指揮
75 指揮
今日の狩り場に向かう馬車に揺られながら、氷魔法のことを考えていた。
温風の魔法は空気に働きかけて温度を上げてそれを動かすことで暖かい風が生じる。
ローザさんはそれを、魔力を使って事象を起こすと言っていた。
そういえばローザさんってほとんど独学で魔法を覚えたって言ってたな。
魔力を使って何かの物体に働きかけたり、水などを生み出したり。うーん。なんかもう少しで何かわかる気がするんだけどな……。
魔法ってなんなんだろう。
馬車が止まって今日の狩り場についた。
今日は森のそばでホーンラビットを狩る。柵は森の近くにだいぶ長めに作られていた。緩めにWの線を描いて、ホーンラビットの出口は2つ作られている。
それだけ森から来るホーンラビットが多いということかな?
お味噌汁を温めて、焚き火のそばにおにぎりを置いておく。
今日は寒いから少しでも暖かい方がみんな喜ぶだろう。
「ケイ、どうだ?上手くやってるか?」
声をかけてきたのはライツだった。
ライツは昨日この村に泊まったらしい。
ちょっと村の家の補修を頼まれたんだそうだ。もう少ししたら次の場所に出発するらしい。出発前に様子を見にきたんだとライツは言う。
「ライツ!手直ししてくれた弓、凄くいいよ。おかげで訓練もやりやすくてとても助かってるんだ。ありがとう!でもお金とか払ってないけどよかったの?弦とか、材料費くらいは払うよ?」
「そんなもん工房に転がってたあまったもので簡単に手直ししただけだ、そんなので金なんてとれん。弦だけは少しいいものを使ったがな。なかなか良くなったと思うぜ。使いやすくなっただろ」
「かなり使いやすくなってるよ。本当にいいの?じゃあ今度何か作って差し入れするよ」
「それも余裕がある時でいいぞ。差し当たってはお前さんの作った朝飯をもらおうかな。そこにあるのおにぎりだろ?そんなもの作るのはオマエくらいしかいねーからな」
「少し多めに握ったから食べていってよ。3個くらいならたぶん平気だよ」
「そりゃありがたいな。じゃあ味噌汁もくれ」
ライツに椅子と簡易のテーブルを出してあげて、椅子に座ってライツは美味しそうにおにぎりを食べ始めた。
「最初は森を塞ぐように柵を作ってほしいと言われたんだがな、そこまでは材料が足りなくてできなかった。その代わり余った端材で村の家を少し直してやって、昨日は村に泊まったんだ。あまり大きくない村だが、住んでる奴らはみないい奴らだったぜ」
「そうなんだ。でも森を囲んじゃうような柵とか作っちゃっていいのかな?ある程度、動物とか移動できるようにしておかないとなんか良くないって聞いたことがあるけど」
「ギルドの奴も同じようなことを言ってたな。まぁ、いずれ調査隊が来ていろいろ実験したりするんだろ。どのみち俺たちには関わりねえことだ」
「そうだね。そういうのはもっと頭のいい人が考えればいいことだよね」
「お、ギルドの奴らの打ち合わせが終わったみてーだな。じゃあ俺たちは出発するぜ。ご馳走さん。朝飯うまかったぜ」
ライツはそう言って馬車に乗って次の狩り場の設営に向かった。
みんなで輪になって朝ごはんを食べながら打ち合わせをする。今日はこの森の周辺で狩りをするそうだ。連携はいろいろ試してみるそうでその都度指示するとのことだった。
おにぎりはみんなが不思議そうに見ていたけれど、食べ始めるとみんな美味しいと褒めてくれた。フェルも嬉しそうだ。
「安いし、いいなこれ。こんなのが朝売ってたらきっとみんな買うぜ」
ブルーノさんがそう言うとみんなが頷いていた。
黒狼のブルーノさんはおにぎり3個では足りなそうな顔をしていたので余ってるおにぎりを勧めた。
「朝飯が簡単に食えるといいんだよな。ギルドの食堂は混むし、こうやって外で気軽に食えるものが売っていればいいのにな」
