2話「フードをとると?」
意識を取り戻した時、私は知らない場所にいた。
どことなく埃の匂いがして、床は衣服越しに触れても冷たい――少し見回して、ここが牢屋のようなところであると気づく。
「私、一体……」
誰もいないのに一人意味もなく呟いた。
無意識のうちに声が出ていたのだ。
ちょうどその時、格子の向こう側に二足歩行する何者かが見える。
子ども? 身長的には大人ではなさそう。でも、フードを被った子どもがこんなところに出入りするものか? いたずらっこならあるかもしれないけれど。でも、牢など、普通は幼いうちに親から勝手に行かないように習うだろう。たとえ家の近くにあったとしても。
くるくる脳を動かしていると。
「オメザメデスカ?」
それはそんな風に確認してきた。
「は、はい……あの、ここは一体?」
そう返すと、その人物は灰色のフードをゆっくりと外した。
すると驚いたことに!
丸い顔についた目は一つだけだった。
思わず唾を呑み込む。
「ココハ、ハイレンジア王国。魔王様ノ統治ノモト、オオクノ魔族ガトモニ暮ラス国デス」
「魔、族……?」
「エエソウデスソウデス、我々ハニンゲントハ少々チガッタ種族ナノデスヨ」
「そうですか……」
意味が分からないけれど、でも、言葉そのままの意味だと解釈して話を聞いておくしかない。
「それで、私はどうしてこんなところに入れられているのですか?」
「ア……ジ、ジツハデスネ……」
その後一つ目の彼から話を聞くことができた。
何でも、魔族は私を捉える気はなかったそうだ。本来の目標は私ではなくメルリナ・ディル・ブリッジ――つまり、私が先日までいたあの国ブリッジ王国の姫だったのだそう。
ハイレンジアは、メルリナの勝手な理由による指示によって、これまでにいくつかの村を焼かれたり潰されたりしたことがあるらしい。
その恨みを晴らすべくメルリナを拘束する予定になっていたのだそうだが――髪色が同じだった私がメルリナと勘違いされここへ連れてこられた、という話みたいだ。
なんてこと!
一番嫌いなあの人に間違われるなんて!
……だが情報が少なければ間違っても仕方ないか。
「ワタシノナハ、モッツァレ。見テノ通リ、ヒトツメノ種族デス。魔王様ノ世話係ヲイタシテオリマス」
「そうですか」
「モウジキ魔王様ガココヘコラレル予定デスノデ、ドウカ、ヨロシクオネガイシマスネ」
「え!?」
「ナニカ?」
「あ……あの、魔王様って、怖く……ないですか?」
するとモッツァレはふふふと笑う。
「エエ! スコシ冷タク見エルオカタデスガトテモ優シイオカタデスヨ!」
「そうですか……分かりました、ありがとうございます」
とても優しい、か。
彼が嘘を言っているとは思えない。
でもその言葉を真っ直ぐに信じるのも不安で。
どうしても信じきれない。
信じるべきだし、信じるしかない、そんな状況ではあるのだけれど。
それから数分が経って。
やがて、目の前に獣族の大きな男が現れた。
二足歩行の獣人。
簡単に言えばそんな感じ。
グレーの体毛は全身を覆い、彼を獣のように見せている。
冷ややかな視線を放つ二つの瞳は意外にも美しい緑色でしかも透き通っていて――まるで宝石のようだ。
しかし、右目には傷痕があって、見た目のいかつさを上昇させている。
私は今緊張のてっぺんにいる。
心臓は破裂しそうなほどに音を立てて、耳の奥の血管まで破れてしまうそうなほど。
それでも彼から目を逸らすことはしない。
悪いことは何もしていないのだから、逃げるような行動をとりたくはない。