妹は頼られ、姉は失墜し①
モースト帝国の建築技術は、他国に比べて進んでいる。
私も詳しいわけじゃないけど、前世の建築技術にとても近いと思っている。
私に建築の知識はない。
何ができるかわからないけど、少しでも彼らの期待に応えられるように。
そう思って手を上げた。
のだけど……。
「つーわけで! 期待の錬金術師に手を借りることになったぞ!」
「よ、よろしくお願いします!」
なんだかすごいことになってしまった。
私の前には、建設現場から大工の親方が集められていた。
圧巻というか、威圧感がすごい。
なんという場違い感……。
殿下とトリスタン様はさすがに堂々とされていた。
一人の親方さんが手を上げ、トリスタン様に質問する。
「手を借りるって、具体的に何ができるんです?」
「それはオレにもわからん!」
「わかんないんですか……」
親方さんはちょっと呆れていた。
でも決して怒っているわけではない。
やれやれと声が聞こえる。
「また殿下の思いつきか?」
「じゃないかな。テンション異様に高いし」
「まったく、まぁ、俺たちのことを想っての提案だから、無下にもできんか」
「……」
どうやらよくある展開のようだ。
そのせいか、あまり期待値は高くないように見える。
大丈夫なのだろうか……。
心配な顔をしていると、殿下が前に出る。
「忙しいところ集まってもらってすまない。トリスタンから、建築作業人手が足りないと聞いた。すぐに人手は増やせないが、彼女の持っている技術なら、何か役立つことがあるかもしれない」
「はぁ、エルムス王子がおっしゃるなら」
「そうだな。実際かなりきつかったし、一度考えるべきか」
あれ?
トリスタン様より、エルムス殿下のほうが信頼ある?
他国の王子様だよね?
「ありがとう。誰か現状の建築状況を整理してくれるか?」
「俺から話しますよ」
「あ!」
「ルミナさん、さっきはどうも」
手を上げてくれたのは、栄養ドリンクを最初に配った現場の親方さんだった。
知っている人がいて心からホッとする。
彼が手短に、現状について説明を始めた。
「建築状況ですが、大体四割完成している感じですね。中心に近い建物はほぼ、外観は完成しています。ただ予定よりも作業が遅れています。ここは天候も変わりやすいですし、冬になれば積雪もありますからね」
「ここ、雪が降るんですか?」
「ああ、王都と違って明確に季節が変わる。今は温かい時期だが、一か月もすれば気温が一気に下がるぞ」
どうやらこの地域には季節の巡りがあるらしい。
王都は一年を通して過ごしやすい気温だった。
同じ国の中だし、そういうものだと勝手に思っていたけど。
確認した限り、春夏秋冬に近い巡りがあるようだ。
今は四季でいうと秋に当たる時期らしい。
「問題はやはり人員ですね。建設に使う素材は、運ぶだけでも一苦労ですんで。転移系の魔法も、そうほいほい使えるもんじゃないですしね」
重く大きな建設素材。
材木や鉄なんかは、転移の魔法を使って運んでいるらしい。
ただ万能ではない。
転移には莫大な魔力を消費する他、使える人材は少なく、魔導具も量産できない。
要するに解決すべき問題は――
「素材の運搬か?」
「じゃないですかね。そこが一番、なんやかんや大変ですから」
殿下と親方さんで頷きながら話を進める。
それを聞きながら私も考える。
私たちの国よりも科学技術が発展しているモースト帝国なら、貨物船とか作れないのかな?
線路を引いて連結列車に乗せて……それにも時間がかかるのか。
長期的に見たらそういうのもありだと思う。
けど、本当にそうかな?
運搬をどうにかするよりも……。
「建築素材の見直しをするほうが……」
ぼそりと意見が漏れる。
殿下と親方さんが、私の声を拾った。
「素材の見直し?」
「どうするんだ? ルミナさん」
「え、あ、まだ具体的には何も、思いついただけなので」
考えたことが言葉に漏れていたようだ。
慌てて口を閉じたけど、もう遅い。
「素材を変えるつってもな。軽い木造に変えるとして、強度が気がかりだ」
「それに今さら変えるのは難しいだろ? すでに枠や支柱は出来上がった状態のところが多いんだ。一から作り直すことになりかねない」
親方さんたちから否定的な意見が飛び交う。
やっぱり素人考えはよくなかったかな。
少し落ち込んだ私の隣から、大きな声でトリスタン様が叫ぶ。
「静かにしやがれ!」
空気がピリッとした。
怒っている……わけではないみたいだけど。
「そうやってすぐ否定したら、新しいもんは生まれねーよ。違うか?」
「……そうですね」
トリスタン様の言葉で、否定的な意見を口にしていた方たちが静かになった。
続けてトリスタン様は私に尋ねる。
「素材を変えるって、新しく作るって意味だよな?」
「は、はい! それができればいいなと思ったんですが……」
「よし、お前ら! 今どんな素材使ってるのか。どういうのがあったら便利か意見出せ! 採用された奴はオレから追加報酬を出すぜ!」
「ホントですか! そういうことなら意見ありますぜ!」
「いや俺もあるぞ!」
否定的な意見は消し飛び、今度は意見交流会みたいな流れになった。
賑やかになった光景を見ながら、トリスタン様は笑っている。
「いいないいな。そうでなきゃ」
この人は……他人をやる気にする天才?
「乗せるのが上手いんだよ。昔からな」
と、殿下が隣で呟いた。
殿下も経験があるのかもしれない。
ちょっぴり複雑な心境が、顔に出ている。
それから意見を募った。
現在使っている素材は主に鉄と木材。
冷暖房の技術は発達しており、熱や冷気を漏らさないように、建物は鉄の割合が多いらしい。
壁にも鉄を使っているとか。
骨組みや支柱に鉄を使うのはわかるけど、壁にまで使っていたら確かに大変だ。
非効率的なのには理由がある。
天候だけではなく、この地域は魔獣も多く生息しているらしい。
万が一、街の中に侵入されたら大変だ。
前世では不必要だった一般家庭の防御力が、この世界では必要になっている。
そこが大きな違いだろう。
防御力……。
硬い素材で、持ち運びが容易。
そしてこの世界にはまだない物……。
考えた結果、私がたどり着いたのは――