新人パーティのエルビンさんがおにぎりを眺めながら言う。エルビンさんもおにぎりをお代わりした。
食べたら早速狩りを始める。
前線で狩りをする班、死体を拾ってサポートする班、集まった死体を解体している場所まで運ぶ班、それぞれ2人1組になってローテーションで動くことにする。
「今日はアタシも混ざるよ」
今回はセシル姉さんも参加するみたいだ。ローテーションが1周したら少し休憩を挟んでまた相手を組み替えてもう1周する。けっこうな数がいるらしいから各自迅速に動くようにとセシル姉さんが言っていた。
最初の組み合わせは僕とセシル姉さん、リンさんとフェル、リックさんはローザさんと組む。
魔法使いと盾の組み合わせは一度しっかり見ておいた方がいいよと姉さんが言った。
黒狼の牙のところも班分け出来たようだ。オイゲンさんだけ余るので、森の警戒を担当するみたい。万が一強敵が現れたら全員に通達して、対応するということらしい。
「今回はゴブリンやウルフとかも出てくるかもしれない。各自気を抜かずしっかり対応すること」
姉さんの号令で狩りが始まる。
確かに数が多い。最初はフェルとリンさんが前線担当。僕とセシル姉さんは死体の回収だ。
どんどんフェルはホーンラビットを狩っていく。リンさんもすごいスピードで矢を放つ。早すぎて矢の回収が追いつかないのでローザさんも途中から手伝ってくれた。
「フェルー!前に出過ぎー。それだと狭い範囲しか撃てなくなるからー!もっと下がってホーンラビットを引きつけて!」
リンさんがフェルに向かって言う。
フェルは柵から少し距離をとって構える。
「1人で全部やろうとしなくって良いんだってばー。2人でやった方が早く終わるでしょー」
リンさんはあいかわらずマイペースだ。
フェルが下がるとどんどんホーンラビットが倒されていく。
朝一が一番狩れるもんな。サポートする側は大忙しだ。
「ウサギー。矢が足りなさそう。あんたのも出してー」
「リン!いくらなんでも早すぎる!アンタは楽しいかもしれないけど、そんなんじゃ矢がいくらあっても足りないよ!矢は回収してやるからしばらく接近戦に切り替えな!」
セシル姉さんがそう言うと、リンさんは短剣に切り替えてフェルの後ろに付く。
そしてフェルに何か話しかけていた。
少し言葉を交わしただけでフェルとは打ち合わせできたようで、2人の連携は問題なくどんどんホーンラビットの死体の山ができる。
「交代だ!フェル、いったんフタを閉めな。ケイ、次はアタシらだ。アタシが指で指示を出すからその通りに矢を放ちな。簡単な合図だから見落とさない限りわかるはずさ、いいかい?始めるよ」
ありったけの矢をマジックバッグから出して用意する。ちょっと痛んでいる矢もあるな。今日終わったら確認しよう。
セシル姉さんがホーンラビットの集団に飛び込む。3回ほど打ち込むと姉さんは右に回り込んだ。姉さんが動いた後にはホーンラビットが固まっていた。すかさず姉さんがその塊を指差す。
そこに向かって撃てってことか。
塊になっているホーンラビットは狙いやすい。精度はともかくとにかく数を撃ち込む。
また姉さんがホーンラビットに向かって突っ込んでいくが、今度は右手側。指差してその後指を2本立てた。
反射的にそちらに狙いをつけるとホーンラビットが2匹様子を伺っている。速射で2匹確実に仕留める。
「いいじゃないか!ケイ、じゃあもっと調子を上げてくよ!」
セシル姉さんは双剣を使っている。
セシル姉さんは一度エサを広範囲に撒いて、ホーンラビットが多数出てきたところを両手に構えた短剣で蹂躙していく。
「素材を優先するからね、少し甘くなるかもしれない、とどめを刺しきれてないやつは悪いけど頼むよ!」
