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第一話「再誕少女」/ 始まりの日

いつぞやぶりに情熱が再燃して書き始めました。

リハビリも兼ねてなのでそのうち色々と再編集もするかと思いますが、お付き合いいただければと思います。


また舞台設定の都合上、ジャンルをハイファンタジーにしておりますが、私自身もっとしっくりくるものを探しております。指摘等があればこっそり変更するかもしれません。

 その日のことは今でも忘れることができない。幸せな日々に突如湧いた、苦悩の始まり。


 冬にしては珍しく雪が止み、風もない穏やかな日だった。見た夢が怖いとぐずる娘とともに庭に出て見れば、夜が開けようかと重たい瞼を上げ始めていた。ダイヤモンドダストがキラキラと輝いていて、手が届きそうだとはしゃぐ姿娘のが今でも瞼の裏によみがえる。

 思えばそれが間違いだったのかもしれない。


 朝食まで少し時間があるからと木陰の椅子に座り、昨日降った新雪で遊ぶ娘を見ていた。冬は家の中で過ごすことが多いからだろう。新雪に触ることも少ないから楽しそうに飛び込んでいく娘がかわいらしかった。


「お母様~、降ったばっかりの雪ってこんなにふわふわなんですね!!」


 街の中でも比較的高台にある屋敷からは街を見下ろすことができた。まだ朝早い時間だからだろう。港はともかくとして、大通りもまだ雪が多く見えた。ところどころ煙が上がる家も見えるのでもうそろそろ賑わいだすのだろう。


「お母様、とっても冷たいです!」

「ふふ……そうね。雪うさぎとか作ってみる?」

「うさぎさん!?」


雪の重みに耐えかねたのか、隣を見ればまだ瑞々しい小振りな南天の枝が落ちていた。

手を伸びしてみれば実は六個ほどついている。目に使うにはちょうど良さそう。


 雪をアーモンド型に固めて葉っぱで耳を、実で目を作ってあげた。

 少しずつできていく雪ウサギに、手を握って目を輝かせる。


「わぁ! かわいい!!」

「ちょっと大きくなっちゃったわね」

「お父様みたい! ねえ、お母様と私もつくって!!」

「じゃあ私がリリを作るから、リリは私を作ってくれる?」

「うん!!」


 リリが大きい雪ウサギの横に一回り小さいものを作った。形にもこだわっているようで、雪を足りたり削ったり。顔は真剣そのものだ。納得がいったようで耳と目をつけて完成。丁寧に作られたなめらかに丸いうさぎがそこにあった。

 せっかくだから二匹に重なるようにしてとても小さな雪ウサギを重ねた。


「家族だね!!」

「そうね」


 興奮しているリリは頬を紅らめて白い息を吐く。もう、悪夢のことなど覚えていないだろう。


「……あら? 手が真っ赤じゃない。もうそろそろ朝食も準備ができるころだし、入りましょう」

「はーい」

「ちゃんと手を拭くのよ?」


 娘の手を取るととても冷たかった。少し心配になるくらいに。

 朝食の前にちゃんと体を温める必要がありそうだった。


 もう雪は降りそうにない。日差しも強くなってくるだろう。 雪ウサギが溶けてしまっては悲しむかもしれないが、あまり時間はない。夕方まで予定が詰まっている。予定が終わったらリリとまた見に来ようと決めて扉を閉めた。





夕方になってもリリの興奮は覚めなかった。よほど印象的だったのだろう。昼寝の時間を挟んでいるが、その後も時間を見つけては中庭に足を運び、飽きずに雪うさぎを眺めていたらしい。


「リリ、もう少ししたらお夕飯よ? そろそろ入りましょう?」


もう日が沈むというのに飽きもせず雪うさぎを眺めていた。白いコートを着てしゃがみ込む様子はまるで雪だるまだ。


「お母様、うさぎさんたちにお家作ってあげたいです!」


木の下に身を寄せ合っている雪うさぎはたまたま木陰だったこともあり、溶けたりはしなかったようだ。それでも風で飛んできた雪を被っていたので、傍目には身を寄せ合って凍えているように見えた。幼い娘にはそれがかわいそうに見えたのかもしれない。


夕飯まで長くないとは言え時間もあったし、なにより子供らしい考えを否定する気はなかった。

朝と同じように椅子に腰掛け、かまくらの話をした。


「まあるいお屋根を作るの!!」


小さな握りこぶしを二つ作って気合を入れる様子が可愛らしい。夢中になって雪を集めだした。ただ雪を集めただけで作れるものではないが、必要になったらアドバイスすればいい。


