干渉する
76 干渉する
夕食の時、ローザさんに魔法をどうやって覚えたか聞いてみた。
最初は治癒魔法が発動したのだそうだ。転んで膝を擦りむいたセシル姉さんの怪我を治したのが最初だったらしい。
必死で「怪我が治りますように」と女神様にお願いしていたら傷がどんどん塞がって、何事もなかったかのように傷が消えたんだそうだ。
まだ幼かったので特に気にすることも無くそういうものだと受け入れて、たまに怪我をする子がいたらその怪我を治してあげていたけど、ある時教会の人にそれが知られてしまった。そこからは急に待遇が変わって、個室を与えられて毎日聖魔法の修行をさせられたのだそうだ。
魔力循環も毎日やるように言われて、やってないと鞭で叩かれたそうだ。
そうして魔力循環を続けていくうちに、発火の魔法や、水を出したり、風を起こしたりできるようになった。
ある程度成長して、教会の図書室に入れる許しがもらえると、魔法について書かれた本を読み漁ったそうだ。
その頃にはもう孤児院から逃げ出すことを考えていて、ときどき与えられるお菓子などをこっそりセシル姉さん達と分け合いながら計画を立てていたんだそうだ。
リックさんやリンさんはその頃、たまに慰問に来る騎士団の人に戦い方を教えてもらっていた。
リックさんは特に熱心に騎士の戦い方を教わっていて、リンさんは騎士の1人がくれた弓を毎日練習したらしい。
セシル姉さんはとにかく模擬戦ばかりしていたみたいだ。
そしてローザさんは聖魔法を上級まで使えるようになり、他の魔法はこっそりと練習したおかげで、ある程度のことができるようになったのだそうだ。そうやって自主練を繰り返すうちに魔法に詠唱が必要なのか疑問に思い、色々と試したりしているうちに、魔法とは魔力を使って何らかの事象をひき起こすものだと気がついたらしい。
そしてセシル姉さん達に魔力循環を教えて、寝る時以外はひたすらそれをやらせたそうだ。結果、セシル姉さん達は身体強化の魔法を使えるようになり、冒険者になるための基礎を着実に固めていったのだそうだ。
詠唱とは言ってしまえば命令文のようなもので、ここにこういう現象を起こしなさいと自分の魔力に指示を出すだけのものらしい。
誰でも使えるように詠唱文を作り汎用化したものが魔法で、その命令文を使いこなせるのが魔法使いなんだそうだ。
「それをお金で買わないと魔法が使えないって言うんだからね。ぼったくりもいいところよ」
ローザさんが恨みを込めて言う。新人の頃、魔法の指導をお願いしようとした時にえらく法外な値段の支払いを要求されたらしい。
ローザさんはあまり詠唱しない。イメージがしっかりとできていれば、心の中で自分の魔力に指示を出すだけで魔法は発動するのだそうだ。
実際覚えた聖魔法の詠唱と、心で念じたものの効果には違いがほとんどなかったらしい。浄化の魔法は詠唱したほうが楽なんだそうだが、回復魔法は無詠唱の方が楽とのこと。
その後、お金に余裕ができて、魔法書なども手に入れられるようになったが、複雑な詠唱にあまり魅力を感じなかったので今のようなやり方で魔法を使っているそうだ。
「ケイくんみたいな魔法の使い方でいいと思うのよ。そのためには自分の魔力をしっかり操れるようになればいいの。そうしたら魔力はあなたの命令を聞いてさまざまな事象を引き起こしてくれるわ。大事なのは想像すること。そしてその想像する形はよりはっきりとしていた方がいいわ」
大量に人を殺す兵器も僕の記憶の中になん
となくあるけど、詳しい仕組みとかは知らない。だけど水がどうして凍るのかは知っている。温度が下がれば当然水は凍る。
だけど冷たい水を出そうとすると、これがうまくいかない。
少しだけ冷たい水がちょろちょろと出るだけだ。とても凍るような温度にはならない。
コップに入った水を見ながら考える。
もしかして、水を出すと言う命令と、水の温度を下げると言う、二つの命令を同時に出しているからいけないんじゃないだろうか。ただでさえ出力の弱い僕の魔法は二つ同時に命令を与えると中途半端なものになるのかも。
ドライヤーの魔法は簡単な仕組みになっていると思う。
空気を温めて、それを動かして風を起こす。
すでに存在しているものに魔力で干渉することは比較的簡単なのかもしれない。
きっと何もないところから水を作っているわけではないんだ。たぶん空気中の水分を集めて水にしている。だからそんなに勢いよく水は出ないし、そういう水だからミネラルを含んでいなくて、飲んでも美味しくない。
そうやって頑張って集めた水を冷やそうとするから、出力が足りなくてちょろちょろと少し冷たい水が出るだけになる。
水はあらかじめ用意しておけばいい。その水に対して魔力で直接干渉すればいいんだと思う。空気の温度を変えるように。
水の入ったコップを手で包み温度を下げるイメージを注ぎ込む。
コップの中の水はどんどん冷たくなっていく。実際触ってみるとけっこう冷たい。
この調子で温度を下げていく。
ところが途中で魔力が急に入りにくくなってしまう。水を触るとかなり冷たい。もう凍るくらいまで冷えてんじゃないの?なんで?
前世の子供の頃に見たかすかな記憶。
テレビでやっていた化学実験のショーで、水を叩くと瞬間的に凍った実験を思い出す。白衣を着て、笑顔が素敵なメガネのおじさんが、手品みたいにいろんな科学の実験を見せてくれてたっけ。
なに次郎先生だったか。
試しにコップを持ち上げ、コツンとテーブルに当ててみる。ピキピキっと微かな音を立ててコップの水が凍った!できた!
「ケイ?さっきから何をしているんだ?そのコップ割れているではないか」
「フェル!氷魔法ができたんだよ。見てよ、この氷僕が作ったんだ!」
「確かに氷だ、これをケイが作ったのか?」
「水の温度を下げてコップの中の水を凍らせたんだ。これで冷たいお菓子とか作れるようになるよ!フェルの好きな果実水も冷やしたい放題だよ!」
興奮してフェルの手を取って僕が騒ぐ。その様子に気づいてみんなが僕をみるけれど、またいつものイチャイチャかと、何人かは舌打ちし、また別の人は生暖かい目で僕たちを見る。
その視線に気づいてちょっと恥ずかしくなった。
「果実水も好きな時に冷やせるようになるのか?冷たいものがいつでも食べられるようになる?すごいぞ。ケイ。あのプリンもわざわざ氷を買いに行かなくても作れると言うことだな」
「そうなんだよ!帰ったらさっそく作るね。ライツにもそれを持って差し入れに行こう」
「それは楽しみだな。あのプリンと言うのはとても美味しかった。材料が高価だと言うから、なかなかもう一度食べたいと言えずにいたのだ」
「高いのは材料だけじゃなくて、氷が高かったんだよ。これからはもっと楽に料理ができるよ。楽しみにしてて」
氷魔法はまだ改善の余地が多く残されているものの、大きな前進だった。
保冷庫を買えば済む話だけど、テントで生活している僕たちには大型の高価な魔道具なんて買えないから。
明日の朝ごはんの支度をして、なんだか充実した気分でその日は眠った。
読んでいただきありがとうございました。




