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「よーウサギー。私が採ったキノコはもう食べたかー。いいやつばかり採って来たから美味しかっただろ」
店の外に出て看板を変えようとしたら急に話しかけられた。
「リンさん。フェルがお世話になったみたいでありがとう。こないだの依頼はフェルもすごく楽しかったって言ってたよ。あー、みんなも一緒なんだ。え?黒狼も全員来てるじゃん。ちょっと待っててね」
「ここで飯食った奴が自慢げにギルドで話してたからねー。アタシらは今日休みにしたからアンタのとこで昼飯を食おうって話になってさー。黒狼もおんなじみたいだよ。さっきそこの角であったんだー」
僕は他のお客さんにカウンターでもいいか確認して回る。
みんな大丈夫だと言ってくれて、赤い風と黒狼の牙のみんなをテーブル席に案内する。
「ごめん、ちょっと注文は待ってね。先に他のお客さんに聞いてからまた注文取りにくるから。今日のスープは僕が作ったんだよ。けっこう美味しくできたから、おすすめだよ。でもここに来たらまずは唐揚げだね。スープはみんなで分け合うなら取り皿用意するよ」
その会話が聞こえていたのか、常連さんたちはスープを注文する。2人連れのお客さんは唐揚げ定食2つと、スープセットを1つ頼んでくれた。
「アタシらは全員唐揚げ定食にするよ。ケイのスープは2人前頼む。4人で分けて食べるから小さめの器によそってくれ」
セシル姉さんが注文する。赤い札を4枚と、青い札を2枚テーブルに置く。
黒狼の人たちも同じものを注文した。
スープを小さな鍋に移して注文の順番に温めていく。大鍋でずっと煮込んでしまうとスープの味が変わってしまう。なのでミナミでは注文が入ったら小さい鍋で必要な分温めることにしていた。
スープが温まるまでの間に手早くサラダを作る。
「サラダは唐揚げと一緒にパンで挟んで食べると美味しいから、全部食べないで残しておいて」
そう姉さんたちと黒狼のメンバーに伝えておく。
スープを食べた常連さんがいつもより美味しいと言ってくれた。
「マスターのレシピで作ってますから、基本の味は変わらないはずですよ。でも今日はオークの肉をゴロゴロって固まりで入れているからいつもより食べ応えがあると思います」
そう言うとまだ注文していない別の常連さんにそれは楽しみだと笑顔で返される。
「ウサギーまだー?」
リンさんが僕に催促する。
そんなに時間をおかずに、赤い風と黒狼の人たちの分が出来上がる。
急いでテーブルに持って行った。
「美味えじゃねえか。このまま食っても美味いが、マヨネーズだよなこれ。これをつけるとさらに美味しくなるな。なかなかマヨネーズ出す店は限られてるんだぜ。ケイ、いい店じゃねえか」
オイゲンさんが褒めてくれる。そう。この店の唐揚げは美味しいのだ。
「ありがとー。急がなくていいからゆっくり食べてね」
「ウサギ!このスープ美味しいよ」
「ケイくん、とっても美味しいわ」
みんなが絶賛してくれる。
「でしょう。僕もこの店で働けて幸運だったって思うんだ。来てくれて嬉しいよ。ゆっくりして行って」
そうは言ったが、表にどんどん人が並んでいくので、赤い風と黒狼の牙の人たちは食べたら早々に店を出て行った。
「ケイくんあのお客さんたちとは仲がいいの?ずいぶん親しそうに話してたけど」
そうホランドさんに聞かれて、前に依頼で一緒だった人たちだと教えた。
「宣伝してくれて助かるよ。今日も多いね。休憩まで頑張ろう」
「はい!表にもけっこう並んでますからね。今日も頑張らないと」
僕が作ったスープは夜の営業が始まってすぐ売り切れてしまった。
昼間はかなり混んでいたけど、夜はお客さんの流れも落ち着いていて、そこまで慌ただしいことにはならなかった。
おかげで夜の賄いは少し凝ったものを作れた。
「鶏肉のトマト煮です。パンの方がいい人がいたら言ってください。用意しますので」
フェルがいっぱい香草を摘んできてくれたので、それを贅沢に使って鶏肉を煮込んでみた。自分でもいい感じにできたと思う。