空を見上げれば日中には見られなかった雲がぽつりぽつりと浮いている。明日もきっと晴れるだろう。このくらいの雲なら心配してくて良さそうだ。


ペチペチという音に従って固まっていく雪。ところどころ手の形にへこんでいるのはリリが作った印だ。崩れない程度に固くなるか不安ではあるが、それは後々でいいだろう。


「お母様、どのくらいにすればいいかしら?」

「そうね…うさぎさんたちがゴロゴロできるくらいに大きい方がいいんじゃないかしら?」


目を向けてみればうさぎたちと同じくらいの大きさの山。屋根にするために内側を削る程の大きさもなかった。

それとなくもっと大きくするように伝えた。


「そうします!」


子供一人では時間がかかりすぎるため、断りを入れてから手伝う。隣ではうんしょ、と口に出しながら必死に雪を集めていた。

直ぐにちょっとした山になった雪を今度は二人で一緒になって固めた。


「どんなおうちにしたい?」

「みんななかよしのお家がいいです!!」


勢いよく振り返った娘の頭には雪が乗っていた。本人は固めることに夢中で気づいていないようだ。頬を赤く染める可愛らしい様子に思わず笑顔になる。

そっと雪をはらい、頭を撫でた。


「そうね。仲のいい家族がいいわね」

「えへへ…」


そうして固まった雪を今度は雪をそっと掘り出して、穴を開けていく。

幸いにも近くには庭仕事用の倉庫があり、中にはシャベルが転がっていたため道具には困らなかった。

ここからは娘にちゃんと話を聞かないと。この家を作るのは娘主導だったからだ。


「どのくらいの部屋にする?」

「うんと大きいお部屋がいいです!!」

「大きいお部屋?」

「そう。鬼ごっこできるくらいに!」


与えている部屋は決して狭くないのだが、それに比べてもこの家のエントランスやリビングはたしかに広い。淑やかさを身に着けさせるために、普段はしつこいくらいに遊ばないように言い聞かせていた。

こういうときくらいは話に乗ってあげるべきだろう。


「それは楽しそうね」

「うん。絶対楽しいです!!」

「でも夕食までもう時間があまりないから、今日は皆を入れてあげるところまでね? 続きは明日にしましょう?」

「はぁ〜い」


夢中になって穴を開けていく娘。崩れてしまっては悲しむだろうと、邪魔しないように壁を固めていくのは大変だった。


「リリ、そろそろ入りそうだから皆を入れてあげましょう?」

「はい!」


掘るのに使っていたシャベルを横にポイと投げ出すと、大きい雪うさぎから慎重に運び始める。

ここはすべて任せるべきだと思った。


「まずはお父様うさぎさん。奥で皆を見守ってるの」


主人は今日も仕事で外泊している。帰ってくるまではあと二日ほど。娘も土産話を楽しみにしていた。

他のうさぎが倒れないように器用に持ち上げる。


「その横にお母様うさぎさん。お父様うさぎさんとくっついてなかよさそうなの」


あらあら、どこかで見られちゃったかしらね?


娘が眠ったあとはソファでコーヒー片手にくつろぎながら話をすることは間々あった。目を覚ました時に覗いてしまったこともあったのかもしれない。

上に積もってしまった雪を優しく落として耳の葉っぱを整える。かまくらに入ってしまえばそんな心配もなくなるだろう。


「さいごはーー」


外に残っている一羽に近づき、他の二羽のように目の位置や耳の形を整えると周りの雪と一緒にすくい上げた。


「小さなうさぎさんは二人の間〜」


そこにあったのは理想的な家族の姿。しゃがんで覗き込む娘はとても嬉しそうだ。頬の紅さがそれを物語っている。雪をあれだけ触っていたのだから、きっとまた手も同じように真っ赤になっていることだろう。


「お家もできたから、入りましょう? 夕飯の前に手を洗わないと」

「はーい」


色々なところで子供の面倒を見るのは手間がかかると言う話を聞くが、リリに関してはそんなことはない。メイドからもそういったことは全然聞かない。子供特有のそれらしい我儘こそあるが、話をすればちゃんとわかってくれた。


先に扉の手前で雪をはたく。せっかくきれいにしている家の中を雪で濡らすのは申し訳なかった。


「奥様、もう大丈夫かと」

「あらありがとう。リリの雪もはらわないとね。あの子、夢中になっていたから」

「? リリ様も外におらるのですか?」


何を言っているのだろう。わざわざ雪が積もる寒い中を一人で散歩する趣味などない。そんなことをするくらいなら暖炉の前で読書をしていたほうがいい。寝ている娘を眺めているだけでもいい。

いくら寒さに慣れているのは言っても、体を冷やすことを自ら選ぶことなど少ない。ここに住む人々は寒さの恐ろしさを知っている。


「何を言っているの? リリならそこにーー」

「? どちらですか?」


 振り返ってみるとそこは白一色。五分と目を離していないであろう間に姿が消えていた。


「っーー リリ!!?」


急いで引き返す。そして、息を呑んだ。雪の上で四肢を投げ出して倒れ込んでいる。コートの色がうまく雪に紛れてしまい、近づかなければわからないほどだ。


「ねぇ! どうしたの!? リリ!? リリッ!!?」


中庭に響く声が聞こえていないはずがない。だというのに返事どころか身じろぎ一つ見られない。

様子がおかしいことはわかるのに、それがなぜかはわからない。

辛うじてわかるのはりんごのように顔を赤くした娘が、雪に濡れていることに気づくことなく横たわっていることだけだった。


娘の溢れんばかりの笑顔はこれが最後だった。あれからこの日のことばかりを夢に見る。

読んでいただきありがとうございます。

第一話はおおよその構成はできておりますが、時間が取れないため毎日投稿は難しいかもしれません。

少なくとも切りのいいところまでは書き上げるつもりですので、お待ちくださいますようよろしくお願いいたします。

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