カレー(仮)
92 カレー(仮)
ガンツは今日の夜は都合が悪いらしくて、フェルと僕はお店を出たらお風呂に入りに行った。
今日はマジックバッグを持っているので外出先でもいろいろできる。公衆浴場に備え付けの冷たい水を使って、果実水を作った。ガンツにもらったミキサーが大活躍だ。あっという間にブドウの果実水ができた。
氷魔法はまだ上達しない。水を操るところまではできて来たんだけどね。そこから先水を操りながら温度を下げて行くのが難しい。
僕は小さな水の玉を作ってそれをお皿の上で凍らせようと考えていた。
製氷皿みたいなものがあればいいのかな?
自分の魔法の才能が開花するという期待を抱くよりも、何か道具で足りない部分を解決した方がよっぽど前向きな気がした。
プラスチックは存在しないしな。木じゃダメだし、アルミ?
そんなことを考えていたらフェルが戻って来た。
「ガンツがケイの弁当を喜んで食べていたぞ。あのきんぴらと言っていた野菜炒めを大きな口でうれしそうに食べていた。ガンツはあれが好きらしいな。ケイもそれを見越して多めに入れてやったのだろう?」
「喜んでくれたみたいでよかったよ。ガンツがこないだきんぴらを美味しいって言ってくれたからね、いっぱい入れておいた」
「また作って欲しいと言っていたが、無理する必要はないとも言っていた。たまに作ったらその時は私が持って行ってやろう」
実際お弁当を作るのは2個も3個もほとんど手間は変わらない。作るのは大変ではないけど、毎日フェルがガンツのところに届けるのもね。ちょっと変かも。
「ところでフェルは明日は何をするの?」
「明日はあの新人パーティがいただろう。彼らとゴブリンを狩りに行く。東の草原まで馬車で行き、そこで狩るそうだ」
「じゃあ帰りは遅くなる?」
「いや、それほど遅くはないはずだ。だが朝はいつもより早めに出る。8時にギルド前で落ち合うことになっているのだ」
「そうか、明日は少し早く起きて準備しないとね」
家に帰ってお弁当の仕込みを少しやってその日は早くに休んだ。
次の日、いつものように市場まで走り、タマゴと牛乳を買って帰ってくる。
時間がないから手早く作ろう。弓の練習は店に行く前に時間があったらやろうかな。
お米が炊ける前にお弁当の具材を作ってしまう。ホランドさんからいただいたオーク肉を薄切りにして生姜焼きを作った。
お弁当箱に仕切りを作ってそこに小さめに切ったお肉を詰めて、残ったスペースにおかずを詰めていく。
タマゴ焼きは今日は和風の巻いたやつにした。野菜を綺麗に盛り付けて、デザートのリンゴも入れてあげる。
ちゃんと塩水につけて色がなるべく変わらないようにした。
今度小さめのお弁当箱を買おうかな。そしたらそこに果物とかを入れておける。
ちょっと容量が足りなくてリンゴはあまり入らなかった。
あまったリンゴは朝食に出した。
炊いたお米は全部おにぎりにしてしまう。フェルのお弁当にする分は味噌を少し混ぜて焼きおにぎりにした。
フェルにお弁当の入ったマジックバッグを渡し、ギルドに向かうフェルを見送る。
そのあと急いで後片付けをして店に急いだ。時間がないので弓の練習は今日は休み。
今日で仕事を始めて5日目、明日は日曜なので仕事は休みだ。炊き出し用の食材を昼休みに買いに行かないと。
お店の前を丁寧に掃除した後、仕込みの作業に入る。
レシピ帳をみながら、一番基本のようなスープを作る。ニワトリの骨と根菜を入れて煮込んだスープだ。コンソメみたいな風味になるのかな?
腸詰もふんだんに入れる。
ホランドさんには昨日材料を頼んでもらっていた。
タマネギはじっくり焦がさないように炒めて甘味が出たら鍋の中に入れる。
ニンジンは先に入れるけど、ジャガイモは少し後から入れる。その方が崩れなくて見た目がいい。
あとはひたすら丁寧にアクを掬うだけだ。合間にサラダの用意などをやっていく。
最後にマヨネーズを作って、保存瓶の中に入れて今日も仕込みが完成する。
奥さんが降りて来て、僕たちにお茶を入れてくれた。
来週は会計くらいは手伝うと言っていた。僕は配膳と仕込みに集中していいみたい。
今日も店を開けたらすぐに満席になる。
昼の営業が終わりそうになった頃ガンツが来てくれた。
「ケイ。昨日は弁当をありがとう。美味かったぞ。また機会があれば作ってくれ。何か話があると言うことじゃったの?どうした?」
「ガンツ、来てくれてありがとう。精米器って前に僕が作ってもらったやつ、あれをホランドさんが欲しいって言ってるんだ。いくらくらいする?」
「あーあれか。今、ゼランドのところに行っていたのもちょうどその話じゃった。もうすぐ店に並ぶのだが、需要がな。やはり皆に米の味を広めないと売れないだろうと今日も話をしたところじゃ」
「こういう定食屋にはいいと思うんだよね。それで、いくらで売り出すの?」
「銀貨3枚にするか銀貨2枚にするかまだ揉めておる。オヌシの知り合いなら銀貨2枚で良いぞ」
ゼランドさんもその値段で問題ないと言うことだったので買うことを決めた。
ピーラーと泡立て器もお願いした。泡立て器は魔道具にした物の試作品をくれるらしい。使い勝手をあとで教えてくれればいいそうだ。
「今日の夜取りに来るのじゃろ。用意しておくから仕事が終わったら来るといい」
そう言って定食を食べ終わったガンツは帰って行った。
夜の営業は冒険者の姿が多かった。けっこうお客さんが入って、パンがなくなり、そこで今日は早い時間に営業終了になった。
片付けをして夕飯を作っているとフェルが来て、いつものように店の掃除をする。
夕飯の賄いは僕が作った今日のスープの残りを少しアレンジして出した。
少しピリ辛にして、スパイスを入れる。薄いカレー風味という感じのスープになる。カレーライスまではかなり遠い。スパイスも足りないし、全部使えばけっこうな金額になるし。自分で採取したらいいのかもしれないけど、けっこう大変そう。
採算が合わないよね。
今日のスパイスはフェルが森で取ってきてくれた分を使って作った。
味は悪くはないけど、ほんとのカレーを知っているだけに、なんだかカレー(仮)みたいなものになってしまった。
「初めて食べる味だけど、なかなか美味しいじゃないか」
ホランドさんが褒めてくれる。
「フェルがいろいろ森で採取してくれたから作れましたけど、ちょっとこれは採算が合いませんね。お店で香辛料を全部そろえたら銀貨になっちゃう」
「街道の街まで行けば安く香辛料も手に入るらしいが、そうだね。これは店で出すと銅貨15枚、うーん20枚かな」
「そうですよね。まだ味も完成してないし、ちょっと今研究するのは難しいですね。でも一度挑戦してみたくって」
「ケイくんはこの香辛料が効いた料理を食べたことがあるのかい?」
「昔、母が生きていた時に一度だけ、母は薬師をしてたんです。薬の材料で少し辛いスープを作ってくれたことがありました」
「そうか、思い出の料理なんだね」
親切なホランドさんに嘘をつくのは心苦しかった。
カレーに挑戦するのはしばらくやめよう。もう少し自分でお金を稼げるようになったら、少しずつスパイスを集めて作ってみよう。
読んでいただきありがとうございました。