「これってけっこういろいろ入れてない?手が込んでるって言うか、複雑な味で美味しいわ」
マリナさんが一口食べて感想を言う。
「フェルがこの前いっぱい森で香草を摘んできてくれたんです。今日はそれを使いました」
フェルは夢中でトマト煮を食べている。
「ケイくん。あなた料理の仕事続けた方がいいわ。絶対才能あるから」
「僕たちひと月くらい前に王都に来たんです。それまで田舎に住んでいたから、王都には全然知り合いがいなくて。どこかいいお店があればいいんですけど、伝手も何もないからどうしたらいいかわからなくって。今回の依頼もギルドの係の人にお願いして紹介してもらったんですよ」
「商業ギルドに行けば、求人とかあると思うけど、そうよね。ひと月前に王都に来たばかりならいろいろわからないことだらけよね。あなた誰か知り合いで従業員を募集してるところないの?」
「私も昼にケイくんの話を聞いてね。誰か知り合いに聞いてみようと思っているところなんだよ。ケイくんならどこでもやっていけると思うんだ。うちで雇えないのが残念で仕方ないんだが」
「うちももう少し広いとお客さんをもっと入れて人を雇ってやっていけるんだけど、最初に私たち2人でもやっていけるくらいの規模で物件を選んじゃったのよね。もう1人雇う余裕はうちにはないのよ。ごめんなさいね」
「いえ、ここの仕事はとても勉強になります。今までうちのじいちゃんの店でしか働いたことがなかったから。こんなにたくさんのお客さんを相手にするなんて、村では考えられなかったです。村人全部集めても50人くらいでしたから」
「それはすごい田舎だったんだね。故郷は遠いのかい?」
「王都より隣国の首都の方が近いんじゃないかって思えるほど本当に王国の端っこにある村です。村の名前もないと思ってました。王都に来た時に役人に聞いて始めて村の名前がわかったくらいなんですよ」
そう言うとゼランドさんとマリナさんが笑った。
フェルのために少し残しておいたトマト煮をおかわりで出してあげる。とたんにフェルの顔が輝き出す。
「まだ王都に来たばかりですから、あまり焦っているわけじゃないんです、まあそのうちに安定した仕事が見つかればいいなって思ってますが。でもフェルはこう見えてすごく強いんですよ。フェルがいてくれれば僕でも冒険者としてもなんとかやっていけると思うので、しばらくは冒険者として狩りをしたり、何か街中で仕事があれば受けてみたりってそんな感じになりそうです」
マリナさんは少し考え込む表情をしてからゼランドさんをに話しかける。
「あなた。いつも休みの日に手伝いに行ってるお店があったじゃない。私が怪我してから行っていないみたいだけど。あそこの店なら人を募集してるんじゃない?ずいぶん人気の店だって言ってたじゃない。ケイくんにどうかしら?」
「ああ、クライブのところか。確かにいいかもしれないな。ただ、あのクライブの下でやっていけるかな。せっかく雇ってもすぐ辞めていくって店のやつが言っていたぞ。みんなクライブが怖いって言って。そんな店にケイくんを紹介していいものか……」
クライブさんと言う人はよく知らないけど、紹介してもらえるなら正直助かる。
「どんな店でも紹介していただけたら僕も助かります。正直に言うとこの仕事が終わったら、その後街で働くことができる依頼があるかどうかもわかりませんし。できればこの店みたいに美味しい料理を出していて、勉強になるような店がいいんですけど、そんなに食べ歩くお金もないから王都のお店はよく知らないんです」
「うん……クライブのところはしっかりしてるしな。味も悪くないし。ちょっと聞いてみるよ。たまに私が応援で手伝いに行く店があるんだ。店主とは昔馴染みでね。その店主の顔がちょっと怖いが、悪いやつではないから、うまく馴染めたらケイくんにとっていい修行先になると思うよ」
「ぜひお願いします!でも無理にというのはやめてくださいね。2人に迷惑をかけるつもりは全くないので……」
ホランドさんとマリナさんは本気で僕の次の仕事先を探してくれるみたいだ。
後片付けを済ませて、2人に見送られて店を出た。
読んでいただきありがとうございました。




