第一話「再誕少女」/ ジコとジカク
いつぞやぶりに情熱が再燃して書き始めました。
リハビリも兼ねてなのでそのうち色々と再編集もするかと思いますが、お付き合いいただければと思います。
また舞台設定の都合上、ジャンルをハイファンタジーにしておりますが、私自身もっとしっくりくるものを探しております。指摘等があればこっそり変更するかもしれません。
私が魔法の勉強を始めるときに両親と約束をしたことがある。
やりたくないと言う理由で休まないこと。
できないを理由にやめないこと。
そして――できるようになったら教えてね。
両親はとても優しい顔をしてゆっくり話してくれた。
私は特別優秀だったわけじゃない。
魔力がどんなものなのかわかるようになるまで人一倍時間をかけ、魔法がどういうものなのか理解するのに最低でも人並みには時間が必要だった。
やめたくなることも一度や二度ではなかったけど、約束を思い出して、時には泣きついて続けた。
できることがゆっくり増えていった。
初めて使えるようになった水魔法で花壇の花に水をまいた。農家の視察についていったときは大豆の収穫を土魔法で手伝った。ようやく火魔法が使えるようになったときはお風呂を沸かしてみた。風魔法で掃除したときは失敗して怒られたけど。
どれもはっきりと思い出せる。
「――それでは今日はここまでにしましょう。収束もうまく行くようになってきましたね」
「ありがとうございましたっ……」
荒くなってしまった呼吸を落ち着け、どうにかそれだけ絞り出した。
魔法の授業はとても大変で、毎回体力をごっそりと持っていかれる。
「明日は水魔法の応用でしたね。水魔法は応用が多いので色々試してみましょう」
「はい」
もう日がかなり傾いていた。
時間を忘れて夢中になれる時間がとても楽しい。もっとこの時間が続けばいいのに、と思ってしまうほど。
「それにしてもあなたは本当に優秀ですね。そろそろ教えることが少なくなってきたのですが?」
「そんなことはありません。収束もまだまだ不安定ですし、まだ身体強化とか教えていただいていない分野もあります」
「属性魔法を教えるように言われているので……」
「頑張ります!」
属性魔法を、ということはそれ以外は教えないように言われているのかもしれない。何度も話をしていてなんとなくそんな気がしていた。
先生はそれに対して否定も肯定もしていない。
実際、力仕事を生業にする人や前線の兵士が使うことの多い身体強化はそういった荒事で力を発揮しやすい。それだけを見れば女の子が身体強化を習うなんて、という気持ちも理解できた。
(でも覚えられれば色々出来ることが増えるのに……)
男性に比べて女性は身体が小さいのはどうしようもなく、体力も筋力も少ない。勝とうというつもりはないけれど、足手まといになるような立場でいるつもりもなかった。
(絶対に説得しよう……!)
どうやって説得しよう。正面から訴えるだけでは弱い気がする。なにか考えなければと、改めて気合を入れ直した。
「それではまた明日。魔力をかなり使ったので今日はゆっくり休んでくださいね?」
中庭から玄関までのほんの少しの時間も魔法について話しながら歩いた。今日もあっという間に授業が終わってしまった。
「お嬢様、夕食までにお風呂に入られてはいかがでしょう」
午後はすべて魔法の授業に当てられていた。今日も実技だったのでもうクタクタだった。
夕飯でお腹がいっぱいになってしまえば、あとはきっと寝るだけだろう。侍女の提案はもっともだった。
「そうするわ。着換えを持ってきてね?」
「承りました。出られる頃にお持ちします」
まだ春を迎えていないこの街で燃料は貴重だ。公共事業として大衆浴場には安く卸されているが、営業時間が限られているため毎回芋洗いのようだと話に聞いている。
幸いにもこの家には小さいながらも浴場があった。
一階の一番奥にあるため外の様子を気にする必要がないこの場所は、数少ない憩いの場だ。
春が近くはなっているがまだ寒い。冬場に集めた薪もそろそろ減ってきている。
(次のお風呂はいつなのかな…)
今日はたまたま家族が揃っていたからお湯が張られたが、明日以降はしばらく揃うことはなさそうだった。
浴槽の半分にも満たないお湯に身を沈め、ようやく長い長い息を吐いた。空に視線を向ければ、夏の雲のように湯気が揺れている。時々ポタリと音をたてる水面が揺れた。
疲れていた体に温かさが染み込んでいく。時間を忘れるこの時間は幸せな時間だ。
(明日は何を教えてもらえるのかな)
魔法を使えることと、魔法使いであることには明確な区別がされていた。
魔法使いには魔法を使いこなすことが求められ、厳しい審査の末に認められる。そのため、教師を探すのも雇うのもとても時間がかかったらしい。いい人だったのは運が良いと思う。
国が登録している魔法使いは人口の約千分の一。軍に組み込まれている人を除けば農村部はゼロ。それなりの街で一人いるかいないか。大きな街で数人というところだろう。
父も一応魔法を使うことはできるが、せいぜい種火を起こすとかコップ一杯の水を出すくらいで「魔法使い」としての登録はされていない。
それほどに貴重だった。
(私はどのくらいで登録されるのかな……)
練習中の今は指導の下でしか使うことが許されていない。早くみんなの役にたてるようになりたかった。
ぼんやりと夢想する。魔法使いとして笑って何かをしている未来を。きっと向けてくれるであろう笑顔を。
何をやってみたいかと言われれば、まだなにも思いつかないけれど、やれることはいっぱいあるはずだと信じている。得意な水でも、苦手な土でも求められればやってみたかった。
いろいろな場面が湧いては流れ、まぶたの裏に浮かんでは消えていく。
そこには活躍を喜んでくれる両親がいて友達がいて、もしかしたわうら私も誰かに魔法を教えているかもしれなくて、
そうして――
読んでいただきありがとうございます。
第一話はおおよその構成はできておりますが、時間が取れないため目標は平均週1程度です。
少なくとも切りのいいところまでは書き上げるつもりですので、お待ちくださいますようよろしくお願いいたします。