錬金術師にできること④
トリスタン・モースト。
モースト帝国の第二王子であり、武芸に秀でた才能を持つと称される天才。
あらゆる武術を身につけた彼は、モースト帝国最強の騎士。
各国合同の騎士演習に参加されているところを、一度だけ遠目に見たことがある。
他国だから接点はまったくないため、すぐには気づけなかった。
それにしても大きな体だ。
身長が殿下より高いのもあるけど、筋肉質な肉体は大工の方々よりも……。
「ん? どうした? 俺の筋肉に見惚れたか? 触ってもいいぞ?」
「え、いや、その……」
「おい、それセクハラだからやめておけ」
「何言ってんだ? 俺の筋肉をわいせつ物みたいに言うんじゃねーよ!」
「言ってないから。まったく、ルミナが困ってるだろ?」
実際困っていた。
どんな人なのかわからないのに、ぐいぐい距離を詰めてくるから。
私は苦笑いをする。
「おお、すまんすまん。そういや自己紹介してねーな。オレはトリスタンだ。よろしく頼むぜ! エルムス期待の錬金術師だろ?」
「は、はい! ルミナ・ロノワードです! よろしくお願いします」
期待の錬金術師……うん、嬉しい言葉だ。
頭を下げて、表情が緩む。
「しっかしついに呼んだのか。随分とかかったな」
「手続きがあるんだよ。いろいろと柵も多い」
「めんどくせーな。家柄だの地位だの、そんなもんなくなりゃーいいのによ」
「え……」
一国の王子が、貴族制度を批判したような……。
聞き間違いじゃないよね?
「そこについては半分同感だが、そう簡単じゃないだろ」
「半分……」
殿下も半分は今の意見に同意しているの?
貴族制への批判、それはそのまま現代の王政に対する批判に等しい。
一国の王子が国政を批判する意味は重い。
それがわからない王子たちじゃないと思うけど……。
ただその疑問より先に、気になったことが一つ。
「あの、お二人は……」
どういうご関係なのだろうか?
隣国の王子同士、というだけには見えなかった。
二人は顔を一度顔を合わせ、笑顔を見せながら答える。
「俺たちは古い友人だ」
「お互い二番目で歳も近かったからな! 幼馴染みてーなもんだよ」
「幼馴染……そうだったのですね」
知らなかった。
隣国の王子同士が仲良しな幼馴染か。
物語の中だけに見られる特権かと思っていたから、なんだかほっこりする。
「あともう一人いるんだが、そういや最近見てねーな」
「忙しいんだろ。彼女は俺たちと違って、特別な役目もあるから」
「そうだな。まっ、そのうち顔出すだろ」
「彼女……」
ひょっとしてあの人?
と、思い浮かんだ人物がいたけど、いずれわかることだ。
今は深く考えなくてもいいだろう。
「んでよ。それ一本くれ」
「まだ言ってるのか」
「あったり前だろ? うちの大工たちが美味そうに飲んでるのが見えたからな」
トリスタン様はそう言いながら、働き始めた大工たちに視線を向けた。
その視線に気づいた大工たちがトリスタン様に挨拶をする。
「殿下! いらしてたんですか!」
「おう! 頑張ってるな! お前ら!」
「もちろん! 元気溌剌です!」
「はっはっ! そりゃいい!」
自国の職人たちとも仲がいいようだ。
トリスタン様は豪快で、懐が深い人なのだろう。
見た目は怖いけど優しそうなところは、大工さんたちに似ている。
それに、なんだか頼れるお兄さん、みたいな雰囲気がある。
「なぁくれよ! 一本でいいから」
「お前なぁ……はぁ……」
お兄さん……じゃないかも。
弟……末っ子?
どちらかというと、殿下のほうがお兄さんっぽい。
「数もありますし、殿下」
「ルミナがいいなら、ほら」
「お、サンキュー!」
ごくりと豪快に飲み干す。
一瞬で空っぽになった小瓶を握りしめ、満足げな顔で叫ぶ。
「いいなこりゃ! 最高の気分だ!」
「あ、ありがとうございます」
ものすごくテンションがハイになっているけど、そんな効果あったかな?
そういう性格なだけかな?
空になった瓶を木箱に戻し、改まってトリスタン様は私に言う。
「ありがとな。うちの大工たちに差し入れてくれて。言い出しっぺはエルムスか?」
「発案も彼女だぞ」
「そいつは最高だな。気遣い痛み入るぜ。国の代表として感謝する」
そう言って、トリスタン様は深くお辞儀をした。
一国の王子に頭を下げさせるなんて恐れ多いことだ。
私は慌てて首と手を振る。
「いえそんな! 作るのは簡単ですし、素材も道具も用意して頂いていたので」
「だとしてもだよ。他国の、他人を自然と気遣えるってのは、心が優しい証拠だ。そういう奴らばっかりの街にしたいよな」
「ああ、そうだな」
二人はしみじみと感じながら頷いている。
なんだかむず痒い。
心が優しい……か。
言われたのは初めてだった。
「聞いてた通り、腕のいい錬金術師なんだな」
「ああ、うちを代表する人材だ」
「……」
ちょっと恥ずかしい。
殿下はトリスタン様にも、私のことを話していたのだろうか。
どんな風に伝わっているのかすごく気になる。
「なるほどな。錬金術ってのは、素材さえあればなんでも作れるのか?」
「あ、はい。私が作れる範囲のものなら」
「例えば家とか?」
「家ですか? 規模にもよりますし、構造が複雑だと見た目だけしか……家に使う素材とかなら全然作れると思いますが」
「素材はいけるのか! それじゃ頼みたいんだが、うちの建築作業の手伝いしてくれねーか?」
トリスタン様からの提案に、私は首を傾げる。
建築作業の手伝い?
私に力仕事は……どう考えても無理だ。
「建築素材が足りないのか?」
代わりに殿下が質問してくれた。
トリスタン様が答える。
「いや足りてる。足りてないのは人手だな」
「彼女に力仕事はやらせられないぞ」
「ちげーよ。なんかその、錬金術で建築をもっと楽にできねーかなと思ってな! 見ての通り、まだ建設作業は全体の半分も終わってねーんだよ」
「なるほどな」
建築作業は主に、モースト帝国の職人に担当してもらっている。
一番技術力がある大工は彼らだから。
しかし街の規模が大きく、人手が不足しているらしい。
大工の方々が疲れていたのも、それが理由なのだろう。
「私にできることなら、協力させてください」
「お、ホントか?」
「はい。殿下」
私だけの意志では決められない。
殿下にも尋ねる。
「お前がそうしたいなら構わないぞ」
「ありがとうございます!」
頼ってもらえるなら、私は喜んで手を貸そう。
短い期間に感謝をたくさんもらった。
その言葉が、私の背中を押してくれる。
自分にもできることがたくさんあると、教えてくれる。
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