ここが稼ぎ時だと思っているのか、セシル姉さんはできるだけ綺麗に毛皮を残そうとしている。
狙いやすいところにホーンラビットを弾いてくれたりするので、その体勢の崩れた奴をひたすら狙う。
かなりついてくのがやっとだけど、なんだかやりやすい。
これがパーティを指揮するってことなのかな。セシル姉さんの指示通りに動けば、難なくホーンラビットは狩られていく。
フェルと2人で狩りをする分には特に細かい指示はない。何があっても会話できる距離にいるから、下がる、交代するとかは声に出せばよかった。
複数のパーティともなればいろいろ指示も細かくなるだろう。
唐突に姉さんが叫んだ。
「リック!ゴブリンが来る。気配で……3つか?ゴブリンが出たとこでアンタに変わるよ。ローザ!」
いつの間にかローザさんが僕の場所に来ていた。
「位置に着いたわ!初手はどうするの?」
「弱体化でいく。リック、あまり時間をかけるな。ケイ!そこから狙えたら撃て、いくぜ、ゴブリンなんか瞬殺だ!」
そう言ってセシル姉さんがホーンラビットの集団に突っ込む。弾き飛ばすように切り付けてその集団を消滅させる。真ん中にちょうど良いスペースができた。
そしてリックさんがその後ろで盾を構えた。
「ローザ!」
そう言うと同時にセシルさんが横に飛ぶ。リックさんも反対側に少し体を動かした。柵の間からゴブリンが3体出てきた。
出てきたそばからゴブリン達はローザさんの魔法に捕まる。
「左1、撃ちます!」
そう声をかけるとリックさんが右側のゴブリンを切り付ける。
リックさんから撃ちたいところがあるなら声をかけてくれと、昨日言われていた。
それに合わせて動くからと、リックさんは言う。盾役は前線の状況をある程度コントロールしながら戦うんだそうだ。いつもはセシルさんに合わせてやるから、セシルさんがやりやすい状況になるよう調節しているらしい。でもその時リンさんも勝手に撃ち始めるから毎回大変なんだそうだ。
「あいつ声とか全然かけないからね。狙いも読めないし、あいつなりに考えてやってるのはわかるんだが、いつも合わせるのが大変なんだ」
苦笑いしながらリックさんは話していた。
僕の矢は動きの悪くなったゴブリンの額を打ち抜き、リックさんはあっという間にゴブリン2体を処理してしまった。
「いったん仕切り直しだね。リック、フタを閉めな!フェルとリンはゴブリンを後ろに捨ててきな。血の匂いが広がるとまずい」
セシル姉さんは横に飛んだあとあたりのホーンラビットを残らず狩りつくした。
ローザさんは柵の辺りに浄化の魔法をかけた。血生臭い匂いが落ち着く。
もう1つの狩り場にもかけてくるみたいだ。
手が空いたので死体を集める。フェルがその死体を走って解体場まで運びに行った。
エサを補充して森の中にも細かくしたクズ野菜を撒き散らす。
ローザさんが新人パーティの魔法使い、エイミーさんを連れてきた。代わりにリンさんが向こう側に移動する。
「エイミーこれからローザが魔法を撃つからその側で見ておきな、リック、ローザ、悪いけどわかりやすいのを何個か見せてやってくれ」
そしてセシル姉さんが僕の近くに来る。
「死体を運ぶのはいったん置いておいて、ケイも良く見ておくんだ。それで参加できそうだったらやってみな」
死体を集めるのはセシル姉さんとフェルがやってくれて、遠距離組はローザさんのところから戦場を観察する。
多数の敵を引き付けて一気に魔法で殲滅するやり方、僕の弓のように個別に獲物を狙って盾役の負担を軽くさせるやり方。
他にはリックさんに支援魔法をかけつつ、周囲のホーンラビットを弱体化させるやり方などさまざまな戦闘のやり方を見せてくれた。
