表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/37

錬金術師にできること④

 トリスタン・モースト。

 モースト帝国の第二王子であり、武芸に秀でた才能を持つと称される天才。

 あらゆる武術を身につけた彼は、モースト帝国最強の騎士。

 各国合同の騎士演習に参加されているところを、一度だけ遠目に見たことがある。

 他国だから接点はまったくないため、すぐには気づけなかった。

 それにしても大きな体だ。

 身長が殿下より高いのもあるけど、筋肉質な肉体は大工の方々よりも……。


「ん? どうした? 俺の筋肉に見惚れたか? 触ってもいいぞ?」

「え、いや、その……」

「おい、それセクハラだからやめておけ」

「何言ってんだ? 俺の筋肉をわいせつ物みたいに言うんじゃねーよ!」

「言ってないから。まったく、ルミナが困ってるだろ?」


 実際困っていた。

 どんな人なのかわからないのに、ぐいぐい距離を詰めてくるから。

 私は苦笑いをする。


「おお、すまんすまん。そういや自己紹介してねーな。オレはトリスタンだ。よろしく頼むぜ! エルムス期待の錬金術師だろ?」

「は、はい! ルミナ・ロノワードです! よろしくお願いします」


 期待の錬金術師……うん、嬉しい言葉だ。

 頭を下げて、表情が緩む。


「しっかしついに呼んだのか。随分とかかったな」

「手続きがあるんだよ。いろいろと柵も多い」

「めんどくせーな。家柄だの地位だの、そんなもんなくなりゃーいいのによ」

「え……」


 一国の王子が、貴族制度を批判したような……。

 聞き間違いじゃないよね?


「そこについては半分同感だが、そう簡単じゃないだろ」

「半分……」


 殿下も半分は今の意見に同意しているの?

 貴族制への批判、それはそのまま現代の王政に対する批判に等しい。

 一国の王子が国政を批判する意味は重い。

 それがわからない王子たちじゃないと思うけど……。

 ただその疑問より先に、気になったことが一つ。


「あの、お二人は……」


 どういうご関係なのだろうか?

 隣国の王子同士、というだけには見えなかった。

 二人は顔を一度顔を合わせ、笑顔を見せながら答える。


「俺たちは古い友人だ」

「お互い二番目で歳も近かったからな! 幼馴染みてーなもんだよ」

「幼馴染……そうだったのですね」


 知らなかった。

 隣国の王子同士が仲良しな幼馴染か。

 物語の中だけに見られる特権かと思っていたから、なんだかほっこりする。


「あともう一人いるんだが、そういや最近見てねーな」

「忙しいんだろ。彼女は俺たちと違って、特別な役目もあるから」

「そうだな。まっ、そのうち顔出すだろ」

「彼女……」


 ひょっとしてあの人?

 と、思い浮かんだ人物がいたけど、いずれわかることだ。

 今は深く考えなくてもいいだろう。


「んでよ。それ一本くれ」

「まだ言ってるのか」

「あったり前だろ? うちの大工たちが美味そうに飲んでるのが見えたからな」


 トリスタン様はそう言いながら、働き始めた大工たちに視線を向けた。

 その視線に気づいた大工たちがトリスタン様に挨拶をする。


「殿下! いらしてたんですか!」

「おう! 頑張ってるな! お前ら!」

「もちろん! 元気溌剌です!」

「はっはっ! そりゃいい!」


 自国の職人たちとも仲がいいようだ。

 トリスタン様は豪快で、懐が深い人なのだろう。

 見た目は怖いけど優しそうなところは、大工さんたちに似ている。

 それに、なんだか頼れるお兄さん、みたいな雰囲気がある。


「なぁくれよ! 一本でいいから」

「お前なぁ……はぁ……」


 お兄さん……じゃないかも。

 弟……末っ子?

 どちらかというと、殿下のほうがお兄さんっぽい。


「数もありますし、殿下」

「ルミナがいいなら、ほら」

「お、サンキュー!」


 ごくりと豪快に飲み干す。

 一瞬で空っぽになった小瓶を握りしめ、満足げな顔で叫ぶ。


「いいなこりゃ! 最高の気分だ!」

「あ、ありがとうございます」


 ものすごくテンションがハイになっているけど、そんな効果あったかな?

 そういう性格なだけかな?

 空になった瓶を木箱に戻し、改まってトリスタン様は私に言う。


「ありがとな。うちの大工たちに差し入れてくれて。言い出しっぺはエルムスか?」

「発案も彼女だぞ」

「そいつは最高だな。気遣い痛み入るぜ。国の代表として感謝する」


 そう言って、トリスタン様は深くお辞儀をした。

 一国の王子に頭を下げさせるなんて恐れ多いことだ。

 私は慌てて首と手を振る。


「いえそんな! 作るのは簡単ですし、素材も道具も用意して頂いていたので」

「だとしてもだよ。他国の、他人を自然と気遣えるってのは、心が優しい証拠だ。そういう奴らばっかりの街にしたいよな」

「ああ、そうだな」


 二人はしみじみと感じながら頷いている。

 なんだかむず痒い。

 心が優しい……か。

 言われたのは初めてだった。


「聞いてた通り、腕のいい錬金術師なんだな」

「ああ、うちを代表する人材だ」

「……」


 ちょっと恥ずかしい。

 殿下はトリスタン様にも、私のことを話していたのだろうか。

 どんな風に伝わっているのかすごく気になる。

 

「なるほどな。錬金術ってのは、素材さえあればなんでも作れるのか?」

「あ、はい。私が作れる範囲のものなら」

「例えば家とか?」

「家ですか? 規模にもよりますし、構造が複雑だと見た目だけしか……家に使う素材とかなら全然作れると思いますが」

「素材はいけるのか! それじゃ頼みたいんだが、うちの建築作業の手伝いしてくれねーか?」


 トリスタン様からの提案に、私は首を傾げる。

 建築作業の手伝い?

 私に力仕事は……どう考えても無理だ。


「建築素材が足りないのか?」


 代わりに殿下が質問してくれた。

 トリスタン様が答える。


「いや足りてる。足りてないのは人手だな」

「彼女に力仕事はやらせられないぞ」

「ちげーよ。なんかその、錬金術で建築をもっと楽にできねーかなと思ってな! 見ての通り、まだ建設作業は全体の半分も終わってねーんだよ」

「なるほどな」

 

 建築作業は主に、モースト帝国の職人に担当してもらっている。

 一番技術力がある大工は彼らだから。

 しかし街の規模が大きく、人手が不足しているらしい。

 大工の方々が疲れていたのも、それが理由なのだろう。


「私にできることなら、協力させてください」

「お、ホントか?」

「はい。殿下」


 私だけの意志では決められない。

 殿下にも尋ねる。


「お前がそうしたいなら構わないぞ」

「ありがとうございます!」


 頼ってもらえるなら、私は喜んで手を貸そう。

 短い期間に感謝をたくさんもらった。

 その言葉が、私の背中を押してくれる。

 自分にもできることがたくさんあると、教えてくれる。

【作者からのお願い】

本日最後の更新になります!!

引き続き読んで頂きありがとうございます!


すでに評価して頂いた方、ありがとうございました!!

まだの方はぜひともページ下部の評価欄☆☆☆☆☆から、お好きな★を頂ければ非常に励みになります!

現時点での評価でも構いません!!

ブックマークもお願いします。


ランキングを維持することでより多くの読者に見て頂けますので、どうかご協力お願いします!



次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
― 新着の感想 ―
[一言]  特に某公爵家は一度改易して、ルミナが新しく家門を興して錬金術を継承していくべきですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