10話「手当てを」
取り敢えずボンボンを家へ連れて帰って、傷の手当てを行うことにした。
「じっとしていてくださいね」
「お、おう……」
人間とは異なる容姿の持ち主である彼を家に連れていったものだから両親には驚かれた。でも事情を説明したら二人は理解を示してくれた。二人の理解があって、今、こうして彼の手当てをできている。
「お主、慣れた様子だな」
ボンボンは感心しているようだった。
今は勇ましく恐ろしい彼ではない。
優しい彼が戻ってきたみたいで嬉しい。
「手当ての方法は学校で習いました」
話で聞いたことはあっても、それを実際にできるのかというと話は別。ただ、それでも、時にはやらなくてはならない時だってある。知識しかなくても、それでも、だ。経験がないとしても、そう言って何もしないでいるわけにはいかない。
「習うだけでできるものか?」
「ぶっつけ本番というやつですね。でもやるしかないですから」
「そういうものか」
「ごめんなさい、素人で。あちらの国でだったらもっときちんとした治療を受けられたのに」
「いいや、そういうことを言いたいわけではない」
そんな風に言葉を交わし合っているうちに手当てはおおよそ完了した。
「感謝、している」
素人にしては上手くできた方ではないか?
もちろん、そもそも傷が浅めだったというのもあるけれど。
「ふーっ! できました! これでどうでしょ?」
「見事」
「良かったです! あ、でも、怪我させてしまってごめんなさい……」
「いやそれは気にするな」
「……間に入ってくださってありがとうございました」
ちょうどそこへ母がやって来る。
どうやら気を利かせてハーブティーを二人分持ってきてくれたようだ。
しかし母は長期滞在する気はないようで。
やることだけやって「ごゆっくり」と言うとそそくさと部屋から出ていってしまった。
「これは、茶、か」
「はい、ハーブティーですね。飲んでみてください」
「おお」
ボンボンは薄いティーカップを割らないよう慎重な手つきで持ち上げ、少し匂いを嗅いだ後に、その中に注がれている液体を口腔内へ送り込んだ。
「こ、これは……美味!!」
急に瞳を煌めかせる。
「好みでした?」
「美味!!」
ボンボンはそれしか言えなくなっている。
恐らく、脳内がその単語でいっぱいになってしまっているのだろう。
「良かったです」
私が淹れたわけではないけれど、でも、こうして話題にできることが発生してくれて良かった。
ナイス、母!
「この国にはこのような美味しい茶があるのだな」
「よく飲まれている安いものです」
「安いのか!?」
「もちろん健康に影響があるような劣悪なものではないですけど、高級品ではないですね」
「高級品ではない、か……しかし美味だ」
「気に入っていただけたなら良かったです」
「うむ」
それから、何がどうなってあんなことになったのかを聞かせてもらった。
ボンボンはたまたまこっそりこちらの国へ来ていたらしい。
で、その目的は、私がきちんと家へ帰って暮らせているかを確認するためだったそうだ。
そんな時、私がオーウェンに絡まれているのを発見して。
見て見ぬふりはどうしてもできず、間に割って入ることを決意したのだそうだ。
「それで来てくださったのですね」
「ああ」
「巻き込んでしまって申し訳ないです、何だか……。でも、本当に助かりました。あのまま話が続いていたらきっともっとややこしいことになっていたと思います」
「お主の力になれたなら良かった」
「本当に! ありがとうございます!」
もう会うことはないと思っていたけれど――またこうして顔を合わせることができて嬉しい。




