13話「重ね合わされた道」
あれから数年が経ち、ハイレンジアはブリッジ王国の国土も取り込む大きな国へと変貌を遂げた。
首都は元々ハイレンジアの首都であった場所だが、今は、両国の民が入り混じりながら暮らす国となっている。
大きな国となったハイレンジア。
そこでは誰もが種族の壁を越え手を取り合い未来へと歩んでいる。
魔族も、人間も、同じ国民として生きているのだ。
そして私もまたそこで暮らしている。
一人の人間として。
そして。
――王であるボンボンの妻として。
「イヤァ、驚キデシタヨ。マサカ、貴女様が我ラガ主と結バレルダナンテ……ソンナコト夢ニモ思イマセンデシタ」
間違って誘拐された時は災難に巻き込まれたなぁと思ったくらいのもので、魔王の妻となる可能性なんてちっとも考えてみていなかった。
けれども結果的にそうなった。
私はボンボンと種族を越えて結ばれたのだ。
「そうですよね。私も同じです。私も、ボンボンさんと夫婦になるなんて……そんなことは想像していなかったですよ。でも、結果的にはとても良かったです」
ただ、幸運だったのは、誰にも反対されなかったことだ。
普通種族が違う者同士の結婚となれば反対意見が出そうなものだが、ボンボンと私の結婚に関しては意外とそういうものは出てこなかった。むしろ周囲が祝い温かく見守ってくれていて。だから話は順調に進んだ。
「ソウ言ッテイタダケルト少々照レマスネ」
「モッツァレさんにも感謝しています、色々お世話になって」
「コレカラモ日々サポートシマスヨ!」
特にモッツァレは色々細かい協力をしてくれた。
だから彼には感謝している。
彼がいてくれたのといてくれなかったのでは物事の進みが大きく異なっていただろう。
ちょうどその時、扉が開いて。
「いるか? アイリーン」
ボンボンがやって来た。
「あ!」
「おお、モッツァレと一緒にいたか」
「ええ」
「今日花が届いたぞ」
「花?」
「お主が好きと言っていた青い花だ」
「あ! アレ!」
青い花、というのは、先日一緒に散歩していた時に庭で咲いているのを目撃した花のことだ。
「そうだったのね」
「見に行こう」
「ええ! 行くわ! ええとじゃあ、モッツァレさん、私はこれで」
一礼し、ボンボンに向かって歩いてゆく。
「イッテラッシャイマセ」
モッツァレは今日も温かく見送ってくれた。
ちなみにブリッジ王家はというと、戦争で滅んだ。
王族の血を引く者は処刑された。
その中にはもちろんオーウェンも入っている。
どんなに威張っていても、王子として生きてきていても、根本から崩れ去る時には無力なものだ。
そういえば。
オーウェンは、処刑が決まった日から実行される日まで、ずっと泣いていたそうだ。
そう聞くと少し可哀想な気もする。死にたくなくて泣いていた、なんて。でも、だからといって、同情しようとは思わない。彼は私の心を護ろうとはしてくれなかった、だから、そんな彼の心が傷ついたとしても彼に心を寄せようとは思わないのだ。
「何を考えている?」
並んで廊下を歩いていると、ボンボンが視線をこちらへ向けてきた。
視線を向けられている。
そう感じるとどことなく圧も感じられて。
けれども嬉しさもある。
胸の内に小さな灯が生まれるような、ほっこりできるような、そんな感覚がある。
「秘密」
どことなくむずがゆいような幸福、こういうものこそそっと抱き締めていたい。
「ぬぬぅっ!?」
「驚き過ぎよ」
「ふぬ!?」
「何も言えていないじゃない……。そうね、でも、花のことは気になっているわ」
特に真面目に。
特に面白く。
そんな風に生きていきたい。
「おお! 気に入っていたものな!」
「ええ」
彼と共に、未来へ。
◆終わり◆




