第一話「再誕少女」/ いつか届けば
いつぞやぶりに情熱が再燃して書き始めました。
リハビリも兼ねてなのでそのうち色々と再編集もするかと思いますが、お付き合いいただければと思います。
また舞台設定の都合上、ジャンルをハイファンタジーにしておりますが、私自身もっとしっくりくるものを探しております。指摘等があればこっそり変更するかもしれません。
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一筆申し上げます。
夏の盛りも近づき、雲を高く見上げる日も増えてまいりました。先生に於かれましてはご健勝のことと存じます。
さて、堅苦しいのは抜きにいたしましょう。
経過のご報告をいたします。
最近、天候のあまり良くない日が続いておりましたが、体調を崩すことなく至って健康に過ごせております。夏が近いからでしょうか。
最後の発作も春の半ばに軽いものがあったくらいです。以前の頻度と比べて少ないよう感じます。家族の中でも笑顔が増えました。これも先生のおかげでしょう。改めてお礼申し上げます。
飲んだ分だけ健康に近づいていることもあり、最初は抵抗のあった薬の味も今では問題なく飲めております。
味の説明もしていただきましたし、先生はこの味を試されているのでしょうね。
今度ピクニックにいく予定でおります。短い夏ではありますが、久しぶりに心の底から楽しめる時間になることを願っております。
先生も避暑の際にはどうぞお越しくださいませ。ご案内も含めて精一杯のおもてなしをさせていただきます。
近々、所要でそちらの近くを訪れる予定です。先日の者を遣いにやりますので、もしお時間が合うようでしたら薬と一緒にお返事いただけたらと存じます。
暑い日が続きますが、健やかな日々を過ごされますよう。
かしこ
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「随分と物持ちがいいじゃない? 今に始まったことじゃないけど」
「そう思うか?」
「保存のために魔法を使っておる故、そう見えるのも当然ぞ?」
「はぁ…二対一は分が悪いな」
パタンと小さな音を立てて閉じられた本は丁寧に装丁が施され、小口にも色あせた様子は見られない。
大量生産品ではないようだが、それにしても作られてから時間がたっていないように見えた。
長期保存を可能にする魔法を維持するには定期的にかけ直す必要がある。難易度も決して低いものではないため、美術品や骨董品に使用されてきた魔法だ。手間と時間を考えれば手紙一つにわざわざ使うようなものではなかった。
やれやれと首を振るが、その口元には笑みが浮かんでいる。自覚はあるのだろう。
からかう側の二人も非難している雰囲気は皆無だ。
「懐かしがって読むのは構わないけど、アタシはもうすぐお仕事だから。あとは一人でよろしく」
「此方も用がある故」
「んー… まぁいいよ。まだまだ虫干しも終わりそうにないし、ゆっくりやるさ」
指差した先には本屋と見まごうほどに積み上がっている。そのどれもが手に持ったものと同じように一見して安物ではないとわかるものだった。
それだけのものを改めて事細かに見る機会も少ないだろう。それを考えれば眺めてしまうのも無理はなかった。
だから片付かないとも言えるが。
「彼方の部屋を一つ使えばよいというに」
「これはこの店のお客様からだから持っていくつもりはないよ」
「それならせめてしまう場所は選んでほしいものね。部屋に入るのも出るのも気を使うじゃないの」
「用事あるか?」
この部屋に物を置いているのは一人だけ。把握しやすいように置いているため、わざわざそんな気を使ってまで出入りする理由が思いつかない。
「窓際で日向ぼっこするのよ」
自信満々に胸をそらして言う。元々界隈では気品がある見た目と言われているせいか、流し目がとても様になっていた。
この部屋は前の主がぶち抜いて作った少しだけ大きめの部屋だ。南向きに大きく取られた窓は日の光も風も十分に取り込める代物だ。
物件紹介のときに彼女が目を輝かせていたのは今でもはっきりと覚えている。
「……相変わらずよの」
「……だな」
と言ってもその目的は微睡むこと。元々面倒臭がりな彼女は人の目がなければ大体の時間を気怠げに過ごしていた。
「アタシのことはいいのよ。それより掃除したら?」
小さくアクビをすると流石に付き合いきれないと言わんばかりに出ていった。
「では此方は野菜の世話に行くぞ? 晩御飯は期待してもよいか?」
「稲荷揚げはあるよ」
「重畳重畳」
カラカラと笑いながら出ていくのを見ていると、途端に部屋の中が静かになった。
自分が出した手紙の内容を事細かには覚えていないが、この手紙への返答なら悪いようには書いていなかったはずだ。
役に立てたならなによりと、今も変わらずそっと封筒の筆跡をなぞった。
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拝啓
秋の実りも盛りを迎えましたがいかがお過ごしでしょうか。
この手紙が届く頃にはそちらは冬の香りがしていることでしょう。
先日はわざわざ訪問いただきありがとうございます。
手紙から心配はしておりませんでしたが、経過が良好のようで何よりです。
順調に行けば、年が変わる頃には不要になっているかもしれまれん。今回の手紙が最後になるといいですね。
これから寒くなることでしょう。
そちらは今年も雪が積もるのでしょうね。こちらはあまり積もることがないので、近所の子供は雪だるまが珍しいようです。かき氷のようなものだと説明しましたが、それでもよくわからなかったのか、先日頂いた絵を見ては首を傾げていました。
大きくなったら見に行くんだと言い出した行商の子もいました。
雪が積もれば手紙を届けてくれる行商の方もお休みでしょう。次の手紙は来年でしょうね。落ち着いて来年を迎えられるよう祈っております。
風邪を召されませぬよう、暖かくしてお過ごしください。
敬具
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読んでいただきありがとうございます。
第一話はおおよその構成はできておりますが、時間が取れないため週一投稿を目標に頑張っております。
少なくとも切りのいいところまでは書き上げるつもりですので、お待ちくださいますようよろしくお願いいたします。