かったから、とりあえず戦闘が始まったらスキルを意識して』
「はい!」
こうやってほぼ毎日教えてもらっている。
成長してるって実感はあんまりないけど……
自分の成長の鈍足差に肩を落とす。
クエストが終わりローディング画面へと移り、パソコンが暗転する。
「っ!!?」
気をつけてはいた。
スマホは画面を開いた状態にしていたし、帰ってから洗面所で手洗いの時もお風呂の時も鏡を見ないようにしていた。
パソコンだって点けてからお風呂に行って暗い画面を見ないようにしていた。
だけど見てしまった。
暗くて見難いがそれでも自分の顔が映る。
昼間よりもヒビは進行し、所々欠けている部分まである。
顔の半分をヒビが伝っている。
落として割ったスマホ画面の様だ。
「わっ!?」
その形相に驚き身をのけ反らせ、バランスを崩して椅子から落ちてしまった。
ブチって嫌な音を立ててパソコンからイヤフォンが外れる。
背中と腰を強く打ち、肺の空気が無理矢理外へ排出される。
「ぐあぁ……」
低い呻き声を漏らす。
『サナさん?』
私が何も返事をしないからかユウマさんの心配そうな声が、イヤフォンが外れてオープンな状態で聴こえる。
ぶつけた背中を押さえながらイヤフォンを繋げ直す。
「すみません、今日は寝ます。お疲れ様です」
『え……あ、お疲れ様……』
突然の申し出にユウマさんは戸惑いながらも別れの挨拶を返してくれる。
パソコンの電源を落とし、床に崩れるに座る。
「病気、かな……? やっぱり」
学校から帰って勉強をする前に自分の症状についてスマホで調べてはみたけれどそれらしい情報はなかった。
だからこの得体の知れない現象に以前から考えていた事を当てはめる。
病気と考えなければ、他に何があるのか。
誰かに問いたい……
「でも皆には見えないし……」
答えを得られず狼狽する。
すると部屋の扉がノックされる。
「佐奈、大丈夫か? 凄い音がしたけど」
声の主はお父さんだった。
「パ──」
お父さんにこの訳の分からない事を打ち明けたい。
お父さんなら見えなくても話を聞いてくれるだろうし、もしかしたら答えを知っているかもしれない。
でも途中で言葉が出なくなる。
打ち明ければ楽になるかもしれないけれど、それ以上に『変』と思われてしまう。
今朝だって訝し気な顔を浮かべていた。
「……だ、い丈夫。ちょっと椅子から落ちただけだから」
「そっか……気をつけるんだよ」
「はい……」
だから助けを求められなかった。
お父さんが去って行った音を聞き届ける。
「どうしよう……」
部屋の中でただ独りごちる事しか出来ない。