異世界リサイクル外伝 『子守唄の優しい夜』
※できたら、お酒を飲んでお読みください(^^)
多分、コレ読むの大人の方だけだと思うので笑
オレがまだ日本にいた頃。
一回だけ、榎田社長と中原さんとオレの三人で飲んだことがある。
榎田社長と中原さんのお二人も、誘い合わせて飲むのは今回が初めて、ということだった。
オレ達三人は、榎田社長オススメの焼き鳥屋に行き、三人ともたらふく喰って飲んだ。
尤も、酒に弱いオレだけはウーロン茶である。
そして、三人で色んなことを話した。
オレ達がその時なにを話したかは、オレはもう覚えてはいない。
ただ、『すごく楽しかった』ことだけは、よく覚えている。
二次会のスナックのカラオケで、榎田社長と中原さんはお互いの選曲ですっかり意気投合していた。お二人が選んだ曲の中には、オレが知らない歌も多かった。
「世代の違いだね〜…」
と、榎田社長は言っていた。
中原さんによると、
お二人は若い頃、新聞や雑誌で
『新人類』
と呼ばれた世代だそうだ。
「こう見えて進化してたんたよ!若い頃は!」
そう言って、榎田社長は胸を張った。
ちなみに、ここのスナックのママは、
『ギリギリバブル世代』
だったそうだ。
「ヤバい歳がバレる!!」
そう言ってママは笑っていたが、ママが何歳なのかはオレには分からなかった。
「狩野さん何世代ですか?」
と、中原さんから聞かれたオレは、自分のスマホで調べてみた。
ネット検索によると、オレの世代は、
『ロストジェネレーション(ロスジェネ)世代』
というらしい。
「なにそれ、カッコいいね!!」
と、スナックのママは言ってくれた。
あまり、いい意味ではないようにオレには感じたのだが、
「バブルよりかマシじゃない?」
ママはそう言って笑ってくれた。
その頃、オレの後ろでは新人類のお二人が楽しそうに、カラオケで予約していた有名なバンドの『子守唄』を歌い始めた。
新人類のお二人は、この歌に非常に強い思い入れがあるらしく力一杯歌っている。
体を揺らしながら、まさに熱唱という感じに。
きっと、新人類のお二人にとって、この歌には深い意味が込められているのだろう。
お二人の子守唄を聞きながら、オレはウーロン茶を飲んだ。
氷の溶けたウーロン茶の琥珀色を見ながら、オレは少しだけ昔のことを思い出した。
まだ、オレがちっちゃな頃のことを。
そんなオレの顔を見ながら、スナックのママは言った。
「……多分、どんな世代にもさ、それなりに苦労はあるんだろうけどさ。いつの時代でも、苦労もなんにもない奴だ、って“他人から言われてる人”が、実はきっと一番つらいんだろうね。……なにやってるのか、自分でもよく分かんなくってさ」
そんな気がする…と、酒焼けした声でオレにそう語りながら、スナックのママはフぅ…と天井の壁際に向かってタバコの烟を吐き出した。
そして、ママは、カウンターの上に置かれている水割りのグラスをしばらく、じっ…と見つめる。
ママのその目は、水割りのグラスを見ているようでもあり、どこか遠くを見ているようにもオレには思えた。
オレはなんと言っていいか分からないので、カウンターに置いたウーロン茶のグラスを見ながら、黙ったまま静かにスルーした。
なんと言っていいか分からないことに対して、その場の思いつきで声をかけるのはオレは好きじゃない。
そんなオレの態度を、
「……合格!!」
と言って、ママはオレに微笑んでくれた。
オレが何に合格したのかは分からないが、とにかくギリギリバブル世代のママは、ロスジェネ世代のオレに対して優しく微笑んでくれていた。
ちょうどその時、オレの後ろでは子守唄を合唱していた新人類のお二人が、一曲歌い終わったところだった。
くぅぅ…と目を閉じ拳を握りながら、お二人は名曲の余韻に浸っている。
「よーっ!日本一!!」
ママは力一杯に両手を叩いて、お二人の歌いっぷりを褒めそやした。オレもママを真似して力一杯、手を叩く。
お二人の歌はお世辞にも上手とは言えなかったが、この歌を歌っている時の新人類のお二人は、確かに日本一かもしれなかった。
ロスジェネ世代のオレにも、その子守唄は、いい歌だ…と、感じられる。新人類のお二人程じゃないかもしれないけれど。
子供の頃には気付けなかったこの歌の本当の良さに、オレはこの時初めて触れたような、そんな気がしていた。
オレは他の誰にも聞こえないように、口の中だけでつぶやいてみた。
(子守唄…か)
(……きっと誰の心にでもある誰にも語ることのない『もやもや』は)
(歌って忘れて、眠るしかないんだろう……)
カウンターを挟んでオレの向かい側に立っているママには、もしかしたらオレのつぶやき声が聞こえていたかもしれない。
でも、ギリギリバブル世代のママは、それを『優しくスルー』してくれた。
異世界リサイクル外伝
『子守唄の優しい夜』
了
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