11話「憎しみもまた自然なもの」
「アア! 我ラガ魔王様! ヨカッタ、ゴ無事デ!」
あの後、ハイレンジアから勝手に出たボンボンを探しにきたモッツァレと合流した。
「モッツァレか」
「ハイ! イキナリイラッシャラナクナッタノデ驚キマシタ! 事件カ何カカト思イハラハラシマシタヨ!」
「すまぬ、勝手な行動を」
「モウッ! 皆胃ヲイタメテイマシタヨ!」
「すまん……」
ボンボンがモッツァレに叱られていたのが印象的だった。
魔王なのに、何だか子どもみたいで。
不思議な感じがした。
◆
あれから、私は実家で両親と暮らしつつ、時折訪ねてきてくれるボンボンとの交流も続けるようになっていった。
今日もボンボンとお茶をしている。
「先日、メルリナが捉えられた」
「そうなんですか……!」
ボンボンお気に入りのハーブティーを二人で飲めば、心の距離は自然と縮まる。
「本来人に話すべきことではないと思うが、お主だけには伝えておこうと思ってな。ただ、秘密にしておいてくれよ」
「それはもちろん。言いふらしたりしません」
「ならありがたい」
「それで、捕まったメルリナさんはどうなるのですか?」
「確定はしていないが、恐らく、処刑されるであろうな」
殺伐とした言葉。
思わず繰り返してしまう。
「処刑……」
そんな風に。
繰り返したことに意味などない。
ただ自然とそんなことをしてしまっただけ。
「恐ろしい、と思うか?」
ボンボンの視線がこちらへ向く。
「……そうですね、まぁ、馴染みはないので」
「そうだな」
「でも、私、メルリナさんに関しては正直可哀想とは思いません。あの人は酷い人ですから」
他者の悪口を言う女なんて嫌われそうだけれど――でも本心は隠せないから仕方ない。
私を地獄に叩き落そうとした女。
メルリナ・ディル・ブリッジ。
たとえ生まれ育った国の姫だとしても、良い感情など向けられるはずがない。
それに。
そもそも。
彼女の行いが、私の中に彼女への黒い感情を作り出したのだ。
「憎いか? メルリナというあの女が」
「そうですね、正直、そういう思いもあります。残念ながらどうやっても好きになんてなれそうにありません」
「ま、それもそうであろうな」
「悪い女と思いますか?」
「いや。そうは思わん。……誰しも少しくらいはそういった感情を抱いているものだ」
少し間を空け、続けるボンボン。
「我もあの女には憎しみを抱いておる」
その口調は明るさのないものだった。
私と彼以外誰も存在しない部屋、重苦しい空気が充満する。
それでも聞こうと思っている。たとえ明るいことでなくても、だ。なぜなら、彼の気持ちを知りたいから。彼のことなら何だって知ってみたいと思うから。だから、どんな内容だとしても、彼のことなら聞いてみたい。
「己の欲望のためだけに我が国に被害をもたらした、あやつを許しはしない」
その日は別れるまで曇り空のような空気のままになってしまった。
でも別れしなだけは。
お互い笑みを浮かべて。
「今日はくだらぬ話を聞かせてすまなかったな」
「いえ。また色々聞かせてください」
「また来る」
「はい! いつでも。待っていますね」




