3話「魔王との対面」
山のように大きな魔王が格子の向こう側にいる。
もし何かされたら、きっと、私一人では抵抗することはできないだろう。
それでもできる限り平静を装う。
こんな時だからこそ、弱いところを見せるわけにはいかない。
「お主が間違いで捕らえられた女か?」
魔王は第一声問いを放ってきた。
「一体何なのですか? このようなことをして。誘拐など犯罪ですよ?」
「何やら偉そうな女だな」
「間違って捕らえたと分かっているのなら、まずは謝ってください」
「……すまぬ。部下が間違いを」
おや? 意外と素直に謝ってきた。
……意外と悪い人じゃないのかも、なんて思って、内心首を横に振る。
騙されては駄目。
相手は人間じゃない。
信じてはならない。
「悪かった」
彼はそう言って頭を下げた。
「……あ、あの、分かりました。もういいですから」
少し申し訳ない気がしてそう返す。
謝ってほしい。そう思っていたことは確かだ。けれどもこうして何度も謝罪されると、それはそれで何とも言えぬ気分にもなってしまうものだ。まるで無理に謝らせているかのようで、胸の内に罪悪感に似た何かが生まれてくる。
「我が名はボンボン、ハイレンジアの魔王だ」
「ボンボン!?」
「なぬ?」
「あっ。い、いえ、すみません。少し……」
「名を知っていたか?」
「いえ、ボンボン、って、お菓子みたいだなと思って」
「ふぬ!?」
いや、驚き方。
「すみません。でも、良いお名前ですね」
「お、おう……」
何とも言えぬ空気が漂ってしまう。
「それで、そろそろ解放していただけますか?」
「それが……だな」
「何でしょうか」
「一旦我が国へ入った者はしばらく出られない決まりがあるのだ」
まさかの事実に。
「え!? 嘘でしょ!?」
思わず叫んでしまった。
つい素が出てしまったが、まぁ、そのくらいは仕方ないだろう。
彼に好かれなくてはならないわけでない。だから少々やらかしても問題なしなことにしておく。もうあれこれ気にはしないことにしよう。いちいち考えていたらどうにかなってしまう。
「すまぬ」
「そ、そうですか……」
「だがここに置いておく気はない。ここは寒いだろう? 間違いで連れてきてしまった人をこんなところに置いておくのはさすがに無礼だ」
それはそうよね、なんて、思っても言えるわけがない。
「ということで、今からお主をここから移動させる」
「は、はい。でもどこへ」
「城だ」
「城!?」
「落ち着け落ち着け」
「すみません」
なぜだろう、よく分からないけれど――こうして彼と喋っていても嫌な気持ちにはならない。
その後私は城へと移された。
◆
城内の一室、私に与えられた部屋は想像していたより華やかな部屋だった。
カーテンつきベッド、姿見、時計、カーペット――どれも高級感のあるものだ。
「アイリーン様、ナニカ必要ナモノガアレバメイドヘ伝エテクダサイ」
「分かりました。ありがとうございます、モッツァレさん」
部屋の中で一人になれて、やっとほっとすることができた。
緊張しきっていたせいか逆に穏やかになれると違和感がある。
何だろう、この感覚……。
しかし、こんなことになってしまうとは驚いた。
まさか魔族に連れ去れるなんて。
それも人違いで。
それにしてもメルリナは酷いことを色々していたのだなぁ、と思っていると、段々私がされたことも思い出してきてもやもや。
「これからどうしよう……」