辺境に飛ばされて①
連載版スタートです!!
家族とは何か。
姉妹とはどんな存在なのか。
人によって解釈は違うし、家庭によって在り方も違うと思う。
仲睦まじい姉妹だっているだろう。
ただ、私にとっては幻想でしかなかった。
少なくとも二度、似たような経験をした私にとっては……。
「え……」
その日は突然やってきた。
私の前に立つ二人。
姉と私の婚約者……だった人たち。
「聞こえなかったかしら?」
「ならもう一度言ってあげよう。ルミナ、君との婚約は今日限りで破棄させてもらうよ」
元婚約者は躊躇なく、私に別れを告げた。
そして姉は続けて……。
「ルミナ、宮廷で働くのも今日で終わりよ? あなたには北の果てにある辺境の地に行って貰うことになったから。何もないところだけど頑張ってね?」
姉は私に、辺境への左遷を告げた。
積み上げてきた努力も、築き上げてきた地位も。
未来を約束したはずの人でさえ、私はたった一瞬で失ってしまった。
でも――
「そうですか。わかりました」
悲嘆も、絶望もなかった。
ただ私は静かに受け入れ、心の中でこう思った。
やっと解放される――
◆◆◆
時を大きく遡る。
私は、いわゆる転生者というものだった。
前世の私は、特に何か取柄があるわけでもない普通の女の子だった。
容姿も、才能も何も普通で。
劇的なことなんて起こらず、一定の速度で流れる川のように、平凡な一生を終える……はずだった。
唯一……いいや、決定的に違ったのは、家族の関係だった。
離婚と再婚を繰り返して、私の家族はバラバラになった。
姉妹がいた。
けれど、離婚した時に離れ離れになった。
私は悲しかったけど、姉のほうは嬉しそうだった。
どうやら姉は、私のことが嫌いだったらしい。
母親も私のことが気に入らなかったらしくて、私は父親についていった。
その先で再婚して、また離婚して、今度は義母についていくことになる。
父も私のことは好きではなかったそうだ。
新しい家族は、正真正銘の他人しかいなかった。
当然、馴染めるはずもない。
放置され、無視され、寂しかった私は繋がりを求めて夜の街を歩いた。
悪い人たちに声をかけられて、それからの記憶はあいまいだ。
どうやって生涯を終えたのかさえ……。
ただひたらすら、後悔をした。
どこで間違ったのだろう。
私の青い瞳が、母親は憎いと言っていた。
どうして私の眼だけ空のように青かったのかわからない。
そんなこと考えもしなかった。
ああ、私は最期まで一人なのだと。
心の底から願った。
もしも来世があるならば、偽りではない本物の繋がりがほしい……。
心安らぐ場所を、私にください。
◆◆◆
「おぎゃー! おぎゃー!」
目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。
知らない夫婦が、私のことを見下ろして涙を流している。
「あなた、元気な女の子よ」
「ああ、君に似て可愛いね。瞳の色が特徴的だ」
(……誰? ここは?)
理解するのに時間がかかったが、成長と共にわかってきた。
ここは私が生まれた世界とはまったく別の世界。
二人は私の両親で、どうやら由緒正しき貴族の家系に生まれたのだと。
(生まれ変わったんだ……私!)
奇跡が起きたと思った。
死に際に神様が、私の願いを叶えてくれたのだと。
こんなに嬉しいことはない。
後悔ばかりで散った一度目の人生……。
もうあんな想いは嫌だ。
今度の一生は、幸せになれるように努力しよう。
温かな家庭を持って、仲のいい友人や、親友と呼べる人を作ろう。
なんだかワクワクしてきた。
この世界は、どんな場所なのだろうか。
私の両親は、どんな人たちなのだろうか。
私の将来には、どんな出会いが待っているのだろうか。
期待に胸が膨らんだ。
失敗したことがあるからこそ、二度目はないと思っていた。
そうであると願っていた。
◆◆◆
結論から先に言おう。
どうやら私は、そういう人生を送ることが決まっているらしい。
五歳の時、母が病死した。
たちの悪い流行病にかかってしまい、一年近くベッドの上で過ごしていた。
立ち上がることもできなくなって、最後は誰にも気づかれることなく、朝に息を引き取っていた。
悲しい別れだった。
私は優しい母のことが大好きだったから。
父も悲しんでいた。
けれど、不思議なことが起こった。
母が病死した一か月後に、父から告げられたのだ。
「再婚することになった。相手はセリエーヌ伯爵の元妻だ」
「さい、こん?」
「そうだ。お前にとっても新しい母になる。あちらにも娘がいて、ちょうどお前とは同じ年だが、生まれた順番的にはお前が妹になるだろう。仲良くしなさい」
理解が追い付かなかった。
あれよあれよと時間は経過して、父の再婚は確定した。
私が生まれたロノワード公爵家と、新しい母のセリエーヌ伯爵家は、遠縁だがかつて同じ名を持つ貴族の家系だったらしい。
遥か過去に分かれた二つの家が、何の因果か再び交わり、新たなロノワード公爵家として再出発を果たした。
珍しいことだけど、貴族の間では稀に起こることらしい。
そこはいい。
複雑な事情は、考えたって子供の私にはわからなかった。
けれど純粋に疑問が浮かんだ。
……早くない?
再婚するにしたって、母が亡くなってまだ一か月しか経過していない。
父も悲しんでいたはず。
涙を流していた。
再婚した父は、とても幸せそうだった。
亡くなった母のことなんて、初めからなかったようにすら感じた。
あの涙は何だったの?
一か月という短すぎる期間。
そういうことでしかない。
母が病と闘い、ベッドから出られない期間に、父は別の女性と関係を持っていたのだ。
いつからだろう。
まったく気がつかなかった。
私が気づかないだけで、母は知っていたのだろうか。
だとしたら残酷だ。
母は父のことを、心から愛していたというのに……。
その瞬間、私の中で大切な何かが壊れる音がした。
新しい世界、新しい家族。
ようやく手に入れたと思った安息の地は……偽りだったのだ。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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