対策室からの命令
あらすじ
碇浜かなえは、大ヘビを使える少女。事件を起こした事で警察から監視されていた。かなえは監視先の家から家出する。玲子は警察に連絡するが静観するように言われた。友達から不信を受けながらも玲子は従う事にするが…。
世間では隕石の話題で持ちきりだ。隕石の軌道が若干ずれると言われている。私はそんな事があるのかな程度で考えていた。
「おはよー」
学校の机に座っているとクラスメイトの舞子が元気よく挨拶する。私は手をちょっと上げてみせた。憂鬱だ。碇浜かなえが心配だ。食事はどうしている?眠る所は?学生はネットカフェに泊まれる?私はぐるぐると埒もない事を考える。無駄なのに止められない。私はこんなに友達想いの人間なのか自分ですら不信に感じる。
放課後は舞子は部活動、八重はバイトで稼いでいる。私は帰宅部。前はかなえと部活動していたが、今では、顔を出す気にならない。
学校を出ると従兄の天之宮武雄が立っていた。
「警察から呼ばれた」
武雄がいつものようにむっつりと私を見ている。不機嫌なわけではない。それでも機嫌が良さそうに見えない。億劫に感じながらも私はうなずく。
「ねぇ?怒られたの?」
「いや別に…」
警察へ行くために歩く。武雄に責任は無い。警察に怒られるわけもないが、足取りは重い。叱られに行く感じだ。武雄はいつものようにうつむいて歩く。彼も霊能者としての力を疎ましく感じる?私はこの力は持て余している。その力が無かったらどうなる?単に暗い娘なだけで取り柄もない。友達とか出来たのかな。
「玲子、悪い知らせかもしれない、覚悟してくれ」
武雄がつぶやく。私は不安になる。武雄の腕に触れたい。私は我慢する。甘えた所で何も変わらない。私は自分の腕を抱くように組んだ。地域の警察署に到着して、取調室に案内された。
「あなたに碇浜かなえの討伐対応を頼みたいの」
広域呪術特別対策課の敷島泉捜査官は、くたびれた様子で私を見ている。
「え?討伐?」
混乱した。いきなり過ぎる。かなえが何しているか説明もない。
「かなえが……なにかしたんですか?」
「詳細がわからない、私の個人からの依頼。保険よ」
泉捜査官は、上層部が混乱していると説明してくれた。それもかなりの早さで何かが起きている。その中心に居るのが、かなえだ。監視カメラの映像で確認すると、政治中枢部にタッチしている。
「広域呪術特別対策課しか状況を把握していない」
かなえは、特別な娘だ。彼女の呪縛は他人を操れる。催眠系の力は、どんな要求も命令できる。政治家に使えば無敵だ。
「かなえの目的は判らない、日本だけではない。外国と関係もある」
泉捜査官は国の中枢部が混乱すれば、諸外国からの武力行使にも対応できなくなる。目的を探るより先に、討伐対応で動くべきと上申したが、拒否されたと言う。
「上は小娘程度で騒ぐなと考えている。私は最悪の場合の対応をしたいの」
「私は別に何もできない。討伐って何をするんですか?」
まさか殺せと言う事か?できる訳がない。私は腰のトカゲでかなえの力をキャンセルできるが、万能ではない。一時的に呪縛はされる。もしかなえが本気で私を殺そうとしたら……彼女が私に危害を加えるイメージを想像したくない。
「あくまでも最悪の場合よ、電気ショック銃もある。気絶させて確保すればいいわ」
私は安心する。
「玲子以外は無理ですか?」
「今の所は、彼女の力を明確に無力化できるのは氷室さんだけね」
武雄が心配そうに私を見る。私は恥ずかしくてうつむく。泉捜査官がくすくすと笑う。
「仲が良くて羨ましいわ。ただ覚悟だけはして」
敷島泉捜査官は、私を見た。私はその視線をまともに受けられない。