「ケイ、リックの動き方を良くみるんだ。今ローザはリックの動きを見て魔法を選んでる。なんの魔法を撃つかとか、どんな魔法が欲しいかとか、うちは細かくは言わない、パーティによっては言うところもあるけどね、うちはそういっためんどくさいことはやらないんだ。ただ大きな魔法を撃つときだけは声をかけるようにしてる」
セシル姉さんが説明してくれた。そうか、リックさんがこの場合戦場をコントロールしてるのか。
あ、なんかわかったかも。リックさんの支援を弓でやっているのとローザさんの援護は基本は変わらないんだ。この中に参加するにはローザさんと僕がどう呼吸を合わせるかってだけの話になってくる。
「ケイくん右お願い!」
僕は瞬時に右のホーンラビットを処理する。リックさんがホーンラビットを引き付け始めた。
「あんまり大きな魔法を使うと素材がダメになっちゃうのよね」
僕が入ったことでローザさんが詠唱する時間が生まれた。
リックさんが距離をとった瞬間ローザさんが、「撃つわ!」と叫んで魔法が炸裂する。氷魔法だ。ホーンラビットが氷柱に貫かれる。
確かにあれは料理に使えない。
その魔法から逃れた個体を矢で処理していく。
「フェル、この中に入ってみな。他の場所が落ち着いてリックを助けにきたって感じだ。アンタのタイミングで良いよ」
そこにフェルが参加して狩りのスピードがさらに上がる。その間にもセシル姉さんは辺りにエサを撒くことを忘れない。
4人パーティで森から迫る魔物の集団に全力で対処しているみたいな形になった。
基本はリックさんの動き方で状況が変わっていくけれど、ローザさんが細かい指示を出すことが多くなった。
「あたしが指示を出さないとセシルがどんどん突っ込んでいっちゃうからね、いつもこんな感じになることが多いわ」
ローザさんは笑顔で言う。
ホーンラビットがだんだん少なくなってきた頃、森からオイゲンさんが不意に出てきた。
一瞬、オークかと思った。
「暴風!やりすぎだ!あっちに全くホーンラビットが全然行かなくなってるじゃねーか!いったんやめろ。森の奥からかき集めてくるからお前らは一度休憩だ」
オイゲンさんに怒られてしまった。
魔力循環をしながら見学していたエイミーさんは僕たちにお礼を言って向こうの狩り場に戻って行った。
「仕方ないね。ケイ!お茶でも入れてくんな!」
セシル姉さんが言う。
「いや。たまには私が淹れよう」
フェルがみんなに紅茶を振る舞ってくれた。その間にローザさんがあたりに一通り浄化魔法をかける。
僕は森の際あたりでちょっと採取をする。良い感じで香草が生えていた。森はだいぶ人の手が入っていない感じがする。奥まで行けばけっこう良いものが採れそうだ。今回は無理そうだけど。
あのゴブリンの大きな集落ができた一件で森の際にはホーンラビットが集団で集まるようになってしまっていたらしい。
「反対側はアンタ達が根こそぎ狩ったからね、こっちは誰も狩らないからこんなに増えちまったのさ」
セシル姉さんが笑って言った。
そのあとさっきの戦闘の反省点を出し合って、充分休憩したら、もう一つの狩り場の方に行く。
こっちもちょうど休憩中だった。
「セシル……お前いつも狩り場をこうやって荒らしてっから、暴風って名前がつくんだぜ。けっこう俺のところに苦情を言いにくる奴いるんだからな」
「そんなもの早いもん勝ちじゃないか、モタモタしてるのが悪いんだよ」
「だからさぁーお前、そういうとこだぞ。罰として、こっからお前が指揮を取れ。あっちの狩り場はもう問題ないだろ。新人パーティとケイとフェルで即席合同演習だ。いいか?このあと指揮はこの暴風のセシル様が取られる。皆心して励むように」
「その名前で呼ぶなっていつも言ってんだろ!じゃあオイゲン達は追い立て役な。森の奥から魔物よけの煙を焚いてこい。他はホーンラビットの死体を集める側に回ってもらうぜ」
そう言ってセシル姉さんは少し迷った表情をする。
「盾役がいないね。ブルーノを入れてもいいが、それじゃちょっと戦力が過剰すぎる。フェル、ちょっとアンタ盾役やってごらん。基本はフェルがホーンラビットの注意を引く。攻撃はエルビンとベリンダ、エイミーは前線にとにかく支援魔法だ。ケイ、一応だが、怪我した者がいたらポーションを渡しな。今度は同じ場所だけじゃなく狙いやすい位置を自分なりに考えながら自由に動いてやってみな。アンタは今回遊軍だ」
前衛が3人になると狙う位置も毎回変わる。たしかに今までみたいに同じ位置から狙うのは難しいかも。
「フェル、1人で倒そうとするんじゃないよ、今回は敵を引きつけることに集中するんだ、アンタほっとくとアタシみたいにどんどん突っ込んで切り捨てていくからね、今回はあまり前に出ないこと、かと言って後ろに下がってもダメだ。ちょうどいい距離で前線を維持することを心がけな」
フェルがセシル姉さんの指示に頷く。
「じゃあ黒狼の牙の皆様はさっそく森に入っていただこうか。しっかり獲物を追い立ててくるんだよ」
黒狼の牙が森に入って10分ほど。姉さんが辺りにエサをばら撒いて狩りの準備をする。
「フェル、そこだとまだ近い。もう少し下がりな。そうだ。その距離を覚えておきな。エイミー、来るよ。魔法準備。ケイは最初のフェルの負担を軽くしてあげな。さあ行くよ」
セシル姉さんは森の中の状況が手に取るようにわかっているみたいだった。
たぶん前にゴブリンの大群を相手にしていた時もこんな感じだったんじゃないだろうか。
あの時僕はお肉を美味しく焼いていただけだったのだが。
セシル姉さんが行くよと言ってすぐホーンラビットが現れる。
エイミーさんの支援魔法が前線の3人にかけられる。
現れたホーンラビットをフェルが盾で受ける。弾かれたホーンラビットを狙って矢を放つ。
エルビンさんもそのホーンラビットを狙っていたみたいで、こちらをチラッと見てきた。
ダメだった?狙いが被っちゃったよ。
「ケイ!今のはそれでいい。エルビン、後ろに控えてる射手はこう言う奴だ。今、ケイが自己紹介したと思え。そう感じてアンタがそれに合わせないと。それを見てケイもアンタに合わせて行くんだ。とにかくいろんな奴がいるからね。即興で合わせるやり方ってのを体で覚えな。いいかい。仲間の攻撃の意図を察するんだ」
「フェルー!盾だけじゃなく剣の根元の方も使うんだ。そうすれば両手で対応できる。あと仁王立ちにならないように気をつけるんだ、盾の方を前に出して少しナナメに受けろ」
珍しくリックさんから指示が出る。リックさんも盾役に急遽任命されたフェルを心配してるみたいだ。
何度かホーンラビットの攻撃を受けると、フェルもコツを掴んだらしい。
僕はエルビンさんが射線に入らない位置から淡々と矢を放つ。
「ケイ!撃ちやすいところばかりにいるんじゃない!ベリンダが苦しそうじゃないか。もっと広い視野で戦場を見るんだ。ケイは場所を変えてベリンダの支援。フェル、一歩左にズレな。エルビン前に出ろ」
ベリンダさんをカバーしたような形にフェルがなると、それを埋めるようにエルビンさんが前に出る。
射線が取れそうな位置に入って今度はベリンダさんの支援をする。
「エイミー!新手の集団に弱体化だ!ケイ、そいつらをフェルの方に行かせるな」
前線が崩れる前に新手を処理する。
死体はリンさんが素早く回収した。
早いな。
「ベリンダ!少し下がって呼吸を整えろ。エルビン、男を見せてみな。前に出て殲滅しろ!」
エルビンさんが前に出て、その間にベリンダさんが下がって水を一口飲んだ。
「ケイ!散らばった奴らをやっちまいな。エイミーは支援魔法を切らさないように」
いつの間にか黒狼の牙が戻ってきている。いつでも助けに入れるような位置に待機してるけど、僕たちの戦闘を離れたところから見物しているようだ。それもそのはず、前線は驚くほど安定している。
その後もセシル姉さんの指揮でみんなが動き、そこから30分ほどで魔物の襲撃は収束した。
「たぶん今頃解体場は大騒ぎになってるだろうね。ケイ、ちょっと悪いんだが向こうを手伝ってきてくれないか?こっちは後片付けをしてるからさ」
解体場に行ってみるとホーンラビットの死体の山ができてる。まだ10時過ぎだったけど、もう狩りは終わってしまった。
統率が取れた闘い方ができると、ここまで効率的に獲物を討伐できるんだなと、今更ながらセシル姉さんの指揮力の高さを思い知る。
あまりにどんどん運ばれてくるホーンラビットに2人の職員だけでは対応しきれていなかった。
ガンツからもらった解体用のナイフを持って、解体を手伝い始める。手伝って1時間後、ようやくホーンラビットの解体が終わった。
助かったよと解体係の人からお礼を言われて、僕はみんなのところに戻った。
戻るとなぜかみんなが暗い表情になっていたので、どうしたのか聞いてみたら今日はリンさんが食事を作ると言い出したらしい。
「あの子の料理って昔から変わってるのよね。美味しい時もあるけれど、だいたい少し変わった味っていうか……不味いのよ」
ローザさんが教えてくれた。
手伝いますと言ってリンさんの料理をこっそりとフォローする。最後の味付けは僕がやることにして、なんとか最悪の結果は避けられた。
「あたしもやればできるじゃん」
そう言ってリンさんは上機嫌で出来上がった料理を食べた。
赤い風のみんなは少し微妙な顔をしながら食べている。
昼ごはんを食べたら出発する。
明るいうちに次の村に着きたいからだ。
時間に余裕があるせいか、気持ちゆったりとした速度で馬車は走る。
3時間ほどで、目的地の村に着いた。
柵を作っているライツと村の人たちの作業を少し見学して、僕たちは村の一角で野営の準備を始めた。
今日も夕飯を作るのをお願いされた。
ホーンラビットの肉がいっぱいあるから、それを使って串焼きを作ることにした。串はみんな作るのを手伝ってくれて充分な数が揃えられた。
継ぎ足し継ぎ足し使っていた照り焼きのタレを使い、ホーンラビットの肉を焼いていく。バーベキューのコンロみたいなものがあればいいな。いつかガンツに作ってもらおう。
焚き火をうまく使って肉を次々と焼いていく。木を濡らして炭を囲い、即席の焼き台を作ったけど、けっこううまくできている。ときどき水をかけないと燃えちゃうけど。
ご飯とスープは適当に各自取ってもらい、焼けたそばから大皿に盛りみんなのところに運んでいく。僕はときどきつまみ食いをしながらどんどん肉を焼く。
味付けはタレだけではなく、塩と香草で味付けしたものも作った。
フェルがおにぎりを握って持ってきてくれた。フェルの手作りが嬉しくてちょっとテンションが上がる。
夕方仕事の終わったライツ達も一緒に夕飯を食べていた。これから夜中まで馬車で移動して次の街に行くらしい。夕飯をどうするか困っていたから先発隊のみんなにはとても感謝された。
僕たちも明日狩りが終わったら移動して宿でゆっくり休むらしい。そこから王都までは半日くらいで着けるそうだ。
明日はパーティごとに交代で前線を受け持ち、終わり次第移動する。昼食は村の人が作ってくれるそうだ。夕方には街に着きたいので早めに終わらそうと、セシル姉さんが言っていた。確かに。早くお風呂に入りたい。
素振りを始めるフェルのそばで、僕は氷魔法の練習をする。
読んでいただきありがとうございました。




